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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女が居る世界

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28/418

8話 魔物は皆んな生きている.4


 11/25 加筆修正致しました。


「うっ…うん? 朝か……」


 コンテナの上で爆睡してたから、直射日光が瞼にダイレクトじゃん。

 目をしょぼしょぼと開けて、隣を見る。


「……ミルン? どこ行った?」


 いつもなら、おはようとばかりに、俺の腹を締め付けて来るのに、そのミルンが居ない。

 トイレだろうか?

 確か広場に、公衆トイレ的な場所有ったな。


 寝ぼけた頭を掻きながら、広場を見渡しミルンを探すと、直ぐに見つけた。

 見つけたんだ……ミルンを。


「ミルンが……」


 洗い場で、可愛い尻尾が揺れている。

 いや、そんな事よりもだ。


「……昨日使った鍋や皿をっ、洗っている!?」


 俺は目を擦りもう一度見た。

 間違い無い。

 あのケモ耳ケモ尻尾は、ミルンだ!!


「あのミルンが……っ」


 あのっ、『食べるだけです』と言わんばかりの笑顔で、豚野郎の睾丸すらも生食して、『お肉♪お肉♪お肉♪』と言い続けて来た、あのミルンがっ……お手伝いをしている!?


「……ぐすっ…うぅっ……」


 瞳から、雫が落ちて行く。

 俺は、朝っぱらから、大量の水溜りを、コンテナ上部に作っていた。


「今日は……赤飯かなぁ…米無いけど」


             


「おーおはひょうさん。なんで目あひゃいん?」


 下に降りると、聖女が下着姿のままパンを齧り、やっぱりポロポロ溢していた。

 もう見慣れた風景だよ。

 下着じゃなくて、汚い食べ方の方な。


「おはよう聖女様。ニアノールさんは、一緒じゃないのか?」  


 下着姿を見よう物なら、『殺しますねぇ』と背後から現れ、首元にナイフを突き付けて来そうなモノだが、一向に来ない。


「ニアならミルン、ズズッのお手伝いやな」


 下着姿を見られても、一切動じないその姿。

 格好良いですね。

 茶を啜りながら喋るんじゃありません。本当に行儀というか、落ち着きの無い聖女だな。

 本当に聖女なのか?

 聖女だよね?


「ヘラクレスならなんや、外に繋いどるマッスルホースに、餌やっとるで」


 村長が筋肉馬に餌……やっぱり村長と筋肉馬とは、親戚では無かろうか。


「俺も少し、手伝ってくるよ」


「いってらーっ」


 雑に見送られた。

 本当にコイツは、聖女なのだろうか。


 俺はのんびりと歩き、洗い場へ向かう。

 ミルンが肩に乗っていないと、何故か落ち着かなくなって来ている。

 あれか? 俺に刷り込みかな?

 そんな恐怖を覚えながら、歩いていたら、ふと視線を感じた。

 遠巻きに、こっちを見ている集団がいる。

 

「昨日、あんな奴ら居なかったよな……こっちじゃ無くて、目線が……洗い場?」


 とりあえず気になるので、ご挨拶にと。


「おーい、何の用だーっ?」


 手を振って、大声で呼び掛けてみた。


 その集団は、俺が声を掛けてきたのが予想外だったのか、慌てて走ってきて俺を囲み、小さい声で話しかけて来た。


「ボソッ(おい兄ちゃんっ、ちょっと静かにーっ)」


「うん?」


「ボソッ(何叫んでるんだっ、アイツらに逃げられっちまうだろ)」


「アイツら?」


「ボソッ(あらっ、アタシのタイプ))」


「触るなっ、男だろお前」


「ボソッ(兄さんも加わるかい)」


「何に?」


「ボソッ(良い金になるぜ、あれは)」


「だから、何をするんだ?」


「「「「「あそこの獣女を、攫うんだよっ」」」」」


 そんな言葉を宣った。

 運が良かった。

 先にコイツらに話かけて。


 だって、ニアノールさんやミルンだぜ。

 細切れミンチで、生食されちゃうぞ。


 ふへぇっ、と息を吐き、意識を集中して、深呼吸深呼吸っと。


「すぅ──っ、はぁああああ──っ」


 あっ、プチッて血管切れた。



「俺の娘にっ、何っ、しようとしてんだごらあああああああああああああ────っ!!」



 俺の魂からの叫びに、スキルが呼応し、急激な怒りの感情による、炎の塊を作り出す。



「死に晒せええええええ──っ!」


「えっ……」

「ちょっ、おまっ!?」

「ひっ、こいつっ」

「あらん」

「魔法使いっ!?」


 先手必勝! 

