14話「血染めのカマン×極炎解放」
アーセナルを襲う何者かの襲撃。
その正体とは――
門の前に誰か――居る。
体全体が強張る。
拳に、力が入るのを感じた。
揺れる建物の中、轟音が響き渡る。
鉄の建物のせいか、音が反響する。
鼓膜を突き破りそうだ。職人達も皆、耳を塞いでいる。
「な、なんだぁ!どうなってやがる!」
揺れる建物を見ながら、サイロが言った。
鍛治の道具が激しい金属音を鳴らす。
「誰か、外にいやがる」
「うん、気配感じる」
サイロは一瞬。溶鉱炉、武器防具販売所に、視線を向ける。
「そう何発も撃ち込まれたら、いくらアーセナルでも持たねぇ、一旦、外に出るぞぉ!みんな、俺について来い」
――アーセナルを守る、巨大な門。
門を押すサイロの両腕が、膨れ上がる。
ゴゴゴゴッ
扉が完全に開いた。
焦げた、独特の匂い。火薬だ。
アーセナルの前。煙が視界を遮る。
――振り返るサイロ。
「よぅし、いいそお!アルマ、レイ」
パンッ
一瞬、音が止まる。
渇いた音が、鳴り響く。
パンッパンッ
サイロの視線が落ちる。
胸部から暖かいものが流れ落ちる。
――血。
足元に。血溜まりができる。
「ゔ、うあ゛……」
血溜まりに、膝が崩れ落ちる。
地を震わせる音と共に、サイロが前のめりに倒れる。
――静寂。
「サ、サイロオォォォォォ!!」
アルマが叫ぶ。
コツッ――コツッ――
規則正しい。革靴の底が地面を蹴る。
煙の中から。人が歩いてくる。
アルマの形相が変わる。まるで、獲物を横取りされた肉食獣のように。
空気が重くなる。
アルマの鋭い眼光が、“何者か“を睨みつける。
瞳の奥に、激情が宿る。
レイは少し驚いていた。アルマが、ここまで感情を露わにする事が、今までなかったからだ。
力を入れる拳。指の一本一本が、悲鳴を上げる。
骨が軋む。腕と背中の筋肉が膨れ上がる。
サイロにも。イゼンにも――良くしてもらった。
怒るには、それだけで十分だった。
「テメェ――潰す」
アルマの体――血が、血管の中で暴れる。
体から、熱気が上がる。
「そうだよね」
レイの目から――光が消える。
表情から感情が消えた。
スーッ
ゆっくりと、剣を抜く。
「イゼン……サイロを手当てしてやってくれ」
「はっ!必ず繋ぎ止めます!憂いなく、敵を討ち滅ぼしてくださいませ」
職人達が、サイロを建物内に運び込む。
「サイロ鍛冶長!死なないでくれぇ!」
「奥に運んでください!止血剤と包帯!それに薬草を準備してください!」
大量の血が、建物へ続く。
「サイロ……死ぬんじゃねえぞ」
一歩。また一歩。
アルマはゆっくりと歩き出す。
真紅のマントが、ゆらりと靡く。
怒りは。激しく。
静かに――燃え上がる。
「クククク…クハハァ、わたくしぃは一度狙った獲物は逃がさないのですぅ…」
まとわりつく声。聞き覚えがある。
煙が薄れ、人影が鮮明になる。
アークシールズの軍服。
痩せ細った身体。
目尻の下がった細い目。
いやらしい笑い方。無精髭は吊り上がる。
コイツは――
「テメェか」
アルマの眼光が、“奴“を捉える。
【ガエリオン帝国・アークシールズ第二兵団副兵長】
「そうぅです!――わたしぃは“血染めのカマン“です」
アーセナル前の、開けた道。
馬車が六列並んでも、余りあるだろう。
道の反対側には、シールズの兵士達が二列横隊で並んでいる。
横隊の奥には、大砲を一門構えている。
