7話「生と死の激突×レイに秘められた力」
今回は、戦闘回です。
そして…レイに異変が…。
アルマは、キュクロの足を止めたはずだった。
だが――
キュクロの足が、沈み込む。
右腕の骨が、軋む。
腕の内側で、嫌な音がした。押し潰される。
このままじゃ、持たない。
レガリアの力を引き出すには、アルマの身体はボロボロすぎたのだ。
すでに今、戦えていること自体がレガリアの起こした奇跡に近かった。
全身の傷が、脈打つたびに悲鳴を上げている。
立っているだけでも、おかしい。それでも、止まれなかった。
今の、爆炎装甲、コイツでも五分だ…!
「まだ…足りねえ」
ギュッ――指先に、力がこもる。
爪が食い込む。痛みが、逆に意識を繋ぎ止める。
「まだだ…!まだまだぁ!!」
もっと…!もっとだ!!
爆炎装甲、テメェの力を見せやがれぇぇぇぇ!!
左腕が強張る、そして――滲み出る。
皮膚の奥から、熱が這い出してくる。
アルマの骨が軋む。しかし、アルマは止めない。
――ゴワァッッ。
「すげぇ…炎が腕にまとわりつきやがる」
熱い。だが、不思議と嫌じゃない。
…これなら…いける!
アルマの声に呼応するかのように、爆炎装甲の熱が上昇する。
空気が灼ける。部屋の温度がみるみる上がっていく。
頬が焼ける。息を吸うたび、肺の奥まで熱が入り込んでくる。
「レイから――手ぇ離せ」
深紅の炎が、うねるように燃え上がる。
レイを…傷つけねぇように…、野郎をぶち抜くッッ!!
「いい加減…この足どけろおぉ!」
受け止めていた、巨大な足を弾き返す。
骨が悲鳴を上げる。それでも、押し返す。
視界の中の、巨体の体勢が崩れる。
「くらいやがれえぇぇぇ!!!」
炎の火力が一気に跳ね上がる。アルマの腕に火柱が燃え上がる。腕そのものが、砲台になったようだった。
燃え上がった火柱を、撃つ。
――炎が、走る。
一直線。
空気を焼きながら、赤い奔流が突き抜ける。
キュクロが、近くなる。
直撃――
キュクロの表面が、炎で焼け焦げている。肉の焼ける臭いが、鼻を突く。キュクロの左手が、ほどける。
「レイ!!!」
待ってろ!!今行くッッ!
地面を、一蹴。蹴り上げた床に、衝撃が走る。石畳が砕ける。
視界が、上がる――地面が離れる。
――レイが、近づく。
はやく…!はやく!!
間に合え。
――腕に、収まる。
軽い。いや、力が抜けているだけだ。
「おい…!おいレイ!!しっかりしろ!!レイ!!」
「………」
返事がない。嫌な汗が、背中を伝う。
トクン――
トクン――
鼓動が、耳に伝わる。
良かった!息はしてる!!
胸の奥に詰まっていたものが、少しだけほどける。
轟音と共に、瓦礫が、吹き飛ぶ。
「あんだけでけえの食らってまだ起き上がるのかよ」
レイ…横になって待ってろ…。
「兄ちゃんが決着ケリつけてきてやるからな」
視界が引き上がる。
フゥーッ、フゥーッ。
キュクロの呼吸が荒い。
すげぇ形相だ――だがよ…。
「こっちだってよぉ!とっくにキレてんだ!このヤロオォ!!」
キュクロの身体が強張っていく。力を溜めている。
筋肉の塊が、膨れ、脈打つ。
ぶつかれば、ただじゃ済まない。
アルマの両腕が、膨れ上がる――脈打つ。
装甲から再び、豪炎が燃え上がる。
熱量が、さっきとは比べ物にならない。
両手が、地面に向く。燃え上がる業炎を、一気に噴射する。
瞬間、背骨の奥まで衝撃が走る。大気を揺るがすほどの、爆発音が響く。
爆風が弾ける――爆風と共に、アルマが消える。
視界から、線のように消えた。
キュクロの身体に、血管が浮かび上がる。足を前に大きく踏み出す。
足音が…速くなる。遺跡が、地面が、激しく揺れる。
天井と、壁の瓦礫が落ちてくる。
もう、部屋ごと壊れかけていた。
キュクロに向かって、一筋の光が煌めく。その光は、両腕から炎を噴射し、炎を推進力に、音速に達しているアルマだった。
すげぇ…身体が引きちぎれそうだ…。
皮膚が裂けそうだ。骨が軋む。
だけど、この、スピードなら…!!
