カイがいない朝
このオレ!カイ様がこの異世界でエライ人に気に入られて姫やいろんな女の子達にモテまくって勝ち組人生を進んで行くぜ!
鶏の鳴き声で叩き起こされ、いつもと変わらぬ朝が始まろうとしていた。
ただし、今日だけは違う。
今日は僕の成人の儀の日だ。
昨日、僕は15歳の誕生日を迎えた。僕の家には、木の香りや草木の匂い、村で飼っている鶏の臭いが、風に乗ってほのかに漂っている。
だが、どれも生まれた時から嗅ぎ慣れているはずだ。幼馴染のカイは、
「ここの村クッセェ〜」
と毎回言っていたのだが、おかしなものだ。生まれた時から、この匂いしか嗅いだことがないのに。
僕にとっては落ち着く故郷の匂いだ。でも、そんな事を言われると、臭いと思っていなくても臭いと思ってしまう。
カイの言葉を思い出して、僕は少し笑った。まだベッドから起き上がる気にはなれない。
僕はベッドから上半身を起こした。まだ陽は昇りかけだ。
「ふぁ……」
大きく欠伸をして部屋を出ると、目を擦りながら妹のメアリも部屋から出てきた。
「ショ兄おはようぅ.....」
「メアリおはよう...」
メアリとは僕の二歳下の妹だ。頭も良く、物覚えもいい、自慢の妹だ。
踏むと「ギイィィィ...ギィィィ...」と音が鳴る木製の階段を降りる。
母は「カッカッ」火打石で暖炉に火を付けている。
父は「バコン!バゴン!」と音を立てて暖炉などに使う薪を作っている。
いつもと変わらない朝だった。
「おはよう...ショアとメアリ。」
母が僕らが降りてきたことに気づき、こちらを見て少し眠そうに言った。
「母さんおはよう...」
僕は少し眠そうにそう答えた
「おはよう!お母さん、何かメアリに手伝えることはない?」
メアリは母に何か手伝うことはないか聞いていた
僕も母さんに何か手伝うことはないか聞こうとしたが、その前に母さんが口を開いた。
「ショアはお父さんを手伝って来て。」
「分かったよ母さん」
僕は快く承諾した。
「おはよう!ショア!俺の手伝いしてくれるのかいつもありがとよ!でも...お母さんの手伝いはいいのか...?」
早朝から元気いっぱいの父がそう言った
僕は父さんが割った薪を持ち上げながら言った
「手伝いはメアリがしてるよ」
「そうか!」
僕は父さんが割った薪を何度も運び、首にかけていたボロ布で汗を拭いた。
「ふぅ……」
そろそろ朝食の時間かな、と考えていたところ、家からいい香りがしてくる。父と片付けを済ませ、家に入った。
テーブルには、大根やキャベツ、カボチャなどを入れたスープと、硬いパン。そして、村と帝都を往復できる分の銅貨が置いてあった。
「2日続けてパンがあるんだね!」
「そうよ!だって今日はショアの成人の儀でしょ〜!だからお祝いに」
僕はパンを見つめた。
いつもなら、食べられるだけでも嬉しいパンが、昨日と今日で二日続けて食卓に並んでいる。
けれど、成人の儀のことを考えると、胸の奥が少し重くなった。
そうだ。成人の儀で、その後の人生が決まる。
ジョブ(職業)によって、これからの生活は大きく変わる。適性がない者は、人間未満として扱われるらしい。
「ショ兄なら絶対大丈夫だよ」
と、メアリが強くこちらの不安を察してか鼓舞してくれた、
「そうだ!俺の子なら問題あるわけがない!」
「そうよショアは私たちの子ですもの心配しないで。」
家族の言葉が、胸に染みた。
「皆んな...ありがとうぅぅ...帝都でも頑張るから」
涙が止まらなかった。
心の底から、今までの感謝が込み上げてくる。
家を出てまだ流れている涙を拭きながら歩くと、背後から家族の声が聞こえた
「帝都に行っても父さんみたいな男になれよ!」
「もしダメそうだったらいつでも戻ってきても良いのよ。」
「ショ兄ガンバレ〜」
母とメアリは少し泣いていた
「何だよ...父さんみたいなって...」僕は受け取った路銀を片手に握り締め、振り返る。
そして、家族に向かって深々と頭を下げた。
「本当に今まで育ててくれて有難うございました!!」
頭を上げる。
泣きながら、僕は笑った。
本当に、僕は幸せ者だ。
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涙を拭う。幼馴染にこんな顔は恥ずかしくて見せられない。
今日は、リアとカイと待ち合わせをしている。
村イチ立派な桜?の木がある場所へ向かう。
何故「桜?」なのかというと、幼馴染のカイがそう呼んでいたからだ。
村の皆は「村の守り神」や「聖樹」と、それぞれ好き勝手に呼んでいて、正式な名前は決まっていない。
でも、カイが
「何言ってんだコイツらwwwコレは桜だよwww
また俺何か言っちゃいましたかね」
と、意味不明な事を話すカイに、村の皆んなは困惑していた。
そして、待ち合わせ場所に着いた。
……誰もいない。
「アレ? 集合場所、間違えたか?」
その考えはすぐに吹き飛ぶ。
リアが、僕のところへ駆けてきたからだ。
リアはいつも元気いっぱいで、僕よりもちょっとだけ身長が高い女性だ。僕は一緒の身長だと思っている。半年だけ先輩だからって、お姉さんぶることもある。一緒にいて楽しい女性なのだが
今日は、いつもと様子がおかしい。
「や...やあ.....ショア.....元気...」
明らかに僕から目を逸らしている。
一度たりとも見せた事ない表情で居るリアに対して何と声をかければ良いかわからず、僕は少し戸惑った
そうか!
