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◆食いしん坊転生者が食卓の聖女と呼ばれるまで◆  作者: ナユタ
◆熟練度・後期◆

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48/86

*5* 大切な日。【後編】


 広すぎず、狭すぎず。両側から人の気配を感じるものの肘がぶつかるような距離でもなく、そもそも長いカウンター席しかない店内は、前世だと廃れ始めた止まり木式の座りにくい腰かけ。


 長居はするなという店主の無言の圧力を感じる華奢なバーにかけ、お行儀が悪いけれどバランスが悪くて怖いので、カウンターに肘をついて木製ジョッキの中身をあおる。


「はあぁぁ……昼間から飲むお酒って背徳の味がするって本当ですね。このミルクと蜂蜜で割ったホットブランデー、身体が温まるし美味しいです」


「そうだろオッサン。お代わりしても良いぞ」


「まだうら若き乙女ですよって言いたいですけど、美味しいものを教えてくれるならどんな呼ばれ方でも返事しますよ。あとお代わりは是非頂きます」


 “ガキ”から人生早送りで、おまけに性別まで代わって“オッサン”呼びになってしまったけれど、買い物で冷えた身体を美味しいお酒で温められた満足感でもう帳消しだ。今の季節の太陽光は弱いから、前世でも異世界でも変わらず昼間であろうが空は薄暗い。


 ペンダントランプが照らす店内には、私達の他にも数人の冒険者風な人達がいて、この仕事に就いている人達が前世でいうところの自営業なのだと窺える。


 足許で雪の積もった路上を歩いて濡れた肉球を舐めていたシュテンには、お店の人に頼んでホットミルクをもらった。あっと言う間に飲んでしまったけど二杯目がないことを知るとしょんぼりしてしまったので、鞄から塩抜きしたベーコンをあげると一転ご機嫌に。


 フサフサの尻尾を振りながら「クーゥ」とお礼を言ってくれるシュテンは、親バカだと言われようがうちの子が世界一可愛いと思わせた。これで戦闘時には身体を捻って敵の急所を食いちぎる猛者なのだからすごい。


 時々その口で舐められているのだと思うと……動物を飼っている人なら誰でも感じるジレンマに陥るけど。


 その様子を見ていたウルリックさんが「似たもの主従だな」と喉の奥で笑う。そこで私が「食い意地のはってる奴を呼び寄せちゃう人が隣にいますからね」と言えば、カウンターの中で立派な髭のマスターが笑う気配がした。


「夕食後のオツマミの材料がいっぱい買えたし、宿屋に戻ったら早速準備に取りかからないとですね。ふふふ、腕が鳴るなぁ。やっぱりお酒初心者なら、最初は口当たりの良いシェリー酒とかから勧めた方がいいですかね?」


「いや、どっちかと言えば無濾過のワインか麦酒の方がいいだろ。口当たりが甘くて飲みやすいのは最初に飲ませるとひどい酔い方するぞ」


「あー、確かに甘いお酒って度数が高いのにカパカパ飲んじゃいますもんね」


「今のオマエがまさにそれだろ。無意識のうちに二杯目の半分なくなってるぞ」


 まさかと笑いつつ暗緑色の瞳に促されて木製ジョッキの中を見ると、何ということでしょう。さっき空になったジョッキの中に新たにお酒が湧いたわけでなかったら、空になったジョッキと新しいジョッキを取り替えてもらったことに気づかずに、すでに二杯目を半分飲んでいたらしい。


 カウンターの中からマスターが「もう一杯いるかい、剛毅な飲み方の嬢ちゃん」と言ってくれたけど、それに慌てて首を横に振る。昼は何となく夜に飲むよりもペース配分がおかしくなるものだと学んだ。


「あはは……この後にナイフを使う用事があるので、もう止めときます。あの、もしよかったらこれのレシピを教えてもらえたりしませんか? 勿論代金とこちらの手持ちのレシピを代わりに置いていきます」


 すると隣で素のブランデーを飲んでいたウルリックさんが、私の狙いを察して呆れたように「部屋で飲んで潰れようって腹か」と言う。うう、だって美味しかったんですもん。


 私達のやり取りに今度は声を上げて笑ったマスターは、ちょっとだけ物語に出てくる気の良いドワーフみたいだ。マスターは「良いぜ。その代わり旨くて簡単なのを頼むよ」と応じてくれる。


 現在お店にあるもので大量に作れるものということになったから、マスターにカウンター内に入れてもらって物色したところ、どこに行っても定番の様なニンニクとジャガイモと、嬉しいことにマスタードもあった。


 お酢と砂糖もあるし、ソーセージが大量にあるからその付け合わせを作ることにしようかな。


◆◇◆


 ★使用する材料★


 ジャガイモ

 ニンニク

 チーズ    (※粉チーズでもピザ用でも可)

 ゆで卵    (※あれば潰して入れると美味しいよ)

 塩、砂糖、お酢、マスタード


◆◇◆


 まずニンニクを潰したあとに叩いて細かいペースト状にし、次にジャガイモの皮を剥いて簡単に串が通るまで茹でる。


 熱いうちに潰して調味料を全部加え、チーズを投入。マスターの非常食であるゆで卵があったので、許可を得てそれも潰して加える。チーズの溶け残りがなくなったら完成。


 マスターは一口匙で掬って口にすると、無言で半分ほどごっそりと別のお皿に移してカウンターの下に隠し、残りをカウンターの上にあるソーセージの隣にどかっと並べる。味の言及はしないまま今度はマスターが顎をしゃくって「見とけ」と棚からブランデーの瓶を取り出し、小鍋を手にする。


 後ろから覗き見てレシピを憶える間、ウルリックさんは「ちょっと離れるが、すぐ戻る」と言い残し、シュテンと私を置いて一旦店を出てしまった。


 ウルリックさんがいなくなったことで少しだけ不安そうにしてしまったのか、マスターが「さっきの兄ちゃんは恋人かい?」とからかってくる。驚いて「違いますけどもっ!」と声を裏返して否定したら、店内のお客さん達が一斉に声を上げて笑うから、酔いではない熱に全身が支配されたじゃないか!


