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◆食いしん坊転生者が食卓の聖女と呼ばれるまで◆  作者: ナユタ
◆熟練度・後期◆

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44/86

*1* 突撃隣の晩ご飯。


 カクタスのダンジョンに潜り始めるようになって五日も経つと、だんだんと分かってくることがある。ギルドの奥にある扉からお手軽に入れる便利なこのダンジョンは、入口から奥に進むにつれて“深度”という基準で難易度が上がっていく。


 私達が魔獣を倒して紫玉を奪える活動深度はかなり浅瀬の“深度・二”までで、ここは小指の爪サイズのものから、運がとっても良ければ掌大の紫玉を持っている魔獣が出現する。


 だけど随時イドニアさん達が求めている大きさのものを取ろうと思ったら、やや頑張って“深度・三”より奥に進まないと駄目みたいだった。


 その辺りに行くには私達のパーティーはバランスが悪いと言ったのは、ウルリックさんとガーランドさんだ。


 圧倒的な魔力を持つイドニアさんだけなら【金剛石(ディアマント)】クラスまであと一歩の【青宝玉(ザフィーン)】だけど、元から強いガーランドさんで【翠玉(スマラクト)】、最近討伐成績を重ねたウルリックさんは【紅玉髄(カルネオル)】、私は当然何の役にも立てない最下位の【石炭(コーレ)】のままだから当然である。


 無理を通して死んでしまうと元も子もない。それに深度の浅いところで採れるのだって、小さかろうがみんな紫玉。この街で売るには多少よそより安く買い叩かれてしまっても、それなりにお財布事情は潤っている。


 こうなるとすぐに街でレシピを売らないでも生活できるし、何よりイドニアさん達を手伝うと言った手前、まだしばらくはこの街から動けない。


 そういうわけで私達は一般の観光客向けの宿屋から、街の奥にある長期滞在をする冒険者専用の宿屋に滞在することになった。冒険者専用宿屋はカクタスにある冒険者ギルドと商工ギルドの連名で持っているらしく、この街はどちらのギルドも関係が良好なようだ。


 冒険者専用の宿屋と観光客向けの宿屋の違いを分かりやすく説明するなら、冒険者用は長期湯治の人が使うような洗濯も食事も全て自分達で賄う“自炊型”の宿屋で、観光客向けの宿屋は洗濯も食事も全部やってもらえる。勿論お金は後者の方が断然高い。


 上級で揃っている冒険者パーティーは観光客向けの方に泊まるらしく、冒険者専用宿屋は控え目に言ってもガラがよろしくない。その代わり情報収集がしやすいのは利点かな。


 一日の探索が終わってヘトヘトな三人と一匹とは違い、基本的に物陰に隠れてやり過ごすだけの私は、数日で隠れていることに心臓が慣れた……というのは嘘だ。


 でもいちいちドキドキしていたら過呼吸で死ぬのではという恐怖が勝り、結果的に現実逃避という名の賢者モードになれるまでに至った。だからこそ比較的元気な状態で宿に戻ってくることができる。


 一度汗や埃を共同浴場で流して着替えたら大人数が入れる食堂に集まって、各々のパーティーで勝手に炊事場を借りて食事の準備に取りかかるけど、材料は当然自分達で買い込んだり採取したものだ。


 一見無機物でできていそうなカクタスのダンジョンには、思いのほか色々な植物やキノコがあって、私は岩陰に隠れている間、黙々とそれらを採取して鞄に放り込んでくる。


 時々熱中しすぎたり、逃げ出す食材を追いかけて岩陰から出てしまうと、シュテンが飛んできて岩陰に押し戻されたりするのは……反省点だけど。


 作業台の片隅を借りて、鞄の中に放り込んできた食材を並べる。今日の食材は見た目がシャコに似ている節足動物と、エリンギに似たギバというキノコだ。節足動物は仕留めてしまうとシャコみたいに溶けてしまいそうなので、生きている状態で持ち帰った。


 ウゾウゾと蠢く姿はかなり気味悪くて、イドニアさんがこれを見たら絶対に拒絶するだろうから、見せていない。加工すれば多少マシになるよ。たぶん。


 隣でご飯の準備をしようとしていた戦士風の男性が、いきなり凄い距離を取ってしまったけれどきっと大丈夫、うん。


◆◇◆


 ★使用する材料★


 謎の節足動物        (※バナメイエビとかが妥当)

 ギバ            (※エリンギ)

 西洋ネギ          (※白ネギ)

 ニンニク

 節足動物の殻で取ったスープ (※中華スープの素)

 片栗粉

 塩、胡椒


◆◇◆


 まずネギの表面に薄く油を塗り、丸のまま塩をまぶして三センチほどのぶつ切りにする。次に蠢く節足動物のどっちが頭か分からないけど、動きを止めるために串を打つ。


 動きが止まったら手早く殻を洗って、熱した小鍋でニンニクとネギと一緒に油で炒め、ネギに焼き色がついたら少量の水を注いで出汁をとっておく。


 次に丸裸になった節足動物をサッと塩茹でし、串を抜いた節足動物とギバを厚めの輪切りにしたものに片栗粉をまぶし、出汁に浸かったネギを取り出して一緒に別の小鍋でサッと炒める。


