5話 異世界の現実.1
異世界とは
【5話 異世界の現実.1】
ミルンに追われて、一体どれ程の時間が過ぎたのだろうか。
俺は今、ボロ屋と川、森の位置から考えて、ミルンが言っていた"村"を探している。
人種の村。
獣族は村に入れないと言っていたので、避難所としては、最適でだろう。
「まだ股間が、ヒュンっとなってんじゃん」
股間を押さえながら森を進むと、ふと、小麦粉の焼けた匂いが漂って来た
「こっちか!?」
少しワクワクしながら匂いを辿り、光が差し込み森を抜けた先で躓き、目の前の落とし穴に落ちて────そのまま意識が飛んでった。
◇ ◇ ◇
両親が死んだ。
その連絡を警察から受けたのは、仕事での受注ミスにより、会社から『お前、クビ』と、解雇通告を受けて、家に帰っている最中だった。
特別、仲が良いとか悪いとかといった事も無い、ありふれた普通の家族。
きっとこのまま帰ったら、呆れられた後に、背中を押してくれるだろう。
そんな普通の家族だ。
そんな時に、両親の訃報。
二人で買い物中に、薬物中毒で頭が飛んでいる奴が、母に襲い掛かり、それを護ろうと父が庇って、結果二人共が亡くなった。
周りの人は、何もせずただ見ていただけ。
残ったのは、多額の保険金。
寄って来るのは、マスコミ、知りもしない親族、金を貸してたと宣う糞。
糞な奴等と何やかんやと争った後、結果全て俺が相続する形に納まった。
全力で、そうなるように納めた。
結果、独りぼっちの、アラサーニートの出来上がりっと。
お金があっても贅沢する気も無く、起きて飯食って、糞して、スーパー行って、飯食って、糞して、寝る。
そんな時ふと、思ってしまう。
生きているだけの毎日を過ごしている俺は、何も残せずに死ぬのだろうと。
◇ ◇ ◇
『おいっ、起きろ!』
遠くで、おっさんの声が聴こえる。
俺は薄っすらと目を開けて、直ぐ閉じる。
『あっ、こらっ起きろって!』
遠くで、おっさんの声が聴こえる。
俺は薄っすらと目を開けて、直ぐ閉じる。
「起きろって言ってるだろう!!」
ドンッ────「痛っ、何しやがる!?」
このおっさん、俺の腹に何やったっ、糞痛いしっ、痣になったらどうすんだ。
俺は身体を起こし、周りをみる。
前には鉄格子。
側面には壁。
後ろにも壁。
ニ畳程の広さに、角には小さな臭う穴。
「……牢屋じゃん」
「ようやく起きたか。あと少しで村長が来る。お前が何処の誰かは分からんが、失礼の無い様にしろよ!」
おっさんが、棒を俺に向けながら注意しきたけど、さっきの痛みっ、その棒で突きやがったのか。
「おい、Mに目覚めたら、責任取らせるぞ!」
「Mって何だ……っ、尻をこっちに向けるな! 気持ち悪い!」
Sに目覚めても責任取らせてやる。
俺は心の中でそっと呟いた。
村長とは、読んで字の如く村の長と言う。
イメージとしては、杖をつき、棺桶に下半身を突っ込んでいる様な、よぼよぼしおしおの、おじいちゃんだ。
目の前の生物を見る。
目算二メートルの高身長。
短髪で刈り上げられた頭。
筋骨隆々でたっぷりと日焼けした肉体。
歯がやたら白く常に笑顔を向けてくる。
「やあ、はじめまして!」
────ムキィッ(手を後方で組み)
「私がこの!!」
────ムッキィッ(爪先立ちで)
「ラクレェル村のぉおおお!」
────ムキッムキッ(大胸筋が歩いている)
「村長…ふぅぅぅむんっ!!」
────ムキッムキッ(ゆっくりとポージング)
「ヘラクレスゥゥゥウ! ヴァント!!」
────ムッキィ!!(両腕を前に持ってきて)
俺は牢屋に居る為、逃げる事が出来ない。
だからこそ、余計な事は言わず、無心に徹さなければならない。
でも、コレだけは、ハッキリ伝えよう。
「気持ち悪い奴だ!!」
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが2上がりました(気持ち悪い奴だ!)
