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異世界とは愛すべき者達の居る世界  作者: かみのみさき
一章 異世界とはケモ耳幼女が居る世界

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19/411

間話 ジアストール王国の小さな悪魔.5


 11/10 加筆修正致しました。


 

 私は、獣族の奴隷。

 朝のおはようから、夜のおやすみまで、ただひたすらに、石を掘る。

 私は転生者。

 名前は覚えていない。

 でも、私が今も生きていられるのは、この記憶のお陰なの。

 モヤがかかった様な、記憶だけどね。

 魔法も使えるよ。

 獣族なのに、有難い。

 

 今の年齢?

 多分十五か十六歳だと思う。

 ずっとここに居るんだもん、分からないよ。


 普通に恋をして、普通に働いて、普通の家族を持ち、毎日楽しく生きるんだ。

 歳をとって、お婆ちゃんになって、家族に囲まれて、笑顔で見送られたい。

 それが、私の夢。

 必ず叶えたい、今の私の夢。


◇ ◇ ◇


 影さんが管理者となって、一年が経った。

 大変だったよ。

 なにせ皆んなが、苦しんでたから。

 特に小さい子なんかは、あの劣悪な環境から、解放されたと知るや否や、喜びの叫びで過呼吸起こして、本当に危なかった。

 

 幼児なのに、凄い叫びだよね。

 若干関西弁だったし。


 今はね、皆んなとても幸せそう。

 お腹いっぱい食べれるからね。

 痩せ細って、骨の形がはっきりと見えていた身体も、少しだけ。お肉が摘めるぐらいになっちゃった……プニプニ。

 

 そして私は監督役。

 指示指導して、皆んなの安全を守りながら、書類仕事をこなしてます。

 だからプニプニなの。

 全く痩せません。


『そこっ! 危ないから離れなさーいっ!』


 岩盤が脆い所で、ぼーっと休憩している子達に、キツめに注意をする。


『そこの鉱石は、後で纏めて搬出するから、動かさないようにね』


『『はーい!』』


 元気よく返ってくる声に、私は安堵する。

 子供はよく、体調崩すしね。

 昔はあの子も……あの子も……誰?

 じゃないっ、もう直ぐお昼だね!


『皆んなーっ、もう少ししたらご飯だよーっ!』


『『はーい!』』

『めしゅゃ!』

『今日は何でしょうねぇ』


 子供達の大合唱に、笑みを浮かべながら、休憩所の様子を見に行く。


『影さーん、どうですかー?』


 調理場では、ここの管理者であるはずの影さんが、何故か料理をしている。

 ここに来てからずっとだから、腕を捲って、鉄鍋を振り回す様は、最早プロの料理人だ。


『……』

『えっ? 味見ですか?』


 お玉で掬ったスープを、向けて来た。


『じゃあ少しだけ…ずっ…美味しいぃ』


 尻尾が勝手にピンってなるよね。

 私のその姿に満足したのか、影さんが手をヒラヒラさせきた。

 子供達を呼んできてと言う、合図だね!


 休憩所の出入口から顔を出し、皆んなを呼ぼうとしたら……匂いで走って来たっ!?


『『ごはあああん────っ!!』』

『うちゅをよいていゆなや!』

『走ると危ないですよぅ』


 流石腹減りキッズ達。

 匂いで集まるって……流石だよね。


『それじゃあ皆んなでーっ、頂きます』


『『いただきます!』』



 もはや恒例となった、おまじない。

 なぜかこれを言って、皆んなと、家族とご飯を食べると、凄く楽しいの。

 皆んなも、私を真似して言う様になった。

 このおまじない……前世の記憶?



 皆んなが、時間に追われる事なく、飢えることなく、楽しく騒いで食べている。

 今この時間が、私は好きだ。

 幸せと言っても、間違い無いよね。


『あぁ……幸せだなぁ』


『その幸せを、私と増やそうでは無いか?』


 唐突に、どこぞの王子様が現れた。

 現れて開口一番、何を言ってるのか……何処かで頭を打った?


『久しいな、麗しの尻尾を持つ君』


 なんか……ぴかぴかはして無いんだけど、可笑しな口調になってる?


 横からスッと影さんが前に出て、跪く。


『影も、御苦労であったな』

『勿体なきお言葉、感嘆の至りにございます』


 影さんがまともに喋った!? 

