8話 魔物は皆んな生きている.1
遮る物が無い青い空。
何処までも漂っていく雲。
遠くから聴こえる鳥の囀り。
お腹の上で寝そべるミルン。
俺達は今、馬鹿デカいコンテナハウスの上部で寛ぎながら、のんびりと王都を目指している。
ぶっちゃけやる事無かったし、荷物はずっと空間収納の中にあるし、ミルンとお出かけしたかったし、費用は全部聖女負担だし、少しお願いがあるそうだけどそれ以外は自由に買物を楽しむも良し、名所巡りも制限は無いっていう事なら断らないわなぁ。
あとね、最初はこんなデカいコンテナ、お馬さん達は動かせないであろうと思っていた。
うん、流石異世界馬。二頭で悠々と、脚取り軽くパッカラパッカラ引いてるな。
マッスルホースって言う魔物の一種だって。
直訳したら筋肉馬?
村長の血縁か?
行者は? 要らない?
知能が高いから道覚えているんだね…俺よりINT高くないよね?
時折ミルンが「お肉…」とお馬さん達を見つめて、その度に速度が速くなり時速六十キロでてるぞと補装の無い砂利道を右揺れ左揺れ上下上下とニアノールに怒られる。
うん、御免なさい。
俺は背伸びをしてもう一眠り。
「平和だねぇ…良い空だ」
決してフラグを立てている訳では無い。
【8話 魔物はみんな生きている】
コンテナの中は家財道具が散乱しており、足の踏み場も無い酷い有様。
せっせとニアノールが片付けをするも、時折激しく揺れる為に一旦手を止め元凶共に注意をするが意味は無く「もうええよニア、もうあきめーや」と聖女リティナに止められたのでニアノールは諦め、散乱した棚の上から器用に椅子に胡座をかいて座っている聖女リティナにお茶を淹れている。
そんな状況を見ながら聖女リティナと対面して椅子に三角座りをしている筋肉、ヘラクレス・ヴァントはラクレル村を出た時からと言うもの聖女の視線が刺さり、もの凄く居心地が悪い逃げだしたいと心から思っていた。
「なー筋肉のおっさん?」
私は筋肉という名前では無い。
目を閉じ聞いてないフリだ。
「なーなーマッチョムキムキマン?」
私はマッチョムキムキマンでは無い。
大胸筋をピクピク動かす。
「なーなーなー脳筋変態亜種魔物?」
私は脳筋変態亜種魔物では無い。
うむ、何も言うまい。
「なーなーなーなーヘラクレスのおっさん?」
私はヘラクレスのおっさんなどでは無い。
いや、違う、私はヘラクレスだ。
「何でしょうか聖女様」
いつもの白い歯フェイスでは無く普通に聞き返す。なぜならば、聖女の傍でニアノールから「大声を出したら斬りますよぅ」と言わんばかりの殺気を感じるからだ。彼女は目の瞳孔が開いており、実際メイド服からナイフが見え隠れする。相当苛々している様だ。
「なんでアンタまでついてきたんや? ウチが一緒に来て欲しかったんはヘタれ魔王の兄ちゃんだけやねんでー筋肉達磨は呼んでへんっちゅーねん。今からでも帰ってええよ? 帰らへん?」
ヘラクレスは眉間に手を当てる。
この聖女は子供か?
ああ違う、まだ子供だったな。
「申し訳ないですが、私は帰りませぬ。まだ、なぜ彼、流君を王都に連れ出すのかを聞いておりませんし、道中で流くんに理由を話すとも言われたので、ラクレル村の村長として、何も知らず帰る訳にはいきませぬ」
眼をキリッとさせて聖女リティナを睨む…がニアノールがナイフをあから様に出して来たので直ぐ眼を逸らす。
「ぶーぶー。じゃあ腕治したったやろ? そのおかえしにーーー」
「それは正当な額を納めたであありませんか」
「そやな、そうやったわ忘れてた忘れてた」
この聖女、腕一つとは言えあの様な大金を受け取っておきながら「忘れてたわ」の一言で済ませようとしてくる。これが聖女か…何故聖女なのだ。と考えているとまたコンテナが大きく揺れ、速度を増していく。
「うぉおまたかいなっ!?」
「またあの方達は…はぁ」
溜息を吐きながらナイフを取り出すニアノール。
「違う、これはーーー」
私は前方に取り付けられた物見窓を開けて外を見て言葉を詰まらせる。
遠くから、おびただしい魔物の集団が迫って来る。
「あー魔物? 大丈夫ちゃうん?」
聖女はひっくり返ったまま自身満々に笑みを浮かべていた。