間話 ジアストール王国の小さな悪魔.5
11/10 加筆修正致しました。
私は、獣族の奴隷。
朝のおはようから、夜のおやすみまで、ただひたすらに、石を掘る。
私は転生者。
名前は覚えていない。
でも、私が今も生きていられるのは、この記憶のお陰なの。
モヤがかかった様な、記憶だけどね。
魔法も使えるよ。
獣族なのに、有難い。
今の年齢?
多分十五か十六歳だと思う。
ずっとここに居るんだもん、分からないよ。
普通に恋をして、普通に働いて、普通の家族を持ち、毎日楽しく生きるんだ。
歳をとって、お婆ちゃんになって、家族に囲まれて、笑顔で見送られたい。
それが、私の夢。
必ず叶えたい、今の私の夢。
◇ ◇ ◇
影さんが管理者となって、一年が経った。
大変だったよ。
なにせ皆んなが、苦しんでたから。
特に小さい子なんかは、あの劣悪な環境から、解放されたと知るや否や、喜びの叫びで過呼吸起こして、本当に危なかった。
幼児なのに、凄い叫びだよね。
若干関西弁だったし。
今はね、皆んなとても幸せそう。
お腹いっぱい食べれるからね。
痩せ細って、骨の形がはっきりと見えていた身体も、少しだけ。お肉が摘めるぐらいになっちゃった……プニプニ。
そして私は監督役。
指示指導して、皆んなの安全を守りながら、書類仕事をこなしてます。
だからプニプニなの。
全く痩せません。
『そこっ! 危ないから離れなさーいっ!』
岩盤が脆い所で、ぼーっと休憩している子達に、キツめに注意をする。
『そこの鉱石は、後で纏めて搬出するから、動かさないようにね』
『『はーい!』』
元気よく返ってくる声に、私は安堵する。
子供はよく、体調崩すしね。
昔はあの子も……あの子も……誰?
じゃないっ、もう直ぐお昼だね!
『皆んなーっ、もう少ししたらご飯だよーっ!』
『『はーい!』』
『めしゅゃ!』
『今日は何でしょうねぇ』
子供達の大合唱に、笑みを浮かべながら、休憩所の様子を見に行く。
『影さーん、どうですかー?』
調理場では、ここの管理者であるはずの影さんが、何故か料理をしている。
ここに来てからずっとだから、腕を捲って、鉄鍋を振り回す様は、最早プロの料理人だ。
『……』
『えっ? 味見ですか?』
お玉で掬ったスープを、向けて来た。
『じゃあ少しだけ…ずっ…美味しいぃ』
尻尾が勝手にピンってなるよね。
私のその姿に満足したのか、影さんが手をヒラヒラさせきた。
子供達を呼んできてと言う、合図だね!
休憩所の出入口から顔を出し、皆んなを呼ぼうとしたら……匂いで走って来たっ!?
『『ごはあああん────っ!!』』
『うちゅをよいていゆなや!』
『走ると危ないですよぅ』
流石腹減りキッズ達。
匂いで集まるって……流石だよね。
『それじゃあ皆んなでーっ、頂きます』
『『いただきます!』』
もはや恒例となった、おまじない。
なぜかこれを言って、皆んなと、家族とご飯を食べると、凄く楽しいの。
皆んなも、私を真似して言う様になった。
このおまじない……前世の記憶?
皆んなが、時間に追われる事なく、飢えることなく、楽しく騒いで食べている。
今この時間が、私は好きだ。
幸せと言っても、間違い無いよね。
『あぁ……幸せだなぁ』
『その幸せを、私と増やそうでは無いか?』
唐突に、どこぞの王子様が現れた。
現れて開口一番、何を言ってるのか……何処かで頭を打った?
『久しいな、麗しの尻尾を持つ君』
なんか……ぴかぴかはして無いんだけど、可笑しな口調になってる?
横からスッと影さんが前に出て、跪く。
『影も、御苦労であったな』
『勿体なきお言葉、感嘆の至りにございます』
影さんがまともに喋った!?
私なんて、一年も一緒にいるのに、声を聞いたの会った時だけだよ!?