――尖る爆炎が、風を裂く。
目の前の空間が、一本の軌跡になる。
――来る。
真正面から。アルマとキュクロの目が合う。
互いに、一歩も引かない。
キュクロの、雄叫びと、アルマの腕の豪炎が激突する。
衝撃が、弾ける。地面が、砕ける、
空気が――爆ぜる。
視界が、真っ白に染まる。
――
音が、消える。
――静寂。
耳鳴りだけが、残る。
砂埃が、流れる。立っているのは、一人。
――アルマだ。
「ハァ、ハァ…」
肩が上下する。足が震える。
その瞬間――
目の前の、瓦礫が落ちる。
「……チッ」
瓦礫が、動く。キュクロが白目をむいたまま、起き上がってくる。
まだ、終わっていない。しぶとすぎる。
巨体が、ゆっくりとアルマの視界を埋める。
「チッ……しぶてぇな」
「さすがによお、そろそろ沈みやがれってんだ」
上等だぁ!!こうなりゃ……
何発だって… !撃ち抜いてやるよ…!
帰るんだ…必ず…レイと、二人で!!
まだ、終われるか!
刹那――
―踏み込む。
地面が、沈む。石が砕け、足元から放射状にヒビが走る。
もう一歩で――やつに届く。
「……今度こそ」
拳を、振り上げる。
振り上げた拳に、燃え上がった炎が集まってくる。
空気の色が変わる。熱が一点に凝縮していく。
「まだだ…!まだ、燃えろぉ!!!」
ドクン――ドクン――
――炎が震える。
まるで、生き物みたいに。
応えろ。
もっとだ。
「燃えろおぉぉぉぉ!!!」
集まった炎は、眩く、白く赤く輝きだす。
赤が、白を呑み込み始める。
――ゴボォンッッ!!
輝き出した拳から、溢れたエネルギーが小爆発を起こす。体勢を、低くする。握った拳の指先、一本一本に力がこもる。
身体の芯まで、震える。
「テメェとの勝負も――幕だ」
――アルマが、後ろ足で床を踏み抜く。
地面が、激しく割れる。フロア内に、轟音が鳴り響く。
アルマの目の前には、牙が迫る。生暖かい息が、顔にかかる。
俺の…ありったけをくれてやる!!
力を!命を!全て……撃ち込むんだ!
「これで、終わりだあぁぁぁぁぁ!!!」
ドッッッッッゴォォォォォンッッ。
轟く爆音と共に、辺り一面に衝撃波が起こる。
大気が、灼ける。拳が、めり込む。
肉を、骨を、装甲ごと貫く感触。
キュクロは――立ったまま。
――拳が、抜ける。
炎が、背後へ突き抜ける。
ゴゥッッッッッッ。
地面を抉り、城壁が一直線に焼き抜かれる。城に、巨大な穴が、開く。
向こうの光が、差し込む。
キュクロは、立ったまま――動かない。
――効いた、はずだ…!