 香りが立ったら殻とニンニクを取り除いた出汁を投入し、汁気が減ってとろみがつくまで炒めて完成。メンバーが四人になったことで、取り分けるのは面倒なので、先日ついに購入してしまった大皿に移す。


 量が足りないからもう一度同じものを作る必要があるけれど、下準備は終わっているからすぐにできる。ただ中華風を目指した料理から立ち上る湯気にお腹の虫が獰猛に鳴いたので、節足動物を一つ味見と称して摘み食い。


 思った通りの味になっていることに満足して頷いていると、いつの間にかさっきまでがらんとしていた私の周りに数人の冒険者がいる。その中には距離をあけた戦士風の男性もいた。


 男性はチラチラとこちらの大皿を気にしているようだったので、量も多めにあるし、パンもつけるから「ちょっと味見します?」と訊ねてみる。すると男性は「え、なんか催促したみたいで悪いな」と言いつつ、あれだけ気味悪がっていた節足動物に手を伸ばした。


 最初はああだったけど、今の見た目はもうただのエビなので抵抗感が薄れたようだ。男性はその風貌からは考えられないほどお上品に一口齧って少し咀嚼すると、残りをあっさり口に放り込んで食べてしまった。


 疲れている人用に塩気が程良く足されているエビ擬きを食べた彼は、しばらくその場で動きを止める。そのせいでまた私の周囲から人が少し遠退いた。


 もしや不味かったのかなと心配になる間をおいた彼は、ふと自身の持っていた厚切りのハムをこちらに差し出してきたかと思うと、おもむろに「それさ、少しで良いからこれと物々交換できないかな?」と気恥ずかしそうに提案してくる。


 差し出されたハムに視線をやれば、簡単に目算してみても四人分の小さいハムステーキができそうだ。ほぼ元手のかかっていないこちらの料理と交換するには悪くない。けれど私が無言でそんな計算をしていたら、彼は慌てて「足りないなら、もう少し出せる」と言ってきたので、今度はこちらが慌てる番だ。


 私がそんなにもらえないと断ると、彼は「いや、この味は安売りするものじゃないよ。その代わりにまたここで一緒になる日があったら、こうして交換してくれると嬉しい。僕が作る日の料理はワンパターンだって仲間がうるさいんだよ」とおどけて見せた。


 結局最初に差し出してきた分にさらに同量を足してくれたので、一回目に作った量のほとんどを交換してしまったものの、厚めのハムステーキがシュテンを含めた人数分手に入ったのでよしとしよう。


 けれど困ったことに彼が私の元を離れたら、また別の冒険者が数人寄ってきて交換して欲しいと持ちかけられ、最終的に大皿料理が小鉢サイズになってしまった代わりに、他に交換してもらえた食材で豪華なワンプレート料理ができてしまった。


 途中から何かに似てると思ったらわらしべ長者だ。その後もチラチラとこちらに視線が向けられたものの、申し訳ないけど無視して料理を再開する。案の定、私の帰りが遅いので様子を見にきてくれたウルリックさんに事情を説明したところ、彼は「へぇ」と相槌を打ったあとふと思案顔になった。


 けれどそれも僅かなことで「ま、オマエの連れの俺達だって腹が減ってるんだ。次からそこそこで切り上げろよ」と釘を刺されてしまう。


 そしてまだこちらを見ている他の冒険者達を牽制する彼の後ろを追って、イドニアさん達が待つテーブルに戻ると、二人ともかなり疲れているはずなのに笑って迎えてくれた。


 お腹が空きすぎてぺしゃんこになっていたシュテンには、一際分厚いハムステーキと蒸かしたジャガイモとパン。私達の分は多国籍料理のようになってしまったワンプレートだ。


 イドニアさんが「賑やかね」とはしゃいだ声を上げ、ガーランドさんも「どれも旨そうだな」とそれに応じる。遅くなった理由を尋ねられ、すでに知っているウルリックさんも含めての説明をしたところ、二人はとても面白がってくれた。


 でもウルリックさんはやっぱりまた少し考え込んでしまって。けれどその隙をついて狙った赤ワインの入ったゴブレットはしっかり取り上げられた。


 冗談混じりに不満を口にすると、彼は「オマエはしばらく酒抜きだって言っただろうが。イドニアと一緒にジュースで我慢してろ」と苦笑しながら、美味しそうにワインをあおる。


 うぅ……恨めしいけど仕方ない。早く禁酒令が解かれることを祈りつつ、お酒が進みそうなプレートを前にして、泣く泣くジュースをあおる私だった。

今回のは冷凍のエビでもできます(*´ω`*)<ミックスシーフードから出してw

顆粒中華スープを少量の水で溶いたものを使えば大幅時短の一品。

ネギに塗る油と炒める油はゴマ油がオススメです。

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