◆◇◆特別授業◆◇◆


 ★使用する材料★


 牛乳      

 ブランデー   

 ハチミツ    

 あればオレンジピールか洋酒漬けチェリー数個

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 小鍋にハチミツと牛乳を加えてフツフツするまで温めて、香りが飛びやすいブランデーを加えた後はなるべく熱しすぎないように。オレンジピールを底に沈めればできあがり。


 牛乳とブランデーの分量を訊いたところ、マスターは常連さんによって牛乳とブランデーの比率を変えているらしい。要するにお好みの分量でということなのだろう。ちなみに私のは一杯目は牛乳とブランデーが二対一の割合で、二杯目は一対一だったそうだ。……気づかなかったや。


 三杯目は特別に無料で飲ませてもらえたので、それを飲みながらご機嫌で待っているところへウルリックさんが帰ってきて、無言でまだ中身の残るジョッキを取り上げられてしまった。


 店内からの視線が一気にこちらに向いたことを訝しむ彼を先に店の外に追いやって、ドワーフなマスターにお礼を言って外に出ると、店の中と外の気温差に身体が縮こまる。


 ウルリックさんが「寒いしとっとと戻ろうぜ」と笑う足許では、うんと伸びをするシュテンの姿。けれど大急ぎで宿屋に帰りたいような、寒くてもまだこうして二人と一匹で歩いていたいような不思議な気分に足が止まる。


 早く戻ってイドニアさん達が帰ってくる前に、たくさんオツマミを用意しないといけないのにおかしいなと感じていたら、私の微妙な変化に気づいたウルリックさんが「寒くてぐずるガキかよ」と苦笑したかと思うと、急に手を取られた。


 そのまま掌に何か小さいものを握らされて「やるよ」と言われ、握り込んだ手を開くと、そこには細長い筒状の紅白のものが二つ。長さは小指分くらいだ。どちらも一方の根元に、細い同じ材質で作られた釘のようなものが差し込まれている。


 曇り空に翳してみると、白ではなくやや黄みがかった象牙色と朱色で着色された木製のビーズだと分かった。ツルリとした表面が漆塗りのようで綺麗だ。筒状になっているせいで元の強度より落ちていそうなはずなのに、すごく堅い。


 ストローのように空いた穴を覗き込んでから「綺麗ですけど、何に使うものなんですか?」と訊けば、ウルリックさんは「そこからかよ」と微妙にバツが悪そうに頭をかいて、私を道の端に寄るように手招く。


 素直に建物の壁に背を預けるウルリックさんに近寄れば、いきなり片方の三つ編みを掴んで軽く引っ張られる。焦って「そんなことしたら解けちゃいますよ」と言う私に向かい、仏頂面をした彼が「一旦解くんだよ」と言って、その通りに簡単に結わえていた紐を解いてしまった。


 そして木製ビーズを一つ手にすると木製の細い釘を抜いて、その筒の中に入る髪……ちょうど解いた分量を入れる。一度耳の上の生え際まで持ち上げると、下に出ている分の髪を慣れた手つきで三つ編みし直して、再び筒を引き下げた。


 束ねた毛先が隠れる部分にまで下ろしたそれに、抜いてあった釘を差し込めば、筒はそれ以上下がらない。


 ――と、ここまでしてもらってから初めてこれが髪留めの一種なのだと分かった。でもそれが分かったところで顔は火を噴きそうなほど熱いし、今度はこんなに可愛い髪留めをもらえる理由が分からない。


 けれど私がその理由を訊ねるより早く距離を取った彼が、両手を上げて「今年の誕生日分だ」とぶっきらぼうにそう言った。


 そしてすぐに皮肉屋な笑みを口許に浮かべて「酒臭いから、もう一方は自分でやれよ」と続け、宿屋への道を先に歩き出した。あれほど歩き出すことを拒んだ足は、その背中を追いかけるために地面をあっさり離れて進む。

ジャガイモは電子レンジで時短して。

冷めてチーズが溶けなかったらレンジで温めてね。


牛乳50ccに砂糖を大匙1~2加えて600wのレンジで30秒温めたものを、

100均のミルクフォーマーで泡立てたものを加えると一気にオシャレに。

砂糖を入れる場合はハチミツはなしか控え目に入れてね。

端から見てもお酒飲んでる感が薄れてオススメです(*´ω`*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本当は最新話まで追い付いてから感想を書きたかったけど、もう我慢できなくなっちゃったし、巻物級の長文になってしまうことが丸わかりなので、とりあえず今書いちゃいます(既に前フリが長いという………
[良い点] 髪触るって、、、(*˘︶˘*).。.:*♡ [一言] ブランデーの絶対美味しいし、おつまみお腹空きますし、ふたりが唸らせるほど可愛くて幸せです。
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