『私はもう、王太子ではない。全てを置いて来たのだ。これからは、妹のルシィ……っ、女王の側で、その献身を尽くして欲しい』
影さんに頭を下げた。ぴかぴかして無いと思ったら、王子様じゃ無くなったの?
『私の事は……そうだな、ゼスで良い。ゼスと呼んでくれ。我が古き友よ』
何か、影さんがめっちゃそわそわしてる。
照れてるな……めっちゃ照れてる。
動きが物凄く可愛いぞ。
『分かりました……ゼス。ですが、私はここに残ります』
子供達の方を見て、再度ゼスを見る。
『もう一年ですので、衰えました。それに、食事を作るのは……何よりも楽しいので』
ゼスは其れを聞いて、一瞬驚いたが、直ぐ安堵した表情で『わかった』と呟いた。
『だがしかしっ! この麗しの尻尾の君はっ、頂いて行くぞ!!』
『……はぁ!?』
ゼスは、私を肩に担ぎ上げ、意味の分からない事を、大声で宣った。
『ちょっとゼスっ、離してっ!?』
暴れる私の尻尾が、ゼスの顔に当たり、凄い幸せそうな顔をしているっ!?
どうしたこの元王太子!?
『影さんっ、助けて!!』
『どうぞお持ち下さい』
スパッと切り捨てられた!?
『まって! その子達どうするのさっ!』
担がれたままなので、ゼスの背中を、あらん限りの力で叩くっ!!
『──っ、硬!?』
『この子達の事はご安心下さい。私が責任を持って守り、育てますので。責任者ですから』
私に丸投げしてたのに今更!?
子供達も含め、全員がにやにやしているんですけどっ、なんでなのさ!?
「私にもっ! 選ぶ権利が有ると思うの!!」
ゼスが少し項垂れた。
ごめんねゼス……私本気で言ってるからね。
『……行こうか』
私を担いだまま、ゼスがゆっくりと歩き出した。
暴れても暴れても逃げれない。
馬が繋がれており、私を担いだままゼスは、軽やかにそれに乗る。
『私嫌なのにっ、何で皆んな助けてくれないのっ!』
私が必死の抵抗をしていたら、徐ろに影さんが、被っていた黒外套を取った。
「それでは、百五十…いえ、ユカリ様。どうか、お幸せに」
影さんの顔!?
美人エルフ!?
まって誰今何て言ったの影さん。
ユカリ……私の名前って、ユカリ?
子供達が集まって、皆んな手を振っている。
皆んな笑顔だ。
影さんはお幸せにって言ったけどさ、こう言うの、何て言うか知ってるのかな。
『これただの人攫いだからあああああああああああ────!!』
理不尽過ぎるよね。
本当に。
心からの助けを、求めているのに!!
それを見届けていた影に、見えていたモノ。
小々波 由香里(転生者)
称号・リシュエルの悪戯
影は願う。
どうか彼女が、幸せでありますようにと。
また何処かで、逢えますようにと。
◇ ◇ ◇
王都近郊にある、穏やかな村。
獣族だろうと、心良く受け入れてくれた、とても優しい人達が住まう、小さな村。
『おっ、指を動かしたぞ!? 可愛いなぁ』
『あぅぅ、だぁ!』
『もぅっ、そろそろ仕事に行きなさい!』
『あぶぶっ』
こうして可愛い娘と、親バカになってしまったゼスと三人で、暮らしている。
『もうちょっと! もうちょいだけ!』
『だーめっ。パパに行ってらっしゃい、しようねー』
『ばぁばぁっ』
『くぅっ! ウチの娘が可愛い過ぎるてっ、行きたくないけど行って来ます!!』
幸せな毎日。
望んでいた、普通の日常。
『ふふっ、もう立派なお父さんねぇ』
『うぅぅぅぐぅっ!』
でも、それも、いつか終わる。
分かっているから。
知っているから。
あの夢の出来事は、必ず起きてしまう。
『まぁぅ……ぅぃ…』
『おねむの時間だね。よいしょっ……重いなぁ。あの子よりは、軽いけどさ』
この子を、必ず守る。
私の胸で眠るこの子を、守ってみせる。
『ミルン……私の可愛い娘』




