表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆食いしん坊転生者が食卓の聖女と呼ばれるまで◆  作者: ナユタ
◆熟練度・中期◆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/86

*2* ついに禁断症状が。


 ポートベルを出立してから十三日目。


 私の我儘から寄り道したポートベルまでの冒険は無事終了。海の幸も堪能したので、次の行き先は当初の予定通りリンベルンだ。歩く道も旧街道から元の新街道に進路を戻した。


 とはいえ旧街道と新街道と分けたところで、実質道の両脇が鬱蒼とした緑の海なのは変わりがない。乱暴な言い方をすれば、旧街道から森を一直線に突き抜ければ新街道に行ける。ただ冒険者でも危険だからあまりやる人はいないらしい。


 それと季節が変わったことで採取できるものが新しくなった。ウルリックさんの教えでは、パンノミはユタ()メデト()が収穫期なので、ジルツ()には採れないし、カシュアはユタの下旬からメデトの上旬まで収穫できる。


 そこでひとまずジルツに採れるものを一から覚えることに加え、暑さにより私の機動力がガツンと低下したので、一旦移動速度を緩めて今までで一番本格的な野営をしている。


 街道からは結構奥に分け入らなければならないけど、この森は幸いにも川が多い。水の心配をすることがあまりないというのは、野営をする上でとても重要。おまけに何度も言うけれど季節はジルツ。どれだけ水を使ってもいい場所が近くにあるのは、本当に本当にありがたいのだ。


 今日は昼食のあとにウルリックさんが竿を使わない釣りに出かけ、彼の帰りを待つ間に私も調味料のストックを増やすべく調味料を錬成していく。


 思い上がりでなければ、ここしばらくである程度自分の熟練度が上がっている手応えを感じていた。


 グラニュー糖は最初の頃こそ日に錬成できる量が中匙一杯程度だったのに、今では大匙二杯は出せる。でも上白糖はだいたい一回で二百グラムは錬成できるから、グラニュー糖の熟練度はまだまだだ。


 お塩は錬成の量で熟練度を稼ぐことは難しいけれど、レシピの工夫か何か、錬成の量ではないもので熟練度を換算されている気がする。だからなのか、カレー塩を錬成できた後にお試しで「クレ○ジーソルト」と唱えてみたら、あの香草が色々入った便利なお塩が錬成できたのだ。


 でもこの世界で類似品が見つからない限りは、新しいレシピにこれを無闇に使うことはできない。理由は簡単で、真似できないレシピなんて売り物にはならないからだ。


 なのでここ数日香草に似た草を前より大量に集めては、天日干しで乾かしても香りの飛ばないものを厳選して、手で細かく揉み砕いて塩と混ぜている。これならクレ○ジーソルトとはいかないまでも、類似品程度にはなるはずだ。


 でも手がかなり香草臭くなるのが玉に瑕。色々使い道もありそうなので、次の町についたらすりこぎとすり鉢的なものを探そうと思う。


 胡椒の方は不思議と錬成量が増える以外に今のところ変化はない。他の調味料よりも高値で売れる代わりに熟練度も上がりにくいのだろう。


 順繰りに一日分の錬成量を限界まで出し切ったところで、次は毎日更新されるウルリックさんの安全行動圏内を移動して採取をする。ただこのところジルツの旬の食材を手に入れるたびに、ある欲求が湧き上がってくるのが困りものだ。


 ポートベルで満たしたかった欲求を消化した途端に、また新たな欲求が生まれてしまうあたり、人間とはつくづく欲深な生き物だと思ってしまう。もっと言えば海の幸が有名なポートベルになかった時点で、私のこの新たな欲求はすでに潰えたも同然だ。


 木の根元に這いつくばって、そんな自分の前世から引きずる食への欲深さに溜息をつきながら椎茸に似たイツクミ茸を採取していると……、


「今度のそれは何の溜息だよ」


「――っだから、その登場のしかた止めて下さいってば!」


「オマエの反応が面白くなくなったら考えてやるよ」


 突然真後ろから現れたウルリックさんはそう言うと、這いつくばる私の頭をガシガシと犬を撫でるみたいに撫でた。病弱だった前世ならこれだけで儚くなっている可能性があるぞ。


「えぇ……一生無理じゃないですかそんなの。心臓が止まる前に止めて下さいよ」


「安全行動圏内だからって隙がありすぎるオマエが悪いんだろ。これで心臓止まるとか、背後から抱きしめたら死ぬウサギか何かなのかオマエは」


 呆れて笑うその表情を恨めしく睨みつけて「近いものですよ」と言えば、彼は「こんな食いでのないウサギは狩らねぇよ」と、今度ははっきりと笑った。肉付きが悪いと暗に言っているのだろうが失礼な話である。


