表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆食いしん坊転生者が食卓の聖女と呼ばれるまで◆  作者: ナユタ
◆熟練度・中期◆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/86

◆幕間◆漁師と看板メニューの話。


 おいアンタ、アンタだよ、そこの如何にも旅行者か行商の兄ちゃん。今日の水揚げはとっくに終わっちまったぞ。漁師の仕事は早朝が勝負だ。こんな昼過ぎに市場にきたって大した魚なんざ残っちゃねぇよ。ちょっと分けてやるからこっちこい。


 そうそう、オレ達が釣ってきた良い魚は、みーんな女房連中が売り切ってくれたからなぁ。オレ達は魚揚げたら用なしだからよ、ここでチビチビ市場に並べられん魚の残りを食ってんだ。猫みてぇだろ? ほら、安酒とツマミだ。出会った今日に乾杯!


 親方達、いきなり話かけるから困ってるだろ。悪いね旅人さん。皆飲んで気分が良いから絡みたがるんだ。あぁ、俺だけ若いって? 俺ははまだついこの間オヤジの跡を継いだとこでさ、ここの親方連中とは全然比べものにならない水揚げなんだけど、漁が終わったらここで一緒に飲んでるんだ。


 あー、兄ちゃんよ、コイツは漁師にしちゃヒョロイけどよ、魚群を探す目はなかなかのもんだぞ。な?


 網の仕掛けやら引き上げはまだ全然使い物にならんが、十年もしたらこいつのオヤジみたいに一端の漁師になれるだろうさ。


 ちょっと、もー……親方たち飲み過ぎですよ? また奥さんたちに叱られても知りませんからね。あ、そうだ旅人さん。観光客用のまともな魚料理が食べたいなら、下町通りにある古いレストランの新しいメニューがお勧めだよ。一応火が通ってるから海の匂いがダメなよその人にも食べられるって評判なんだ。


 そーそー、なー、あれだ、ほら。この間の。急に俺達の隣の場所貸してくれって。一緒に飲んだ変わり者兄弟だよ。


 ああ、あの綺麗な姉ちゃんに悲鳴上げさせてた似てない兄弟な。


 親方たち、語弊がある言い方は止めてあげなって。あれはあの姉さんと連れの……いや、連れの兄さんは単に巻き込まれてるみたいだったけど。とにかく、何か因縁含みだったし。その二人を懲らしめるのに兄弟の弟の方が、色々生魚を食べさせようとしてね。


 それがな、相手を気絶させたんだよ。最初はケンカの延長で何か毒でも盛ったのかと思ったよな?


 姉ちゃんの方がな。デカい兄ちゃんの方も限界だったみたいだけどな。見てただけのオレ達でもゲッてなったから、ありゃあ食わされた方はもっとひどかっただろうぜ?


 ええと――……まぁ、だいたいそういうわけ。別にこの街の住人だって、魚や貝を生のまま食べようとはしないから。ここの人間がしないなら、よそでは考えつかないはずだ。旅人さんもそうだろ?


 それを生でバクバク食べるんだよ、弟の方は。小さいくせに酒も強くてたんまり飲むしな。


 兄貴の方はあんまりオレ達と変わらん感覚みたいだったんだが、弟の方はありゃゲテモノ食いだわ。大道芸人かと思っちまったね。


 そんなこと言って、今二人が食べてるモトト貝のバターソテーだってあの弟が考えたやつでしょ。だいたいあの後レストランにレシピ売りに行ったんだから、弟の方はきっと料理人の卵か何かですってば――って、へぇ、旅人さん似た兄弟の話を知ってるって?


 兄ちゃんがさっき旨いって食ってた貝な。本体はこんな形してんだわ。いやー、俺達も長いこと漁師やっちゃいたけどな、これは魚の釣り餌としか思っとらんかったんだわ。


 それがあの弟ときたら、オレ達が砂浜で採ってきたこの貝を選別してたら『分けてもらってもいいですか?』ときたもんだ。てっきり釣りをしてみたい観光客かと思ったね。


 あー……大丈夫か旅人さん。この貝、見た目はミスジだけど毒はないから。レストランにレシピを売ったその兄弟が、あんたの知ってる奴等かは分からないけど、少なくとも今の親方達よりは信用できるさ。酔っぱらいの言うことは話半分に聞いて、行動には目をつぶってやってくれよ。明日には何にも憶えてないんだから。


 おおん? 俺達は酔ってねぇ。


 そうだ、酔ってねぇぞヒヨッコ。


 酔っぱらいは皆そう言うんですってば。本当に気にしないで。あのレストランはそんなに高くないから、値段の心配はないよ。船に乗る予定がないなら是非一回食べてみな。損はしないはずだからさ。


 あのな兄ちゃん。このヒヨッコはあのレストランの娘の幼なじみなんだよ。惚れてる女の実家に客を呼び込んでやってんだ。健気だろうが。


 何が健気なもんか。男が告白もしないでこんなとこで旅人引っかけて。間怠っこしいことしてねぇで、さっさと結婚申し込みに行けよ。


 ……親方たち、あとで奥さんに全然酒の飲み方懲りてなかったって伝えときますんで。旅人さん、本当に引き留めて悪かったな。でもあの店の新しいメニューは絶対お勧めだからさ。若い連中の間じゃ、次のポートベルの観光案内にはあの店の新メニューが載るって話題なんだぜ?


 待て待て待て、目ぇ覚めた。な。母ちゃんに言うのだけは――。


 そうだぜ、ヒヨッコ。短気は損気って言うだろ、な、な?


 ハハハ、気にしないでくれよ、旅人さん。レストランはこの漁港から見えてるあっちの住宅街を二筋入ったところにあるから。今の時間帯なら、あと三時間くらいで夕方の営業が始まるしさ、それまでポートベルの観光でも楽しんでってくれよな。良い旅を!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