8話 魔物は皆んな生きている.1
11/17 加筆修正致しました。
「気持ち良い風だなぁ……」
「暖かいのぉ……」
遮る物が無い、何処迄も続く青い空。
遠くから聞こえて来る、鳥の囀り。
お腹の上で寝そべる、ミルン。
移動式の馬鹿デカい、コンテナハウスの上部で、のんびりと仰向け寛ぎながら、王都を目指している。
「暇だなぁ……」
「仕方無いのぉ……」
ぶっちゃけ、やる事無かったからね。
荷物はずっと、空間収納の中に有るし、ミルンとお出かけしたいからな。
それに、費用は全部聖女負担。
無料で旅行出来るんだぜ。
「無料より安いモノは無いってな」
「楽々ぅ……」
あの聖女様が、何で俺を王都に連れて行くのか知らんけど、用件は向こうで話すらしいし、
今は旅を楽しむぞ。
用件済んだら、自由に買物を楽しむも良し、名所巡りも、制限は無いっていう事なら、断る理由無いからな。
「……走るの速いなぁ」
「お馬さん…お肉っ…」
最初は、こんな馬鹿デカいコンテナ、お馬さん達は、動かせないだろうと思っていた。
流石異世界馬だよな。
たった二頭で、脚取り軽く、パッカラパッカラと進んでいる。
マッスルホースって言う、魔物の一種らしいけど、直訳したら。筋肉馬だぞ。
村長の血縁か?
行者が居ないんですけど。
要らない?
頭が良い馬だから、道を覚えてる?
俺よりINT、高くないよね?
時折ミルンが、『お肉っ…』と、お馬さん達を見詰める所為で、マジで怖いけどね。
ミルンに喰われまいと、速度が出て、体感速度時速六十キロ以上。
補装の無い砂利道を、右揺れ左揺れ、上下上下と、ニアノールさんに怒られます。
俺の所為じゃ無いのにさ。
背伸びをして、もう一眠り。
「平和だねぇ……気持ち良い」
「お肉っ…」
決して、フラグを立てている訳では無い。
あぁ……また揺れがっ!?
◇ ◇ ◇
コンテナの中は、家財道具が散乱しており、足の踏み場も無い、酷い有様。
ニアノール殿が、忙しなく片付けをするも、時折激しく揺れる為に、一旦手を止め、元凶共に注意をしている。全く改善しないのだかな。
「ニア、もうええよ。諦めーや」
聖女リティナ様に止められた。
渋々ニアノール殿は諦め、散乱した棚の上に座し、椅子に胡座をかいて座っている、聖女リティナ様に、お茶を淹れている。
そんな状況を見ながら、聖女リティナ様と対面して居るが、何故私をガン見して来るのだ。
確かに、この姿勢は可笑しいが、ガン見される程ではあるまいて。
足の踏み場が無いからな。
小さな椅子に、脚を折り曲げ、丸まって座るしかあるまい。
居心地が悪い、空間であるな。
帰りたいのである。
「なーっ、筋肉のおっさん?」
私は筋肉という名前では無い。
目を閉じて、聞いてないフリだ。
「なーなーっ、マッチョムキムキマン」
私はマッチョムキムキマンでは無い。
大胸筋をピクピク動かす。
「なーなーなーっ、脳筋変態もっこりマン」
私は脳筋変態もっこりマンでは無い。
うむ、何も言うまい。
「なーなーなーっ、ヘラクレスのおっさん」
私はヘラクレスのおっさんでは無い。
いや違う、私はヘラクレスだ。
「何でしょうか聖女様」
普段の、白い歯を見せる笑顔では無く、恭しく、失礼の無い様に聞き返す。
そうせねば、命が危ないのだ。
なぜならば、聖女の傍で世話をしている、ニアノール殿の殺気が、本気なのだ。
『大声を出したら、斬りますよぅ』
その様な幻聴が聞こえる程、彼女は目の瞳孔が開いており、実際にメイド服から、ナイフが見え隠れしておる。
相当苛々しているのだな。
「なんでアンタまで、付いて来たん?」
「ぬっ……」
「ウチが一緒に来て欲しかったんは、お漏らし魔王の、兄ちゃんだけやねんで。筋肉達磨は呼んでへんよ? 今からでも帰らへん?」
眉間に手を当て、もみもみと。
この聖女は、子供であるか?
ああ違う、まだ子供であったな。
「申し訳ないですが、私は帰りません」
「なんでーや?」
「なぜ流君を、王都に連れ出すのか。その理由を聞いておりません」
「ヘラクレスに関係無いやろ?」
「私は、ラクレル村の村長ですぞ。流君に話をするのならば、私も同席致します。何も知らず、帰る訳にはいきませぬ」
目に力を込めて、聖女リティナを睨む。
しかし、直様目を逸らした。
ニアノール殿が、ナイフをスッと出して来たので、命の危機を感じたからだ。
「ぶーぶー。腕治したったやろ? その御返しにええやんか」
「相当な額を、納めましたな」
「……貰うたかな? あーっ、忘れてたわ」
この聖女……腕一つとは言え、あの様な大金を受け取っておきながら、『忘れてたわ』の一言で、済ませようとしてくる。
これが聖女か。
何故聖女なのだ?
そんな事を考えていたら、またコンテナが大きく揺れ、マッスルホースが暴れだした。
「うぉっ、またかいなっ!?」
「またあの方達は……」
ナイフを取り出すニアノール殿。
殺る気満々であるが……何かおかしい?
「違う、これはっ────」
私は、散らばる物を押し除けて、前方に取り付けられた物見窓を開け、外を見た。
「あの数っ、魔物の集団であるぞっ!!」
「あー魔物? 大丈夫ちゃうん?」
聖女はひっくり返ったまま、その口元に、自身満々に笑みを浮かべていた。




