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17話「風斬の覚醒×海淵の騎士王」

風竜との戦い。

その最中――レイは手に入れる。

 古代生物の中でも最強種と謳われる竜。属性や生息地によって個体の特徴は様々だが、アルマ達の前にいるのは空の支配者であり風を操る“風竜、ヴァルドレイザー“。

 その存在は、この高度の空気そのものを従えているかのようだった。羽ばたきのたびに圧が変わり、息をするだけで肺に重さが乗る。


「この遺跡に住んでいた“主“を惑わしてみましたが…やれやれ制御が難しいですね」


 仮面の男の声は軽いが、言葉の裏に滲むのは明らかな悪意だった。


「それじゃあ、ここは暴れる竜に任せて…私はやる事があるので、せいぜい頑張ることです」


 まるで玩具を置いて去るように消えていく。


「ま、待て!」


 セラが叫ぶ。


 しかし、仮面の男の姿が消えていく。気配が途切れる。セラの表情からは、焦りの色が見える。読み違えた、と直感が告げている。


 グオォォォッ


 仮面の男に呼び出された風竜。唸り声をあげ、今まさにアルマ達に飛びかかろうとしている。喉の奥で空気が圧縮される音がする。


「レイ、準備はいいか?」


「うん、いつも通り僕が注意を引く」


 レイは地を踏み抜く。その瞬間、地は轟音と共に砕ける。足場の枝が軋み、破片が下へと落ちていく。重力すら置き去りにする踏み込み。


 ヴァルドレイザーが巨大な鉤爪をレイに振り抜く。空気の壁を切り裂くような軌道。見てから避けるには遅すぎる速度。


「見えてるよ」


 レイはわずかな体重移動で軌道を外す。風圧が頬を掠め、肌が裂ける感覚が走る。


 鉤爪をかわす、そのまま腕の下に潜り込み――距離を詰める。


 連斬。


 腕の動きが目で追えない。風を切り裂く刃がヴァルドレイザーの腕を切り裂く。斬撃の軌跡に、遅れて風が吸い寄せられる。


 しかし――浅い。


 刃は確かに入った。だが、鱗が弾く。硬さが、常識を拒む。


「竜の鱗…さすがに硬いな」


 ヴァルドレイザーの腕の下。レイは竜の体を分析する。斬った感触、弾かれ方、反発の強さ。すべてを記録する。


 鱗、爪、牙、尻尾、翼。吐き出す風。時折、纏う豪風。すべてが武器であり、同時に盾でもある。


「兄さん、少し考える時間ちょうだい」


 レイはアルマの方に視線を向ける。短い合図。意図は伝わる。


 同時に目の前からヴァルドレイザーの巨大な鉤爪がレイに迫る。逃げ場はない。だが――


 アルマがレイの前に立つ。割り込むように。


「任せろ!俺が引きつける!」


 アルマは脚に力を入れる。



 ドゴッ!!



 ヴァルドレイザーの鉤爪を下から蹴りあげ軌道を変える。衝撃で枝が沈み、すぐに戻る。


「レイには手を出させねぇ!」


 アルマは一人でヴァルドレイザーの攻撃をかわす。そして打ち返す。拳と爪が交差するたび、火花と風が弾ける。


 アルマは時間を繋ぐ。繰り返される、回避と攻撃のラリー。息を切らさず、ただ前へ出る。


「兄さん!竜の顔を打ち上げて!」


「…分かった!」


 レイは狙いを定めた――眼。硬い鱗に覆われている体ではなく、竜の“眼球“を狙う。唯一の“柔らかさ”。


 レイは自身の剣を見つめる。


 ――白星剣。


 下位のレガリアと同等の剣。


「迷ってる暇はない――やるんだ」


 剣を握る拳に力が入る。機会は一回。外すわけにはいかない。呼吸が細くなる。


 アルマの視線がレイの動きを捉える。拳を握り込む。轟音と共に爆炎の装甲が軋む。熱が上がる。圧が乗る。


「レイ!今だ!」


 ヴァルドレイザーの鉤爪をかわす。刹那――アルマの拳がヴァルドレイザーの下顎にめり込む。


 殴りあげる。首が仰け反る。


 呼応するように爆炎装甲の火力が上がる。空気が焦げる匂い。



 ドゴオォォォンッ!!