 木の根元に座り直して彼を見上げる状態になると、ウルリックさんは私の正面に腰を下ろして胡座をかいた。そしてこちらの顔をまじまじと眺めて「会った時よりはだいぶ見られる顔色になったけどな」と、評してくれる。


 落としてから上げるこういうところがずるい人だなぁと思ってしまう。ずっとむくれていられないじゃないか。おまけに本体が驚かされたことでお腹の虫まで驚いたのか、直後に“ギョッギョッギョ”と新たな鳴き声を披露してしまった。


 案の定ツボにハマったらしいウルリックさんが身体をくの字に曲げて笑うので、採取したイツクミ茸を一つ残らずぶつけてやろうとするも、全部難なく受け止められてしまい、よりこちらのお腹の虫が元気になっただけで。


 けたたましく鳴くお腹の虫を黙らせるためにも、ひとまず野営場所に戻ってご飯にしようと腰を上げた。


◆◇◆


 ★使用する材料★


 イツクミ茸   (※椎茸)

 パンノミの粉  (※パン粉)

 トマトソース  (※ケチャップ)

 チーズ     (※ピザ用)

 塩、胡椒少々。


◆◇◆


 キノコは本来傘が小さく開きすぎていないものの方が美味しいけれど、今回は収穫がちょっと遅かった大きなイツクミ茸しかなかったので、それをしっかり傘のゴミを取り除いて使う。


 少しだけ中に塩を振って空焼きしてから、水の出た傘の中に極少量のパン粉を敷き、トマトソースを少しだけ垂らす。その上にチーズをこんもりと載せて、あとは載せたチーズが蕩けてくるまで焼く。仕上げに胡椒をまぶせば完成。


 本当はトースターでチーズに焼き目をつけた方が美味しいんだけれど、充分美味しそうだからまぁ良しとする。でもこれだけだと物足りないので、ウルリックさんが採ってきてくれた魚も木の棒に刺して焼いた。


 チーズとキノコから出る汁気の熱さに悪戦苦闘しつつも、ウルリックさんが「旨い」と律儀に漏らす一言に自然と笑みが浮かぶ。魚もキノコも全部綺麗に平らげたところで、ウルリックさんが「それで?」と切り出した。


 急にかけられた言葉の意味をはかれず首を傾げると、彼が呆れたように「さっきの溜息の理由を聞いてんだよこの鳥頭」と、心配にしては優しくない言葉をくれる。そんならしいと言えばらしい彼の言葉に、思い出し溜息をついてしまった。


 すると「体調が悪いのか?」と、今度は普通に心配そうな声音で尋ねてくれるウルリックさん。目の前の優しい人にこの下らない……いや、私にとっては結構重要なことだけど……きっと分かってもらえない悩みだ。


 実際に自分でもこのまま郷に入っては郷に従えの精神で乗り切れる思っていた。何でもないと諦めてしまおうか? でも目の前に座る彼の真剣な眼差しを見ていたら、思わず「出汁(ダシ)が恋しいんです」と口走っていた。


 当然のことながら首を傾げた彼の反応に悲しくなるも、仕方なくポートベルで類似品が手に入るかと思っていた【鰹節】の説明をし、きっと自分達の土地でしか手に入らないものなのだろうと締めくくる。


 ――が。


「待て待て、一方的に諦めて切り上げんな。要するにそのカツオブシってのは、魚を鉄みたいに硬くなるまで燻したもんなんだろ? で、味を凝縮させたそれを薄く削ったものを煮出す調味料なわけか」


「おおー、流石ウルリックさん。理解が早い」


 その通りなのだけどどうせ実現不可能なことだから、パチパチと拍手を送ってこの不毛な話題を濁そうと思っていたら、それを察した彼に「茶化すな。話を切り上げようとしてるのが丸分かりだ」と怒られる。


 バレたことに苦笑を浮かべて誤魔化そうとしたら、少しだけ考え込むような素振りを見せたウルリックさんが、ふっと何かを思いついたのか「似たもので良いなら、思い当たるものがあるぞ」と。

シイタケの中に少量アンチョビを入れるともっと美味しいです(*´ω`*)

あとは作中にあるようにトースターで調理すると焦げ目がついて◎

トースターで焼く時は下にアルミホイルを敷くのを忘れずに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ウルリックさんの後ろから抱きしめたら死ぬうさぎに勝手に置換して悶てました。(*ノω・*)テヘ 切り上げようとしてるのもすぐにわかるようになってきましたし、彼女達の熟練度もどんどん上がってま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