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昔からお人好しという人種が好きじゃない。挙げられる理由としては様々あるが、寄りかかってくる有象無象を許して最終的に駄目になるからだ。
どこかで助けを求めないとそうなることは分かっているのに、何故だかそういう奴等は使い潰されてひっそり死ぬ。随分前に仕事でチラッと組んだことのあるパーティーにいた剣士が、無茶な難易度の仕事に挑んだ同郷のリーダーを庇って死んでいたことがある。
あの時のメンバーはそいつの死後も数名のお人好しを使っては死なせ、いつの間にかちゃっかり金剛石にまで登り詰めていた。胸糞の悪い話だ。でもそれも仕方がない。腹の中を読み切れなかった奴が悪い。
そんなことが何度かあってからはずっと一人で仕事をしていたし、お人好しという人種にも近付いていなかった。
だが目の前で討伐を手伝ってくれた他のパーティーメンバーに、謝礼代わりに魔力を増幅させる飴を大量に手渡すお人好しは、自分で拾ったからかそこまで腹立たしくはない。向こうも拾われたからか知らないが、我を通してまで何かをしようとする質でもない奴だ。
無理をしていることがあれば、逃がしてやるのもこちらの差配次第。そういうところでは安心して見ていられる。
ただそれを受け取る側のパーティーリーダーが何となく気になった。魔法戦士という半端だが、その分攻守どちらにも使い回しのきく職業だ。
連れている仲間も青宝玉と翠玉という高ランカーだけで揃えている。職業にしても女魔導師と、双剣使いの女が一人、戦士の男が一人、楯兵が一人とバランスは良い――が、如何せん微妙な頭数だ。
暢気な笑顔を浮かべるアカネを見つめる向こうのリーダーの表情は、端からでも好意の色が見受けられる。この場で気づいていないのは恐らくアカネだけだろう。
しかも向こうのメンバーの連中が、さっきからやけに俺に好奇の視線を向けてくるのも居心地が悪い。ガーランド達も気づいているのか、こっちに何か問いたげな視線を向けてくる。
第一、ただ談笑しているだけの二人の間に保護者枠が出しゃばるのも妙だろう。複数人から向けられる視線に辟易してダンジョンの壁にもたれて目蓋を閉ざしたその時、不意に「わ、どうしたの急に?」というアカネの声が聞こえて目蓋を薄く持ち上げれば、談笑していた二人の間に無理矢理その巨体を割り込ませるシュテンの姿があった。
辛うじて唸りはしていないもののめくれ上がった口許からは、大の男の親指ほどありそうな牙が剥き出しになっている。慌てて「こら、いきなり失礼なことしないのシュテン。ごめんなさい」と謝るアカネ。
魔法戦士は突然割り込んできた従魔に驚いた表情を浮かべるも、すぐに「君によく懐いているんだな」と感心したように笑った。
人当たりの良い笑みだ。冒険者家業のくせに世慣れた感じもあまりない。時々こういった奴が紛れ込んでくる。
食うに窮した家族を養うために冒険者になるもの、将来への備えに向けて冒険者になるもの、貴族の護衛などを介してスカウトされることを期待して冒険者になるもの。
わざわざこんな職に就く理由や目的は人それぞれだが、誰だって将来的には安定と幸せを手に入れたいと思っているだろう。同時にその思いを強く持っている奴というのは、多かれ少なかれ地味な人間に惹かれる。
分かりやすく説明するならば、命のやり取りをする場に普通の感性を持ち込む一般人だ。大抵美人でも美男でもない。それでも冒険者をやっている奴が家庭を持つときに選ぶのは、意外とそういう人種が多い。
視界の先で「手伝ってもらったのに本当にごめんなさい。お詫びに今日の夕飯は皆さんの分も作りますね」と、お人好しがまた自分の仕事を増やす。動きのない俺に勝手に痺れを切らしたイドニアが「わたしも手伝うわ」と割り込み、ガーランドがこちらに向かって呆れたような視線を寄越す。
