プロローグ②
真っ白い空間に、これまた真っ白いゲーミングチェア。真っ白いデスクに、真っ白いポット。真っ白いテーブルには、真っ白いティーカップ。
そこに佇む存在。
白髪は、足首まで伸ばしており、190センチはあろう背丈。
細身でありながら、決して痩せていると言わせないとばかりの胸筋。
その顔に。立派な真っ白い仙人髭を蓄えた存在が、手に持つ髪を、まじまじと見ている。
「かみさま〜ごほうこくで〜す」
そこへ、フワフワなブロンドヘアの、翼をもった女性が、ぼーっとした眼差しで現れた。
「なにを、むずかしいかおをしてぇ、みてらっしゃるのですか〜?」
「あぁリシュエルか。お疲れ様じゃの」
リシュエルと呼ばれた女性は、少し驚いた。
神様はこの数千年。リシュエルが作られた時から、一度もこのような労い言葉を言った事が無い。
それに、労いの言葉を、言う様な存在では無いと思っていたからだ。
正直、不気味さしか無い。
「かみさま〜。なにかぁ、きになることでもぉ、あるのですか〜?」
「ふむ、そうじゃな……」
仙人髭をなでながら、難しい顔をしている。
若干、眉間に皺が寄っている。
「リシュエルや」
「はいぃ、かみさま〜」
神と言われた存在は、真面目な顔をして、見ていた紙を、リシュエルに向けた。
「この男は、確か一昨日に、お主が担当したんじゃったのう」
「どれですかぁ」
見せられた紙に記載されていたのは、一昨日に、リシュエルが担当した転生者だった。
真面目な顔の眉間の皺が、更に深く、より深くなってきた。
空いている左手が、わきわきとしている。
「リシュエルや。儂らは、この世界で死んだ者の魂を導き、新たな生命として、この世界に戻さねばならぬ事を……理解しておるな?」
空いている左手が、グーパーを繰り返しているのを見ながら、リシュエルは返答する。
「はいぃ、りかいしておりますぅ〜」
当たり前の事を、何故言うのだろうと、リシュエルは疑問に思った。
「リシュエルや」
神様の、グーパーを繰り返していた左手が、リシュエルの顔を掴む。
「はいかみさまぁ〜」
「この紙に、書かれている事を、よーく見てみるのじゃ」
リシュエルは、顔を掴まれている状態で、若干の隙間から、紙に書かれている内容に目を通した。
転生担当者リシュエル
小々波 流
年齢35歳
彼女歴 皆無
好きな女性に玉砕され続けて28年
職業 皆無
相続した金を擦り減らしながらのニート生活
学歴 大学卒業
単位ギリギリのお情け卒業
卒業論文のテーマ 働かずに生きていく為の行動理論とその応用
父
小々波 哲也 享年65歳(転生待ち)
母
小々波 由香里 享年63歳(転生待ち)
善行度 ー 転移により判別不能 ー
悪行度 ー 転移により判別不能 ー
レベル 1→3UP(楽しい経験値効果)
能力
STA 10→11 INT 25
VIT 10→11 AGI 50→60
DEX 50→54
(村人男性平均100とした値)
スキル
・身体強化(これで貴方もマッスルバディに)
・楽しい経験値
・空間収納(大人の本の隠し場所として)
・基本魔法(一人暮らしのお供に)
・ー 判別不能 ー
称号
・逃げ惑うニート
・崖からダイブするニート
アイテム
装備一式(そのままの貴方で)
菓子パン 5個(潰れた濡れパン)
炭酸飲料2L 1本(開けたら破裂)
カップ麺 3個(豚骨が欲しい)
備考
深夜営業スーパーマーケットの帰り道にて、小々波流による、ながらスマホ信号無視により生コン車に激突し、そのまま数メートル滑空後、リシュエルによる転移措置にて、身体を事故前へ修復。
以上で報告を終わる。
「さて、言い訳を聴こうかのぅリシュエルや」
リシュエルの掴まれている顔が、"メキメキ"と音を上げる。
「かみさまぁ〜」
「何じゃ、リシュエルや」
リシュエルは、若干鼻息を荒くして答える。
「かれは〜、みててぇ、おもしろかったの〜」
神様と呼ばれた存在は感情を出せない。
幾千、幾万、幾億、幾兆、数え切れない程の生命を、裁定でもって転生させる為に、感情は邪魔であるからと、それらを消し去り、効率的に処理をしていた。
感情を出せない"ハズ"だった。
その"ハズ"だった。
「ああああああああああああああっ何っから突っ込みを入れて良いか判らない処理をするな馬鹿者おおおおおおおおおおおおおお!!!」
リシュエルの顔を掴んだままの、神様と言われている存在の叫びは、管理する世界の隅々まで、響いたとか響かなかったりとか、したりするのであった。
「かみさま〜うるさいの〜」