「ここだ!」


 レイの腕の筋肉が膨れ上がる。視線は竜の眼を貫く。


 レイは白星剣を。



 投げた。



 ゴヒュッ!!


 風を切り裂き、豪速の剣は尖る。一直線にヴァルドレイザーの眼に迫る。軌道は完璧。


「よし!届く――」


 ヴァルドレイザーの体制が戻る。巨大な咆哮を放つ。空気が逆流する。


 ――剣の勢いが落ちる。

 


 バリィンッ!


 ヴァルドレイザーの牙が白星剣を噛み砕く。


「なっ!まじかよ」


 ヴァルドレイザーの顎に耐えられない。剣は砕け散る。


 レイは歯を鳴らす。計算が崩れる音がする。


「くっ!風に勢いを殺された」


 ヴァルドレイザーの尻尾がレイに迫る。視界が暗転するほどの質量。


 激しい金属音が鳴る。


 ヴァルドレイザーの攻撃をセラが剣で受け止めている。足が滑る。だが止める。


「私だって…戦えるっ!」


 セラは巨大な尻尾を受け流し、セラとレイは体勢を整える。


 なんて…衝撃。腕が痺れる。


「風で勢いを殺される、オマケに体も硬い…どうするレイ?」


 アルマの顔に焦りの色が見える。


 ヴァルドレイザーは再び巨大な咆哮を上げる。今までの比にならない咆哮。大気、地を震わせる。


 風が、暴れ狂う。巨木の上空――空そのものが唸っている。


 翼を一振りするたび、空気が裂ける。枝が引き千切れ、葉が弾丸のように飛び散る。視界が砂嵐のように荒れる。


 その圧は、“生き物”の域を超えていた。


「チッ……!」


 アルマが踏み込む。爆炎装甲が唸りを上げ、拳が一直線に突き出される。熱で風を押し返す。


 ドゴォンッ!!


 だが――届かない。風が、歪む。拳の軌道が“逸らされる”。


「またかよ……ッ!」


 アルマが舌打ちする。レイは、静かに見ていた。視線が揺れない。


 風の流れ。羽ばたきの周期。圧の偏り。層の厚み。乱れの瞬間。


 だが――“入れない”。


 隙が、ない。完全な領域。踏み込めば、その瞬間に弾かれる。


「兄さん、無理に突っ込むな」


「分かってる……けどなぁ!」


 ヴァルドレイザーが咆哮する。


 ゴォォォォォ!!


 暴風が三人に叩きつけられる。枝が裂ける。視界が歪む。呼吸が奪われる。


 その中心で――レイの視線が止まった。

 胸部。そこに、“異物”があった。


 巨大な体に打ち込まれている。一振りの刀。深く、突き刺さっている。


 ただの武器じゃない。風の流れが、その刀を中心に歪んでいる。


 まるで――“抑え込んでいる”。


「……あれは」


 レイが呟く。視線が外れない。


「核……」


 ヴァルドレイザーの暴れ狂う風を纏った巨大な爪が、三人に叩きつけられる。


 その瞬間。



 ドォンッ――!!


 風が、止まった。圧が抜ける。音が切れる。


 巨大な鉤爪が――離れた場所で静止している。あり得ない光景。世界のルールが一瞬外れたような違和感。



 ヴァルドレイザーの巨大な爪を、片腕で、止めている男がいた。



「……遅いな」


 暖かみのある、どこか真っ直ぐな声が響く。軽い。だが底が見えない。


 男は巨大な爪を受けながら、微動だにしない。


 ヴァルドレイザーが暴れる。だが――動かない。まるで、子供を押さえつけるように。


 空気が、変わる。


「な……」


 セラの声が震える。


「嘘でしょ……あ、あなたは…」


 アルマが笑う。驚きと高揚が混ざる。


「はっ……なんだよ、あの男」


 男は、視線だけを動かした。アルマとレイを見る。測る視線。


 一瞬。


 それだけで、“測られた”と分かる視線。


「……なるほど」


 小さく呟く。納得した声。


「これは君達の獲物だろ」


 そのまま――手を離した。拘束が解ける。


 風が、解放される。


 ゴォォォォォォォォッ!!