 魔王の様な笑みを浮かべて、俺を囲んでいる男共(オネェも含む)を、焼き尽くした。

 

            


「ふぅ……」


 激しい爆炎を背に、やり切った顔で洗い場に向かおうとすると、声が聞こえた。


『おと─さ──ん!』


 天使の羽をも幻想させる、垂れ下がった耳がふわふわの尻尾と合間って、お目々を心配そうに輝かせながら走ってくるよケモ耳がっ!!


「ぶふっ……ずずっ!」


「おとうさん大丈夫!?」

 

 ミルンさんや、大丈夫だよ。可愛い過ぎて、鼻血が出ているだけだから。

 

「大丈夫ですか流さん!」

「どないしたんや!?」

「何があった流君!」


 集まる集まる。

 他の野営地の利用者も、剣や槍や斧や弓や金棒やハリセンを持って集まって来た……何でハリセン!?


「あそこで火達磨になってる奴等な、ミルンを誘拐しようとしてた」


 簡単に事情を説明。

 獣族如き攫われたって、とか言う奴もいたが、大半の人は、思いの外納得してくれた。


 なんでも、地方に行けば行くほど、獣族に排他的ではあるが、逆に現在の王都は、そこまで酷くないらしい。


 現在の女王は、獣族を大層気に入っており、表立って何かをする事が、出来ないようになっているらしい。

 それは何とも、嬉しい話だ。


 取り敢えずと、俺がミディアムなレアに、こんがりと焼いた連中を縛り上げる。

 人だろうと獣族だろうと、攫うと犯罪との事で、衛兵に引き渡せば金になるみたいだ。

 それならばと、一番友好的であった、ハリセンの人に、邪魔だからあげると押し付けた。


 ハリセンの人、レベル75だから、安心して任せてくれって……すげぇ高レベ。


「今回は、自制出来たのだな」


 村長が笑顔で言ってきた。

 違うんだ、村長。今回の魔法、思ってたよりも、威力が出なかったの。

 アイツら生きてて残念だったね。

 とは言えない。


「おとうさんっ」


 あっ、また鼻血でそう。


「ミルンね、おてつだいしたんだよ!」


「そうなのか? 偉いぞミルン、有難うな」


 頭をわしゃわしゃと撫でると、とても嬉しそうに尻尾が揺れている。


「私も手伝いましたよぉ」


「有難うニアノールさん」


 手をワキワキと近付ける。


「ヒィッ!?」


 逃げられた……ワキワキ。


「はぁ……いつまで遊んどんのや! 早よ準備して、さっさと行くで!」


 聖女様……何かまとめようとしてるけど、お前下着姿のままって、羞恥心は何処へ行った。

 

            


 それじゃあ筋肉馬さん。

 また、コンテナ引っ張ってお願いしやす。

 そんな思いを込めながら、筋肉馬の御機嫌とりにブラッシングをして、ミルンを肩車しつつ、コンテナ上部の定位置へ移動。

 準備万端と思ったけど……何かが足りない。


「何だ……何が足りないんだ?」


 ミルンは俺の肩の上だし、村長、聖女様、ニアノールさん、後は……あっ、アイツだ!


「コカトリス(非常食)!?」


 そう言えば、あいつ今日一度も見てないな。

 ミルンの側に、居た筈だけど。


「ミルン。コカトリスの奴、どこに居るんだ?」


「知りません」


 知らない?

 そうか……コカトリス逃げたのかな?


「まあ良いか。ミルン、朝ご飯食べよう。」


「……今はいいの」


 いらない?

 いらないって言ったのか?

 あの腹ペコミルンが?


「ゲフッ……」

「ミルン……待ちなさい」


 そっと俺からおりて、コンテナの昇降口へ向かっていたミルンを、抑揚の無い声で止める。


 びくびくしながら、こっちの様子を伺ってくるミルンに対して、俺は心を鬼にして、こう伝えた。


「今日の、玉葱香るシンプルシチューは無し!」


「そんなっ!?」


 どうりで朝から、ミルンが洗い場で、大きな鍋を洗っていた訳だ。

 

 腰にしがみ付き、『ごめんなさい』と泣きながら謝るミルンを胸に、俺は心の中で呟いた。


 コカトリス。お前の事は、忘れない。

 今日の夕方ぐらいまで。



『コケェッッッ!?』


 


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