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◆食いしん坊転生者が食卓の聖女と呼ばれるまで◆  作者: ナユタ
◆熟練度・後期◆

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67/86

*21* 初のお酒ができました。


 お城に招かれてから早いもので三週間。


 その間ずっと寂しさを紛らわせるためと、早めの放逐目指してせっせと働き続けていたら、周囲から四日ほど休むようにと説得されてしまった。


 全然疲れがないので最初は断っていたものの、暦を見ればなんともう年末まで残すところ四日。そしてもっと大切なことに、前世から合わせて人生初の自家製酒がすでに飲める時期。


 そのことに気づいた瞬間、脳内の労働スイッチが完全に休暇モードに切り替わってしまった。これはもう飲まねば……じゃなくて、まずはコーヒー豆を引き上げないといけない。


 通常の作業は明るい時間帯にやりたいところだけれど、明日から四日の休日ともなれば善は急げだ。部屋で一人でとる夕食もそこそこに、大急ぎでお風呂を済ませ、お酒の瓶が入った鞄を引っ提げてお城の朝食用の厨房に向かう。


 この三週間、途中で道に迷って城内で遭難しかけること数度。私が唯一憶えた道順は書庫と朝食用の厨房、それからお手洗いだけだったりする。


 なぜ朝食用の厨房かといえば、夕食用の厨房よりも触ってはいけない複雑なものがないからだ。銀食器やお高いお皿が少ないので、盗んだとしても夕食用の厨房よりも被害が少なく済むということらしい。盗みませんよ、失敬な。


 厨房に向かう目的は一にコーヒー豆の引き上げ。二にオツマミを作るためである。一人酒は侘しいけれどオツマミは手を抜きたくないというのが、今世での私のモットーだ。


 幸いにも朝食専用の厨房にあるものは、勝手に使ってもいいという許可を得てある。だからお弁当を作るのも朝食用の厨房なのだ。たどり着いた厨房を覗くと、当然ながら夜の十時を回った時間帯には誰もいない。


 灯りを持ってきておいて良かったと思いながら、早速いつも使う作業台まで移動した。


 鞄を肩にかけたまま取り出したお酒の入った瓶を作業台の上に置いて、灯りを暗がりに掲げ、光が反射した手近な場所に引っかかっているレードルに手を伸ばす。


 ついでにあとで消していくから、作業台に一応設置してある燭台へと自分の持ってきた灯りの火を移した。


 仄明るくなった作業台の上に瓶を置いて手持ちの灯りで中を照らせば、茶色く色づいた瓶の中でコーヒー豆が泳いでいる。氷砂糖はすっかり溶けて糖度の高さを物語り、靄のようにもったりとコーヒー豆を巻き上げた。


 深呼吸を一つ、少し固い瓶の蓋をググッと力を込めてひねる。上にはめ込まれたガラス蓋が開いただけでもかなり強くコーヒーが香り、期待が高まったけど……二つ目のコルクで作られた蓋がなかなか手強かった。


 糖分でみっちりと瓶に張り付いて漏れない代わりに開きもしないという、究極のそうじゃない感。結局開けることには成功したものの、コルクの縁を挟んで隙間を作るのに使用させて頂いた鉄串がちょっと曲がった。バレたら謝ろう。


 誤差程度になるまで直した鉄串をソッと元の場所に戻し、いざコルクでできた蓋を開けると、強い酒精と氷砂糖で丸さを与えられたコーヒー香がブワッと周囲に広がる。レードルを沈める際に水とは違い若干押し返されるような弾力が、氷砂糖の力を感じさせるね。


 コーヒー豆を掬い上げる作業の間中、口の中に唾がこみ上げたものの、結局全部のコーヒー豆を掬い上げたところでコルクの蓋を閉めて、ガラス蓋で元のように封印しなおした。


 別に失敗していると感じたせいじゃない。掬い上げたコーヒー豆を入れた木皿に残ったリキュールを舐めたら、思った通り先にほんのりほろ苦くて、後からくる甘さが引き立つ。


 牛乳で割っても、そのままチビチビ飲んでも絶対に美味しい出来映え。将来的にお店を持てたら絶対に置こうと思った。


 ――でも、今夜はこれは飲まない。


「いつかウルリックさんと飲むんだから、不味くないって分かればいいや」


 自分でもいつになるのか分からないし、そんな日がくるかも分からないのに、口をついて出たのはベラドールで一方的に交わした約束の言葉。


 ――とはいえ。


「舌先にお酒の旨味を感じてしまったからには、やっぱり何か飲まないことには寝られないよね?」


 ということで、灯りを片手にパントリーの中から、風味付けや香り付けに使う赤ワインとブランデーを少々調達してきた。ちなみに朝食用の厨房に必要なものなのかと尋ねられたら、ここで働く料理人の何人かは視線を逸らすに違いない。


 お酒が手に入ったら今度はオツマミの捜索と創作に入る。了承を得ているとはいえ、勝手知ったるよその台所を漁っている現状を家族が見たらどう思うだろうか? 想像してみる間にも、お腹の虫は“気にするなよ”とばかりに盛大に鳴いた。


◆◇◆


 ★使用する材料★


 チーズ      (※クリームチーズ)

 ドライフルーツ  (※レーズンとかクランベリーが◎)

 ブランデー

 砂糖


 チーズ      (※クリームチーズ)

 ベーコン     (※オツマミコーナーにあるスナック系)

 ナッツ      (※オツマミ用の塩味カシューナッツ系)

