5話 異世界の現実.2
村長とは、読んで字の如く村の長と言う。
イメージとしてはヨボヨボの杖をついた棺桶に下半身を突っ込んでいる様なおじいちゃんだ。
目の前の生物を見る。
目算二メートルの高身長。
短髪で刈り上げられた頭。
筋骨隆々でたっぷりと日焼けした肉体。
歯がやたら白く常に笑顔を向けてくる。
「やあ、はじめまして!!」
ムキィッ(手を後方で組み)
「私がこの!!」
ムッキィッ(爪先立ちで)
「ラクレェル村のぉおおお!!」
ムキッムキッ(大胸筋が歩いている)
「村長…ふぅぅぅむんっ!!」
ムキッムキッ(ゆっくりとポージング)
「ヘラクレスゥゥゥウ! ヴァント!!」
ムッキィ!!(両腕を前に持ってきて)
俺は牢屋に居る為逃げる事が出来ない。だからこそ、余計な事は言わず無心に徹さなければならない。でも、コレだけは伝えよう。
「気持ち悪い奴だ!!」
ピンポンパンポーン(上がり調)
レベルが2上がりました(気持ち悪い奴だ!)
ピンポンパンポーン(下がり調)
※
俺は牢屋から出て村長宅にお邪魔している。
「あっはっはっは! あんなに真っ直ぐに気持ち悪いと言われたのは妻以来だぞ!」
よく分からない生物に気に入られたからだ。
「改めて、ラクレル村の村長をしているヘラクレス ヴァントだ」
普通に握手を求められた。
若干汗ばんでるよ触りたくねぇ。
「俺は、小々波 流だ。流で良い」
嫌な気持ちを顔にも態度にもだしながら握手をするやっぱり生温かい。
「はっはっは、宜しくな流君!!」
手を握り潰さんばかりに握ってくる痛てぇよ離せこの野郎! 湿ってるんだよ!!
村長が言うには、俺は村人が作った罠にかかり頭から突っ込んで尻を半分出した状態で見回りの人達に見つけられ、様相から他国の間者じゃあ無いのかと念の為牢屋に入れられていたらしい。
「で、何で牢屋からだしたんだ? 間者かどうか普通調べるだろ?」
俺の問いに村長はこう答えた。
「間者であれば、あの状況下でまずやらない事。私に対して弁明をする訳でも無く、私の自己紹介に対して褒める事もせず、逆に貶してくるのだから流くん、君は他国の間者では無い」
歯をキラッとさせて。
まぁ仰る通りで間者では無いな。
「でもこの国の人種と言う訳でもない。さて、流くん。君は一体何者なんだい?」
異世界人です! って言っても信じてくれますか? 無理? 無理だよねーははは。
「ここが何処だか分からないし何で来たのかも知らん。俺が何者かって? 唯のおっさんだよ?」
村長が何を考えているのか分からない笑顔でずっと見つめてくる暑苦しい!
「ふむ…一先ずはそう言う事にしておこうか! まあ見た感じ、悪意があるって事でも無さそうだしな!」
はっはっは! と笑いながら村を見て回っても良いとまで言われ、なんとか追求されずに済んだ。
「行く所が無ければ村の出入り口の直ぐ近くに空家がある。そこを使うと良い!」
住む場所まで…良い人なのか?
※
ラクレル村は、王都ジアストール国から馬車で3日程の距離にあり、家屋が30戸、人口およそ100人。村としては規模が大きい方だという。村は高さ五メートル程の木の塀で覆われており、いわゆる物見櫓と思われる建物が村の四方に設置されていた。
「異世界って言っても、のんびりしてるなぁ」
散策がてら村の中心に来たのだが、さっきからずっと村人達の視線を集めている。
聞き耳を立てると────
見慣れない顔ー赤い服ー赤いわー見慣れないーどこか怪我ー頭がおかしいー頭おかしいーおかしいのね。
────聞こえてますよそこの奥様方。
「誰の頭がおかしいだゴラァアアアアアア!!」
俺は颯爽と村長宅へ戻りお願いする。
「村長! 服を脱げ!!」
「何を言ってるのだ流君!?」
村人A装備セットを手に入れた。
うん、さっきまでとは違ってそこまで視線を集めていないな。それじゃあ使っても良いって言っていた空家を見に行きますか。
空家の場所が分からん。
出入り口近くにあるって言っていたよな?
無いぞそんなもん。
「どうした、そんな所で立ち止まって?」
俺がそわそわしていたので門番さんが来ちゃいましたね。
「すみません。村長から空家を使って良いと言われて見に来たんですけど探しても見つからなくて、空家って何処にあるんですか?」
門番さんに丁寧に聞いてみる。
「空家?」
門番さんが首を傾げ周りを見ている?
空家無いのか?
「あぁ…あの家か!」
良かったあるのか。
「ほら、あれだ」
門番さんの指の先、確かに建物はある。
あれ…普通に邸宅って言わね?