 圧が、跳ね上がる。ヴァルドレイザーが咆哮する。


 竜の胸部に刺さっている刀が、軋む。風が、溢れる。



「……来るぞ!」


「分かってる!」


 アルマが踏み込む。レイも動く。

 だが――レイの視線は、刀から離れない。


 刀に――呼ばれている。

 敵じゃない。――“対象”として。認識が変わる。


 レイはヴァルドレイザーの懐へ踏み込む。真正面から入る。


 風が斬る。弾かれる。体が裂ける感覚。だが止まらない。


 レイの体から血が流れる。


 だが――

 それでも――止まらない。


 一歩。もう一歩。届かない。


 その瞬間。


 風が、揺らいだ。ほんのわずかに。“暴れる風が開いた”。


「……そこだ」


 レイが跳ぶ。刀へ、手を伸ばす。指先が震える。


 風圧で体が後方に引き戻される。引き裂かれる力。


 レイの全身に力がこもる。


 そして――触れる。


 瞬間――風が、爆ぜた。


 ゴォォォォォォォ!!


 刀が外れた瞬間、風圧が増す。


 ヴァルドレイザーが牙を剥き出しにする。

 抑え込まれていた力が、解放される。


 だが――刀は、レイの手の中で震えた。

 拒絶じゃない。呼応。


 風が、流れ込む。視界が白く染まる。輪郭が溶ける。

 思考が、研ぎ澄まされる。ノイズが消える。

 世界が、静かになる。音が消える。風だけが、分かる。


 流れが、見える。層が、読める。


 掴める。


 ――適合。


 次の瞬間。


 ヴァルドレイザーの巨体が、崩れる。支えを失うように。

 風が、レイを中心に収束する。散っていた嵐が一点に帰る。


 嵐が、一振りの刃へと集まる。形を成す。


 残ったのは――一振りの刀。


 透き通る刃。風が、刃の周囲を巡っている。呼吸のように。


「……これが」


 レイが呟く。


「風を纏う――レガリア」


 【クラス不明 刀型レガリア 風斬刀 】


 謎の男が、わずかに笑った。


「レガリアが、君を選んだらしい」


 男は白く輝く鎧。赤いマント。金の髪色に青い瞳。アルマより少し年上くらいか。


 アルマとレイの視線が男に集まる。


「誰だか知らねぇけど、助けてくれてありがとうな!」


 男は優しい笑みを浮かべ、返す。


「俺はアベル・ファインズ、礼はいらないよ」


 アベルはゆっくりと歩きながら二人に近づく。足音が軽い。


 ――その瞬間。


 セラが叫んだ。


「に、逃げて!二人とも逃げてーーーー!!」


「えっ――」


 叫び声と同時に、笑顔を浮かべるアベルはアルマとレイの間合いにゆっくりと入る。


 そして――レイの頭を“指で軽く小突く“。ほんの触れる程度。


 レイは防御しなかったのではない。あまりにも悪意のない優しい微笑み。自然体での打ち込み。


 攻撃として反応できなかったのだ。


 ドォンッッ!!


 レイの表情から意識が消える。遥か先にある、巨木に体がめり込んでいる。音が遅れて届く。


「………な…」


 一瞬の出来事にアルマは理解が追いつかない。刹那――アベルに向かって拳を振り上げる。思考より先に体が動く。


「テメェ、レイに何してんだよ」


 鋭い眼光がアベルを捉える。


 握り込む指。炎を巻き込み、赤く脈動する装甲。熱が跳ね上がる。


 拳を振り抜く。空気が裂ける。

 激しい衝撃波が一体に走る。枝が震える。

 遅れて轟音が鳴り響く。


 ドゴオォォォンッッ!!