 カレー塩


◆◇◆


 冬場の厨房には乳製品があって大変よろしいと思いつつ、ほくほくしながらボウルでチーズをクリーム状になるまで練る。練ったチーズを二つに分けて、練り込む種の準備に取りかかった。


 まず一方の小鍋に細かく刻んだドライフルーツと、拝借したブランデーを少々、あとは砂糖を好みの量だけ入れて火にかける。砂糖が全部溶けてドライフルーツが水分を吸ったらお皿に取り、しっかり冷めるまで待つ。


 もう一方は小鍋に油を引かずにベーコンを投入。ベーコンから油が出てきたところでナッツも一緒に炒める。ベーコンがカリカリになったらナッツと一緒にお皿に取って、カレー塩を全体にまぶす。これもしっかり冷めるまで待つ。


 冷めるのを待つ間に赤ワインとブランデーを少しだけ飲み、各材料をちょっとずつ摘み食いする。冬場の厨房は寒いので、どちらも割とすぐに冷めた。ベーコンとナッツはどちらも合わせて砕いておく。


 二つに分けたチーズの一方にはドライフルーツを、もう一方にはカリカリベーコンと砕いたナッツを加え、全体に満遍なく行き届くように練りまくる。そのまま食べてもいいのだけれど、そこは今更ながら少しでもお洒落になるように丸い棒状に纏めて、ちょっとずつ切りながら食べることにした。


 甘いのとしょっぱいのを交互に口に運んで、赤ワインとブランデーをちびちび一人で飲んでいたら、不意に厨房の外から足音が聞こえる。


 夜警の人だったら怒られるだろうかと少し身構えて居住まいを正すと、案の定、足音は厨房の入口で止まった。


 真っ暗な入口付近から淡い灯りの漏れる気配がする。怒られる覚悟をするために、マグカップに残った赤ワインを煽ろうかと悩んでいたら、徐々に近づいてきた灯りの持ち主が「こんばんは、アカネさん。やはりここにいらしたんですね」と声をかけてきた。


 灯りを持って私の目の前に立ったのは、なんとウィルバートさんだった。


 いつもならとっくに自宅に帰っている時間なのにと思って「あれ、ウィルバートさん。どうしたんです、こんな時間にお城に残っているなんて珍しいですね」と疑問を口にしながら、そそっとオツマミとお酒を暗がりの方へと追いやる。


「少し年末行事の打ち合わせで足止めをされてしまいまして。小腹が空いたので帰る前に何か軽く食べられるものでもないかと、アカネさんの部屋に寄ってきたところなんですよ」


「ああ、成程。夜食狙いでしたか。だったらちょうど良いところにきましたね」


「実を言うと廊下を歩いていたときからいい匂いがしていたので、少し期待していたんです。お相伴にあずかってもよろしいですか?」


「アハハ、そんなのもちろん構いませんよ。一人でお酒を飲むのも味気なかったので、ウィルバートさんがきてくれてちょうどよかったです」


 怒られる心配がなくなったので、暗がりからお酒とオツマミを引っ張り戻せば、ウィルバートさんは嬉しそうに笑う。


 お腹が空いていたらこれでは足りないだろうと、パントリーから固くなったパンをもらってきて、叩いて味が沁みやすくしてから、牛乳と卵と砂糖に漬け込んで即席のフレンチトーストを焼いてあげた。


 お酒もあと少しずつ拝借して、二人で他愛のない会話をしながら飲み交わしていたら、ふとついでのようにウィルバートさんが「そうそう、年末行事の式典なんですが、アカネさんも出席してもらうことになりました」と。


 明らかにお酒の力を借りても聞き流せない発言をしたものだから、一気にほろ酔い気分が醒めた。


「え、待って待って、待って下さい。そんなの全然聞いてないですし、一足飛ばしで決定事項なんですか?」


「申し訳ありません。突然横から予定が入ったもので。大丈夫ですよ、式典と言ってもそんな大仰なものではありません。ちょっとした陛下のお話のあとは夜会形式なので」


「全然安心できない情報をどうもありがとうございます。もしかしてもう酔ってるんですか?」


「酔ってませんよ。大真面目です。陛下の顔を見ていないといつも仰っていたので、ちょうど良い機会だからと陛下がご自身で提案をなされたので。直前に思いつきで発言されると困るんですけどね」


 そう言ってあの人好きのする微笑みを、中性的な美貌にのせるウィルバートさんに、初めて若干仄暗い感情を憶えたけれど――。


 私から発されたそれを感じたのか、彼は「当日はイドニア嬢と、ガーランド殿にも会えますよ」と、特大級の餌をぶら下げることも忘れなかった。

今回のオツマミは甘い方は一袋百円ちょっとのドライフルーツでOKσ(´ω`*)

カレンズとかレーズンとかクランベリーの入ってるやつを刻んで、

ひたひたになるくらいブランデーを入れて心持ち多めの砂糖を入れたら耐熱皿に。

ふんわりラップをして電子レンジで5~6分(機種により変動有)柔らかくなったら◎


冷ましてシロップもクリームチーズがだれない程度加え、

ラップにくるんで成形したら冷蔵。切り分けてクラッカーなどと一緒にどうぞ。


しょっぱい方はオツマミコーナーで、

安い小袋のカリカリベーコンとナッツをゲットして。

袋のままガンガン叩いて粉々にしたらクリームチーズに練り込んでね。


カレー塩とありますが塩分が多すぎという方は、

香辛料コーナーでカレーに後入れするスパイスをどうぞ。

オススメはカレーパー○ナー。

こちらも冷蔵庫に入れて冷やし固めてから切り分けてどうぞ。

スパイスの代わりにドライオレガノやドライバジルも美味しいので是非。

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