「ハァ…ハァ……うっ…!」
無理しすぎたか…視界が…。
端から、黒く染まっていく。
視界が暗く――
グラッ。
巨大な膝が、落ちる。
力なく――巨体が崩れる。
ドサッッ。
「ゼェ…ゼェ…」
もう、指先一つ動かねぇ…。
シュウゥゥゥゥゥ…。
アルマの両腕の装甲から、熱風が放出される。
焼けた鉄みたいな匂いが、鼻を刺す。
――静寂。
……のはずだった。
ォン――ドォン。
床が、軋む。遠くから何かが聞こえる。
嫌な、足音だった。扉の前から、影が伸びる。
部屋の前で、何かが止まる。空気が、また重くなる。
――覗き込んでいる。
見覚えのある、巨大な目が。
「……もう一匹……色違いかよ」
倒したキュクロ、とは別の個体が姿を現したのだ。
冗談みてぇな話だ。笑えねぇ。
う、だめだ…、落ちるわけには――
視界が暗くなる。
「………は?」
次の瞬間。
――ガシ。
身体が――持ち上がる。
骨が浮く。
内臓が、引っ張られる。
「くそ……!」
力が入らねぇ…。
ミシッ。
――骨が、軋む。
肉という肉が、悲鳴をあげる。
骨が砕ける、渇いた音が鳴り響く。
身体のどこが折れたのかも、もう分からない。
「っ………!」
アバラが…イキやがった……。
意識と痛覚が戻ってくる。
鉄の味がする……息が…できねぇ…。
「あっ…が………ゴホッ……」
ツ――溢れる、血。
顎を伝って、滴る。
別個体のキュクロは、アルマの反応をじっと見て楽しんでいるようだ。
口、というにはあまりにも巨大な顎、巨大な牙が、アルマに迫る。
喰うつもりだ。遊びながら。
その時。
――止まる。
風が、音が、消える。熱が、引いていく。
嘘みたいに、一瞬で。
なんだ………?
嘘みてぇに……熱が引いていく。
「………兄さん」
巨大な顎が、動作を止める。
声が、微かに聞こえる――振り向く。
――レイが、立っている。
レイと目が合う。しかし、目に光がない。
そこにいる。
なのに、いつものレイじゃない。
「レ、レイ?」
――違う、いつものレイじゃない。
「おい……」――返事がない。
冷たいものが、背筋を這う。
一歩、レイが踏み出す。
音が、しない。足音が、ない。
空気すら、揺れていない。
ゾワッッ。
細胞の一つ一つが沸騰する。頬を、冷たいものが伝う。
「……レイ、だよな……?」
次の瞬間――
見えていたはずの、レイを見失う。
そこに、いたのに。
――スッ。
首が――離れる。
音は、遅れてきた。時間が、ズレたみたいに。
ボトッ。ゴロゴロ。
巨大な頭が、叩きつけられ転がる。
捕まえていた、手が緩む。
遅れて、首を失った巨体が傾く。
巨大な身体は少し歩いたのち、轟音と共に砂埃を巻き上げながら倒れる。
――静寂。
レイは、動かない。
ボタ……ボタ……。
顔中の血が、地面に落ちる。
遠くを見つめたまま、動かない。息をしているのかすら、一瞬わからない。
サアァァァァァ……
刃が、砂のように崩れる。
握っていた剣が、耐えきれず消えていく。
「……レイ」
「…………」
一歩、近づく。
足が、ふらつく。
「レイ、だよな?」
「………」
肩に、手を置く。
冷たい。
ビクッ。
「ありがとうな、もう大丈夫だ」
「戻ってこい…」
視線が、揺れる。虚ろだった瞳に、微かな焦点が戻る。
「……にい、さん……?」
顔に、感情が戻る。
その瞬間。
レイを引き寄せ――抱きしめる。
力を入れすぎないように、でも離さないように。
「………よかった」
胸の奥から、ようやく息が漏れる。
まだ、生きている。
二人とも、ここにいる。
【 討伐難度C:キュクロ× 二体 討伐完了 】
安堵する二人。
しかし……古城の外では――
無表情無感情なレイの真の正体とは…。
二人の試練はまだ――終わらない。