もしや、リアも成人の儀で緊張しているんだ。
「大丈夫だよリアそんなに緊張しなくて、珍しいな僕よりもリアの方が緊張してるなんて」
そんなリアを元気づけて、内心「分かる分かる」と頷いていた僕に対し、リアは
「“ソレ“...じゃなくて」
「...ソレ?」
僕は困惑し、内心首を傾げていた。
その時だった。
桜の木の影から、女性が姿を現した。
「こんにちは、ショアくん」
セミロングの白い髪。その生え際だけが金色に染まっている。僕よりも頭一個分ほど背が高く、健康的な体型をしていた。
身に着けているのは、地面まで届きそうな黒に近い紺色の高価そうなローブ。その手には、その辺に落ちていそうな、少しねじれた細身の枝を持っていた。
見知らぬ顔だ。
村でも見かけたことはない。
「は、初めまして」
僕は少し戸惑いつつも美しい女性に言った。
すると、隣にいるリアがガタガタと震え始めた。
そんな状況に困惑しながらも、僕は愛想笑いを浮かべていた。
というか、リアの時に浮かべていた笑顔のまま固まっていた。
「私、魔法使いの“アシュ”と申しますわ」
魔法使いのアシュさんと名乗る女性はリアの事など全く気にする素振りを見せず
僕の目を見て答える。虹彩は金色に輝き瞳孔は金色と言うか白に近い色をしている。
僕はハッ!と気づき初対面の人を凝視するのは失礼に当たるので必死に目を逸らした。
決して、決してだが見惚れていたわけでは無い。
「まだダメですわね」
「...え?」
よくわからない事を口にしているアシュさんと隣で小さく怯えるリア。
本当にどうしたんだろう、リアは。雰囲気を変えるため幼馴染のリアに話題を振った
「そ、そういえば遅いねカイ」
その瞬間、リアの顔が青ざめた。
「カイなら、お眠りになっているのでは?」
何故かアシュさんが僕の問いに答えた
「そ、そうですか。なら、カイが来るまで待ちますか」
待つと言っても、帝都へ向かう馬車が来るまでの間だが。カイはいつも昼頃に起きていたような奴だ。この遅刻も仕方がない事だろう
...でも。
日常生活とは違うイベントの日は、誰よりも起きるのが早かった気もする。
僕の成人祝いの時も、1番早く現地にいたのは彼だった。
イベント日とは、彼がよく口にする言葉だ。
そんなカイが来ないことに、僕は少しだけ違和感を覚えた。
まあ、馬車が来るまで特にする事もないので佇んでいると、リアが意を決したような表情をした。
「カ」
「◻︎◻︎◻︎」
っと、発した所で
彼女の口の動きは完全に止まる。目はキョロキョロと動く。
「あらあら〜、金縛りですわ」
「...金縛り?」
そ、そうか金縛りか、何事かと思った。
僕はなったことは無いのだが昔聞いた金縛りの症状に似ている。リアは目で訴えかけながら硬直し、そのまま倒れかけた。すると、アシュはすかさず両手でリアの肩と腰の辺りを支えた。
僕は突然の事で反応できなかった。
僕とアシュさんでリアを挟む形で立っていたのに、気づけばアシュさんの方が先に動いていた。
「リアは余程疲れているのですね」
アシュは慈愛に満ちた表情を浮かべる。
その表情を見て、僕は思った。
優しい人だ。
咄嗟の出来事でも、人のために動けるなんて。
「あ、ありがとうございます、アシュさん」
「いえいえ、このくらい当然ですわ」
アシュはリアを草花の茂る木陰に寝かせ、穏やかな表情を僕に向けた。
「金縛りなんて珍しいな、コレってどうすれば治るだろう?」
そんな僕の疑問にすかさずアシュさんが答えてくれる
「自然に治るものですわ」
アシュさんは物知りだな。
そう思っている間も、リアが治る気配はない。
そして、カイもまだ来ていない。
そんな中、帝都へ向かう馬車が到着した。
金色の髪をした、見た目は中年ぐらいの細身の男性が御者をしている。
馬車には屋根がなく、客席は床板があるだけだった。木製の車輪が左右に二個ずつ付いている。
なんとも、みすぼらしい馬車だった。
アシュは動かないリアを抱きかかえ、到着した馬車に向かった。
僕もその後を追おうとして、ふと足を止めた。
念のため、もう一度だけ周囲を見渡す。
...やっぱり、カイはいない。
何故だろう。
いつもより、“土の臭い”が強い気がした。。。
カイ様の異世界無双が始まるぜ!