何故巻き込まれて付き合っているこっちが、そんな非難の目で見られなきゃならんのだ。苛立って短く舌打ちをすれば、それまでこちらを見なかったアカネが振り向いて「あぁ、そっか。引き留めすぎですよね?」と見当違いなことを口にする。
違うと言うべきか迷ったものの、確かにアカネの言うように礼を言うだけで時間がかかりすぎだとも思ったので、無言のまま頷く。
するとアカネは何の疑問も持たずに「それじゃあ、また夜に食堂で」と、相手のメンバー全員に向けた言葉をかけ、それに少しだけ苦笑した魔法戦士が「ああ、また夕食で」と応えてぞろぞろとダンジョンの奥へと下りて行った。
冷ややかな視線を向けてくる二人を無視してシュテンを呼べば、何故か呼んでもないのに一緒にこっちに寄ってきたアカネが、腹の虫を鳴らして「お昼にしましょうか」と笑う。その間抜けな表情を見ていたら苛立っていた心も不思議と凪いで。
無視したままにしようと思っていたガーランド達に「飯にするか」と、毒気を抜かれて声をかけてしまったのは、何とも締まらない話だな。
***
「えぇと、ウルリックさん。他意がないのは分かってるんですけど、ちょっと距離がですね……」
「何だ、手伝おうにもやり方が分からないと手伝えんだろ。それとも後ろから覗いてると邪魔か?」
昼間に手伝うと息巻いていたイドニアは、思った通り皿を運ぶ程度の役にしか立たず、同様にガーランドの奴も大して役に立たなかった。金に余裕がある連中は大抵外食で済ませるから当然と言えば当然か。
そんなわけで、結局炊事場で大人数分の夕飯の支度を手伝えるのが俺しかいなかっただけだ。
結果的にまた巻き込まれたと思うのに、旋毛を見下ろす形で手許を覗き込んでいる先で「邪魔じゃないですけど緊張しますよ」と言われると、昼間の奴との距離感はどうなんだと思う。
よほどそう言ってやろうかと考えたものの、口から出たのは「晩飯食って部屋に戻ったら、久し振りに晩酌するか」という、自分でも意外な解禁宣言で。途端に振り向いて「本当ですか!」と目を輝かせる現金なアカネに苦笑が漏れる。
「距離が近いって言ったのはオマエだろ、声がデケェよ」
「すみません、つい嬉しくて。イドニアさん達も誘います?」
そうはしゃぐ手許の注意が散漫になっているせいで、ナイフの切っ先が人参から自分の指にズレているのも気づかないアカネの手から、呆れつつナイフを抜き取ってカットボードの脇に置く。
“良いんじゃねぇの”と言いかけた唇がふと閉じて、次いで口から出たのは「いや、俺達とシュテンだけで良い。アイツ等も夜ぐらいは二人でいたいだろ」という自分でも理解し難い理由で。
俺が自分でも不自然窮まっていると首を傾げたくなる言葉にも、やはり疑いもなく「流石はウルリックさん。気遣いのできる男は違いますね」と深く頷く姿に、酒が入っていなくともいつか失敗するのではと心配になる。
しかしそう口にしたところで、コイツが首を傾げる姿しか思いつかない。
過保護だと勘違いされるのも癪なので「冷やかすつもりなら禁酒が長引くぞ」と、わざとぶっきらぼうに言えば、すぐに「まさかまさか。最近お酒が飲めなかったから、作り溜めしてあるオツマミがあるんですよ」と調子の良いことを言ったアカネが暢気に笑う。
腕の中にある、暢気とお人好しの合わせ技な馬鹿に「へえ、そりゃ楽しみだな」と皮肉っぽく答えれば、やっぱり通じないのか「はい、楽しみにしてて下さいね」と、その表情しかないのかと言いたくなる気の抜けた笑い方をするから。
こっちもだんだん馬鹿馬鹿しくなって、見上げてくるその黒くて丸い瞳の中に、間抜けな顔で笑って映る。