ピンポンパンポーン(下がり調)
俺は牢屋から出されて、なぜか村長宅にお邪魔している。
「あっはっはっは! あんなに真っ直ぐに、気持ち悪いと言われたのは、妻以来だぞ!」
「あーっ、はいはい。ご馳走さん」
気持ち悪い筋肉の癖に、嫁さん居るのか?
嫁さん……凄い奇特な人なんだな。
「改めて。ラクレル村の村長をしている、ヘラクレス、ヴァントだ」
普通に握手を求められた。
若干汗ばんでるっ、触りたくねぇ。
「俺は、小々波、流だ。流で良い」
嫌な気持ちを、顔にも態度にもだしながら、握手をする……やっぱり生温かい。
「はっはっは、宜しくな流君!」
────ミシィッッッ!!
「手を握り潰さんばかりに握ってくんな! 痛てぇよ離せこの野郎! 湿ってるんだよ!」
俺が何故、あの牢屋に居たのかの理由を、村長が話してくれた。
俺は、村人が作った罠にかかり、頭から突っ込んで、尻を半分出した状態で、見回りの人達に見つけられた。
様相から、他国の間者じゃ無いのかと、念の為牢屋に入れられていたらしい。
「で、何で牢屋からだしたんだ。間者かどうか、普通調べるだろ?」
俺の問いに村長はこう答えた。
「弁明をする訳でも無く、私の自己紹介に対して褒める事もせず、逆に貶してくるのだから流くん、君は他国の間者では無い」
歯をキラッとさせるな。
仰る通りで、間者では無いな。
「しかし、この国の人種と言う訳でもない。さて、流くん。君は一体何者なのかね?」
異世界人です!
そう言っても、信じてくれますか?
無理?
無理だよねーははは。
「ここが何処だか分からないし、何で来たのかも知らん。俺は唯のおっさんだ……」
村長が、何を考えているのか分からない笑顔で、ずっと見つめてくる……暑苦しい!
「ふむ。一先ずは、そう言う事にしておこうか! 見た感じ、悪意がある訳では、無さそうであるしな!」
はっはっは!と笑いながら、村を見て回っても良いとまで言われ、なんとか追求されずに済んだ。
「行く所が無ければ、村の出入り口の直ぐ近くに、空家がある。そこを使うと良い!」
住む場所まで用意してくれんの?
この村長、何を考えてんだ?
この村の名前は、ラクレル村。
国の名前は、ジアストール国と言うらしい。
王都まで馬車で3日。
ラクレル村は、家屋が30戸、人口凡そ100人程の、そこそこ大きな村だ。
ラクレル村は、高さ五メートル程の木の塀で覆われており、いわゆる物見櫓と思われる建物が、村の四方に設置されていた。
「異世界って言っても、のんびりしてるなぁ」
散策がてら村の中心に来たのだが、さっきからずっと、村人達の視線を集めている。
聞き耳を立てると────「ふむふむ」
見慣れない顔。
赤い服。
赤いわ。見慣れない。
どこか怪我。
頭がおかしい。
頭おかしい?
おかしいのね。
聞こえてますよ? そこの奥様方。
「誰の頭がおかしいだゴラァアアアアアア!!」
俺は颯爽と村長宅へ戻り、お願いする。
「村長! 服を脱げ!!」
「何を言ってるのだ流君!?」
村人A装備セットを手に入れた。
うん、さっきまでとは違ってそこまで視線を集めていないな。
「それじゃあ、使っても良いって言っていた空家を、見に行くとしますか……?」
空家の場所が分からん。
出入り口近くにあるって言っていたよな?
無いぞそんなもん。
「どうした、そんな所で立ち止まって?」
俺がそわそわしていたので門番さんが来ちゃいましたね。
「すみません。村長から、空家を使って良いと言われて、見に来たんですけど。空家って何処にあるんですか?」
門番さんに丁寧に聞いてみる。
「空家?」
門番さんが首を傾げ、周りを見ている。
空家無いのか?
「あぁ…あの家か!」
良かったあるのか。
「ほら、あれだ」
門番さんの指の先、確かに建物はある。
あるんだけど、何でアレ?
アレって、普通に邸宅って言うよな。