 私なんて、一年も一緒にいるのに、声を聞いたの会った時だけだよ!?


『私はもう、王太子ではない。全てを置いて来たのだ。これからは、妹のルシィ……っ、女王の側で、その献身を尽くして欲しい』


 影さんに頭を下げた。ぴかぴかして無いと思ったら、王子様じゃ無くなったの?


『私の事は……そうだな、ゼスで良い。ゼスと呼んでくれ。我が古き友よ』


 何か、影さんがめっちゃそわそわしてる。

 照れてるな……めっちゃ照れてる。

 動きが物凄く可愛いぞ。


『分かりました……ゼス。ですが、私はここに残ります』


 子供達の方を見て、再度ゼスを見る。


『もう一年ですので、衰えました。それに、食事を作るのは……何よりも楽しいので』


 ゼスは其れを聞いて、一瞬驚いたが、直ぐ安堵した表情で『わかった』と呟いた。


『だがしかしっ! この麗しの尻尾の君はっ、頂いて行くぞ!!』


『……はぁ!?』


 ゼスは、私を肩に担ぎ上げ、意味の分からない事を、大声で宣った。


『ちょっとゼスっ、離してっ!?』


 暴れる私の尻尾が、ゼスの顔に当たり、凄い幸せそうな顔をしているっ!?

 どうしたこの元王太子!?


『影さんっ、助けて!!』


『どうぞお持ち下さい』


 スパッと切り捨てられた!?


『まって! その子達どうするのさっ!』


 担がれたままなので、ゼスの背中を、あらん限りの力で叩くっ!!


『──っ、硬!?』


『この子達の事はご安心下さい。私が責任を持って守り、育てますので。責任者ですから』


 私に丸投げしてたのに今更!?

 子供達も含め、全員がにやにやしているんですけどっ、なんでなのさ!?


「私にもっ! 選ぶ権利が有ると思うの!!」


 ゼスが少し項垂れた。

 ごめんねゼス……私本気で言ってるからね。


『……行こうか』


 私を担いだまま、ゼスがゆっくりと歩き出した。

 暴れても暴れても逃げれない。

 馬が繋がれており、私を担いだままゼスは、軽やかにそれに乗る。


『私嫌なのにっ、何で皆んな助けてくれないのっ!』


 私が必死の抵抗をしていたら、徐ろに影さんが、被っていた黒外套を取った。


「それでは、百五十…いえ、ユカリ様。どうか、お幸せに」


 影さんの顔!?

 美人エルフ!? 

 まって誰今何て言ったの影さん。

 ユカリ……私の名前って、ユカリ?

 

 子供達が集まって、皆んな手を振っている。

 皆んな笑顔だ。

 影さんはお幸せにって言ったけどさ、こう言うの、何て言うか知ってるのかな。


『これただの人攫いだからあああああああああああ────!!』


 理不尽過ぎるよね。

 本当に。

 心からの助けを、求めているのに!!




 それを見届けていた影に、見えていたモノ。


 小々波 由香里(転生者)

 称号・リシュエルの悪戯


 影は願う。

 どうか彼女が、幸せでありますようにと。

 また何処かで、逢えますようにと。


◇ ◇ ◇


 王都近郊にある、穏やかな村。

 獣族だろうと、心良く受け入れてくれた、とても優しい人達が住まう、小さな村。


『おっ、指を動かしたぞ!? 可愛いなぁ』


『あぅぅ、だぁ!』


『もぅっ、そろそろ仕事に行きなさい!』


『あぶぶっ』


 こうして可愛い娘と、親バカになってしまったゼスと三人で、暮らしている。


『もうちょっと! もうちょいだけ!』

『だーめっ。パパに行ってらっしゃい、しようねー』


『ばぁばぁっ』


『くぅっ! ウチの娘が可愛い過ぎるてっ、行きたくないけど行って来ます!!』


 幸せな毎日。

 望んでいた、普通の日常。


『ふふっ、もう立派なお父さんねぇ』


『うぅぅぅぐぅっ!』


 でも、それも、いつか終わる。

 分かっているから。

 知っているから。

 あの夢の出来事は、必ず起きてしまう。


『まぁぅ……ぅぃ…』


『おねむの時間だね。よいしょっ……重いなぁ。あの子よりは、軽いけどさ』


 この子を、必ず守る。

 私の胸で眠るこの子を、守ってみせる。

 

『ミルン……私の可愛い娘』



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