7話 魔王?違いますニートです.2
灯りに群がる虫を呼び込める程光輝く豪奢な装備に身を包んだ光るおっさん共が、往来で腰を低くして魔王のどうのこうのと言われるのも凄く嫌なので、住居と称して村長宅へ案内した。
因みに村長は留守だ。
許可? そんなの要らないよ?
俺と村長の仲だもの。
そして、ミルンが俺の膝を枕にスヤスヤと気持ちよく寝ているからね、静かにする為に無言でおっさん共を見ていたんだ。
そしたらさ、なんにもね、話もしてないのにね、豪奢な装備に身を包んだ男共がーーー
ジャパニーズ・DOGEZA!!
ーーーをして来たんだ。
土下座…あるんだ…土下座。
ドン引きだよ。
それに、光るおっさんが、頭を低くしてーーー
「どうかっどうか私共に魔王様の御慈悲を頂きたく存じます!!」
ーーー意味が分からない事を言って来るしね。
「それでアンタ達は誰、違うな、何者? これも違う…ぁあ何をしに来たんだこんな誰も居ない村に」
聞きたくない、聞きたく無いけど、聞かないとお帰り頂けなさそうな感じなので聞いてみる。
「はい、私共は、唯一神っアルテラ様を信仰する教会の者で…私は神官のザルッ…ザルブと申します。ここ、ラクッレル村にて神が奇跡をお示しになられた事を知り、急遽っこの村を魔王様より返してぇ…頂く為のご相談に来た次第で御座いまして」
凄い脅えながらというか大丈夫かなめっさ震えてるよこのおっさん達。
うん俺がこの村を占領したみたいに聞こえるな。占領? 違うよー殲滅しただけだよ?
「返還を了承して…頂きましたら、おお礼といっては何ですがっ魔王様の望まれる物を! とっ! 大司教様より申しつかっておりっおりおります!」
先に此れを献上したく、と震える手で差し出して来た華美な装飾の入ったすげぇ趣味の悪い箱を渡してきた。
「どうぞ、お納め下さい…」
一切顔を上げず、土下座の姿勢のまま動かない…開けろって事か?
凄い怪しい…でもなぁ。
土下座だもんなぁ…。
えいっと、俺は躊躇い無く箱を開けた瞬間ーこの世の全てを包み込む様な真っ白な光と音が溢れ出し、俺に襲いかかる。
あっやっぱり罠だ。
やばい!?
眩しっと思いながら眼を閉じた。
光の中、土下座の光るおっさん共がガチャガチャと立ち上がる音がする。
「ふっふははは! 馬鹿めっ! この邪悪な魔王めが! その箱には我の為にと大司教様が固有魔法、神の審判を込めて頂だけたのだ! 邪を滅する事に特化したこの魔法、いかな魔王でも耐えきれまい! 滅ぶが良い、魔王よ!!」
何か言ってる?
耳がキーンって痛いな。
ゆっくりと光が消えてく。
ん? 何も起きてない?
目をゆっくりと開けて身体を確認、ミルンも確認、尻尾も確認モフモフ、箱の中を見る。
箱の中には…ボロボロの…石?
「ふはははっ! 魔王は滅んだ! 聖地を魔王から取り返しだぞ! ふはははっ!」
「やりましたぞ!」
「これでこの地は我ら教会の物!」
「あのー」
めっちゃ騒いでいる。
「これで私も司教、いや、大司教も夢では無い!」
「おぉおめでとう御座いますザルブ様!」
「我等は一生、貴方様に着いていきますぞ!」
「聴こえてるかー」
めっちゃ騒いでいる。
あっミルンの耳がペタンって可愛いなぁ。
「早急に王都へ戻り、報告せねばな!!」
「凱旋ですぞ!」
「やりましたな!」
「「「あっはっはっは!!」」」
「人の家で何騒いでおるかぁあああああ!!」
勢い良く扉が開き、白い歯を見せながら鬼の形相で村長が帰ってきた。
一瞬で鎮まる歓喜の声。
そりゃあ、筋肉隆々のクソでかいおっさんが白い歯を見せて血管切れそうな顔で現れたら誰も騒げないわな。
「お帰りー村長」
俺は挨拶をする。
「「「えっ?」」」
光るおっさん共が俺を見る。
「ん?」
村長が光るおっさん共を見る。
「おっ?」
俺は村長を見る。
「くわぁあああむにゃむゅ」
ミルンがあくびをする可愛い。
※
起きたミルンが俺をよじ登ってきたので、肩車して、淹れたお茶を啜りながら俺は目の前の光景を見ている。
さあさあ今回の試合はエキシビジョンマッチ!
村長 対 光るおっさん共の夢の闘いが今ぁあああ、始まった! 試合開始だぁあああ!!
一瞬で移動! 村長のボディブローがおっさんBの鳩尾に突き刺さるぅう!
速い! 速いぞ村長!
後ろからおっさんAが襲いかかるがーー屈んで避けたぁあああ! そのまま脚払い! すかさず空中で一回転! 踵落としだぁあああ脳天直撃! これは一発でノックアウトオオオ!
若干頭が陥没したかぁあああ!?
さあさあ、おっさんCが距離を計りながらぁああっとぉおおお凶器を取り出した!
これは卑怯! 卑怯者だぁあああ!
それでも村長は怯まない!
おっさんCが凶器を振り回しながらのヤケ糞の攻撃を避わしつつ右! 右! 左! 左! 右! 左! の顔面サンドバッグだぁあああ!
前歯が飛んでいくぅううう!
これは堪らず膝から崩れ落ちたぁあああ!
おっと、おっさんBが腹を押さえながら立ち上がりぃいいい拳を振りかぶるがぁああ残念っ空振ったぁあああ逃さず村長のカウンターがーーー入ったぁあああ!
試合終了おおおおおおおお!!
カンッカンッカーンッ。
俺はお茶請けの食べ欠けパンを村長に向けて聞いてみる。
「今のお気持ちをどうぞ村長!」
「流くん。君は何をやってるんだ」
額の汗を拭い、村長が睨んできた。
俺に言われても、どうしようも無い。
ミルンが俺の肩から降りていく。
光るおっさん共を縛り上げる村長を見て疑問を聞いてみる。
「腕…何処で盗んで来たんだ村長?」
ミルンが光る装備を剥いでいる。
「腕を盗むとは何なのだ流君」
呆れたように言われたよ冗談の通じない筋肉め。
「腕、どっかに在庫があるのか村長?」
ミルンが光る装備を剥いでいる。
「私は土人形か!?」
突っ込みがヌルいぜ村長。
「聖女様だ」
ん?
「この腕は聖女様に治して頂いた」
異世界あるあるの聖女!?
「こやつ等はその聖女様のお連れの者達だ。私が聖女様と面会をしている間に消えていたがね」
ミルンが光る装備を剥いでいる。
尻尾をフリフリ可愛いなぁ。
「それじゃあ俺に何かしようとしてきたのは聖女なのか? こいつ等、大司教がどうのこうのって言ってたんだけど」
「いや、聖女様は関係無いだろう。」
疲れた顔をしながら、ハッキリ言う村長。
「何でそんな事分かるんだ?」
「会えば理解する」
村長が、光るおっさん共を縛り上げ終わる頃には、おっさん共は…その輝きを…全て失っていた。
おぉぴかぴかー。
傍のミルンの手によって。
素材の剥取りだな、狩のマナーだね。