間話 王都ジアストール国の小さな悪魔.5
私は獣族の奴隷。
朝のおはようから夜のおやすみまでひたすら石を掘る。
私は転生者。
名前も覚えていなくて、ただそう理解しているだけ。
魔法も使えるよ? 獣族なのにね。
だけどその意識があるから頑張れる。耐えられる。
今の年齢は分からないけど多分十五か十六歳。
素敵な王子様に助けられて、恋をして、家族を作る。
そんな夢見る女の子だ。
※
あれから一年。今の私達の生活は、以前だと考えられないくらい良くなっていた。
痩せ細って骨の形がはっきりと見えていた身体も、今はちょっとお肉が摘めるぐらいになっちゃったプニプニ。
「ほらーそこ! 危ないから離れてー!」
岩盤が脆い所で休憩している子達に注意する。
「そこの鉱石は後で纏めて搬出するから動かさないようにねー」
はーい! と元気よく返ってくる声に、私は安堵する。
「もう少ししたらご飯だからねー」
「「「はーい」」」
子供達の大合唱に笑みを浮かべながら、休憩所の様子を見に行く。
「影さーん、どうですか?」
調理場ではここの管理者であるはずの影さん(未だ黒外套)が料理をしており、腕を捲って鉄鍋を振り回す様はもはやプロの料理人だ。
「えっ? 味見ですか?」
お玉で掬ったスープを向けて来る。
じゃあ少しだけーおいしぃ。
尻尾がピンッとなった姿に満足したのか、影さんが手をヒラヒラさせた。
これは子供達を呼んできてと言う合図だね!
休憩所の入口から声を張り
「皆んなーごは」
「「「ご飯ーーー!!!」」」
上げて呼ぶ前に子供達が突撃をしてきた。
「それじゃあ皆んなでー頂きます」
「「「いただきます!」」」
もはや恒例となったおまじない。
なぜかこれを言い、皆んなと、家族とご飯を食べていると嬉しくなって来て、皆んなもそれを真似するようになり、必ず言う様になった。
皆んなが時間に追われる事なく、飢えることなく黙々と食べている。
「あぁ…幸せだ…」
そんな言葉が口から出た瞬間ーーー
「じゃあ私と一緒になればもっと幸せだな」
ーーー急にどこぞの王子様(変態?)が現れた。
「久しいな、麗しの尻尾を持つ君」
なんかきざったらしくなっていないか?
スッと影さんが現れ跪く。
「影も御苦労であったな」
「勿体なきお言葉、感嘆の至りにございます」
影さんがまともに喋った!? 私なんて一年も一緒にいるのに声を聞いたの会った時だけなのに!?
「私はもう王太子では無い、というか王族でも無い。無くなった。だからこれからは妹、ルシィ…女王の側でその献身を尽くして欲しい」
影さんに頭を下げている!?
えっ? 王子様じゃ無くなったの?
「私の事は、そうだな…ゼスで良い。ゼスと呼んでくれ、我が友よ」
何か影さんがめっちゃそわそわしてる…照れてるな…めっちゃ照れてる可愛いぞ。
「分かりました…ゼス。ですが私は…ここに残ります」
子供達の方を見て、再度ゼスを見る。
「もう一年ですから、食事を…作るのは何よりも楽しいので」
ゼスは其れを聞いて一瞬驚いたが、直ぐ安堵した表情で「わかった」と呟いた。
「だがこの麗しの尻尾の君は頂いて行くぞ!!」
はぁ!?
ゼスは私を肩に担ぎ上げ、変態な言葉をその場で大声で発した。
「ちょっとゼス!? 降ろして!」
暴れる私の尻尾が当たり、凄い幸せそうな顔をしているどうしたこの元王太子!?
「影さん! 助けて!」
「どうぞお持ち下さい」
スパッと切り捨てられた!?
「まって! この子達どうするのっ!」
担がれたままなのでゼスの背中をあらん限りの力で叩くっ硬!?
「この子達の事はご安心下さい。私が責任を持って護り、育てますので…責任者ですから」
あっ私に丸投げしてたのに今更!?
子供達も含め全員がにやにやしている。
「私にも選ぶ権利が有ると思うの!?」
ゼスが少し項垂れている。
「まぁ、行こうか…」
私を担いだままゼスがゆっくりと歩き出した。
暴れても暴れても逃げれない。
馬が繋がれており、私を担いだままゼスは軽やかにそれに乗る。
影さんが外套を取った。
「それでは百五十…いえ、ユカリ様。どうかお幸せに」
顔!? 美人! まって誰? ユカリ、私?
子供達も集まって皆んな手を振っている。
違う、待って!?
「これ人攫いだからぁあああああああ!!」
整理出来ない感情のまま、心からの助けを求めた。
それを見届けていた影に見えていた物。
小々波 由香里(転生者)
称号・リシュエルの悪戯
影は願った、どうか彼女が幸せでありますようにと。
※
「もぅっアナタ!? そろそろ仕事に行きなさいな!」
だぁあぅ。
「もうちょっと! もうちょいだけ!」
「だーめっ。ほら、パパに行ってらっしゃいしようねー」
だーだーぁ。
「くぅっウチの娘が可愛い過ぎるっ行って来ます!?」
そのまま走って行った。
「ふふっ、もう立派なお父さんね」
穏やかな風が心地いい。
あれから…もう何年経ったのか。
「あらあら、おねむの時間ねー」
この子が幸せであります様に。
この子が笑顔でいられます様に。
私に何かがあったとしても。
きっとあの子が助けてくれる。
「おやすみ、ミルン」