 アルマの全力。最高出力の爆炎の拳が、アベルを打ち抜いた。


 ――はずだった。


 “人差し指“。


 アベルの人差し指が、アルマの拳を受け止めていた。触れているだけに見える。


 受け止める衝撃。アベルの足元の地面が割れる。だが体は動かない。


 アルマの目が見開く。


「な…に…」


 アルマは言葉を失う。理屈が壊れる。


「良いパンチだね、でも俺には届かないよ」


「チッ!」


「アルマ!戦ってはダメ!止まってぇ!」


 連撃。アルマの爆炎の拳が、高速で叩き込まれる。

 何度も。何度も。何度も。熱が増す。


 だが――


 当たらない。


 アベルは微笑んだまま。重厚な鎧を纏っているにも関わらず、全てを最小の動きで避ける。


「はは、早いパンチだ」

「でも――」


 アルマの拳を、手のひらで受け止める。受ける場所すら選んでいる。


「俺には効かないよ」


 アベルの表情から笑みが消える、青い瞳が、アルマを捉える。


 ゾワッ


 アルマは背筋に冷たいものを感じた。危険信号が鳴る。


 アベルから離れ、距離を取る。足が勝手に下がる。


「うん、正しい判断だ」


「セラ…こいつ…何者だ…」


「その人は……アベル・ファインズ…」

「世界連合騎士団、歴代最強の騎士王の一人にして“団長“海淵のアベル」


 アベルは視線をセラに向ける。


「“元“世界連合騎士団、騎士王第八席“セラフィア・グランベリー“」

「君を“皇女暗殺未遂“の容疑者として連行する」


 アルマが“セラフィア“へ視線を向ける。


「せ、セラフィア…元騎士王?」


「ごめんなさい、セラは偽名だったの」


 アベルは呆れ顔で話し始める。


「強いエネルギーの振動を察知して来てみれば、逃亡していたセラフィアに会えるなんてね」

「それに――アルマとレイ、だったかな…君達もシールズ襲撃の罪で連行させてもらう」


 セラフィアは地に頭をつけて懇願する。


「アベル団長、アルマとレイはシールズを攻撃したのではなくて巻き込まれたのです」

「ヤイダ村での一件では国民を助けたのは彼らです」

 必死さが滲む。言葉が途切れない。


「セラフィア、オルトラ様からの命令なんだ、全員連行されてもらうよ」

 


 ゴウゥッッッ



 空気が乾いていく。温度が急上昇する。


 アルマの右腕に炎が渦巻き収束する。


「レイもセラフィアも連れて行かせねぇ」


「へぇ、クラスAに匹敵する火力だね…なんでそんなとんでもない代物を君が持ってて制御までできるのかな?」


「アルマ!やめなさい!」


 質量の塊。炎が渦巻く火球。圧が空間を押し潰す。


「焼き尽くせ――極炎――」


 瞬間。


 ツーッ


「……え?」


 ボタ、ボタタッ


 アルマの目、鼻、耳から血が流れ落ちる。内側が悲鳴を上げる。


 ドサッ


 アルマの意識が途切れる。膝が折れる。

 爆炎装甲がブレスレットに強制的に戻る。


 収束していた火球は制御を失い膨れ上がる。


「アルマーーー!!」


 セラが叫ぶ。


「やれやれ、コアの使いすぎたろうね」


 アベルの腕に“水“が集まり始める。周囲の水分が引き寄せられる。


 生き物のように集まる水は、静かに形を変える。意思を持つかのように。


 ――水の槍。


 蒼く透き通る三叉の矛。その根元を、黄金の柄が静かに支えている。光を飲み込むような質感。


 【クラスSS 槍型レガリア 水神の鉤爪リヴァイア・ランス】


 アベルは槍を頭上で激しく回し始めた。


 回し始めた槍は水の竜巻を作り出す。


 竜巻は、中心へ渦を巻き球体になっていく。圧縮される水。密度が上がる。


「沈み込め――水牢結界アクア・プリズン」


 短い詠唱。響きが沈む。


 膨れ上がる火球を水の球体が包み込む。触れた瞬間


――


 ゴシュウゥゥゥゥゥゥッッッ!


 ボゴンッ、ボゴンッ


 内部で蒸発と膨張が繰り返される。


 辺りが白い光に包まれる。


 水球の中では、激しく小爆発を繰り返す。


 長い蒸発と小爆発を繰り返し――音が止んだ。余熱だけが残る。


 倒れたアルマを見ながらアベルは言った。


「あれでコア切れの火球だとしたらデタラメな火力だね」

「それじゃあ、三人とも皇城内の騎士団本部へ連行させてもらうよ」



 この日、ガエリオン帝国近く。空と巨木の遺跡内にて。



 アルマ、レイ、セラフィアの三名は捕まった。

明かされるセラフィアの真実。

世界連合騎士団に捕まる三人。

果たして三人はどうなっていくのか。

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