あれで、アーセナルを砲撃したのか。
ザザッ
カチッ、カチャチャッ
兵士達の銃口が二人に向けられる。
アルマは、カマンから視線を外さない。
「レイ、頼んでいいか」
「ざっと三十人――うん、大丈夫」
「あなた達にはぁ、してやられましたからねぇ…門兵に先回りして手配しておいて良かったぁ!」
カマンは、震えている。
震え――歓喜。
「わたしぃが…みなの前でぇ、どれだけの恥をかいたか…わかりますかぁ」
「知らねーよ」
静かに。アルマは答えた。
「あの時は、不意打ちでしたからねぇ…今日はとうでしょうかねぇ」
「なんで、サイロを撃った?」
「おやぁ…あのデクの棒は、ちゃあんと死んでくれましたかなぁ?」
目を細め、目尻が下がる。
いやらしい笑みが、顔中に広がる。
――プッン
込み上げてくる“激情“。
赤く。黒く。禍々しく。
怒りが――
爆発する。
「爆ぜろ」
アルマの。ブレスレットが炎に変わる。
炎は燃え上がり。腕に纏われる。
ゴゥッッッッッ
空気が乾く。
大気が灼ける。
炎は、肩から拳にかけて――籠手と化す。
爆炎を纏いし黒い装甲。紅く脈打つ。
燃え上がる豪炎は、黒竜防具に触れる。
燃えない。焼ける気配がない。
豪炎にも難なく順応する。
最高の装備だ――ありがとうなサイロ。
胸の奥が、熱くなる。
「ほうほう、まさかぁ…レガリアを持ってるとはねぇ」
アルマの脚に力がこもる。
刹那――地を蹴る。
激しい轟音とともに、地面が割れる。
――消える。
カマンの視線が下がる。
は、速い――
アルマの右腕が膨らむ。
燃え上がる。炎が纏わりつく、
ゴオォンッッ!
激しい金属音が鳴り響く。
炎が。弾ける。
――
手応えは――あった。
だが。
「クハハハハ!レガリアァを持ってるのは、あなただけじゃぁ、なぁいんですよぉ!」
「チッ」
アルマの拳を、銃剣の刃が止める。
禍々しく黒ずむ銃。
ゾワッ
嫌な感じがするな。
こいつは、レガリアか。
スパンッ
銃剣に装着された、サーベルを振り抜く。
アルマは後方に飛ぶ。
ツー
アルマの頬を、血が伝う。
「いぃ!いいですよぉ!レガリアで勝負しましょう!わたしのレガリアは…そこら辺の下位レガリアとは違いますよぉ!」
黒い銃剣。銃と一体化した細身のサーベル。
刃には――“血管のような紋様“が脈打つ。
【クラスB・銃剣型レガリア・血戒典】
「さぁ!わたしの番ですよぉ」
――
アルマとカマンの衝突。
レイは、視線の端で捉えていた。
兄さんの邪魔をさせない。
それが僕の役目だ。
「すぐに終わらせるよ」
レイの冷たい眼差しが、並ぶ兵士を貫く。
空気が凍りつく。
誰かが思わず、喉を鳴らす。
抜き身――白く透き通る刃が、鋭く光を反射する。
――次の瞬間。
蒼いマントが舞う。
そして――消える。
来る。
目の前に。
「く、くるぞー!!」
「撃て!撃てー!!」
キュインッ
キュインッ
小刻みな金属音が、鳴り続ける。
「ば、ばかな…」
「あ、ありえないだろ…切ってやがる」
向ける銃口が震える。
震えが止まらない。
見下ろす、冷たい眼差し。
一歩。
二歩。
手の届く距離。
スッ
ほんの僅か。風が揺れる。
ボトッ
腕が落ちている。
「ひ、ひいぃぃいぃ!」
レイは、そのまま隊の真ん中へ飛ぶ。
視線が一回転する――音が遅れる。
数名の兵士が倒れる。
「くそっくそぉ!化け物めぇ!!」
銃口が、レイを捉える。
刹那――バラバラに崩れ落ちる。
振り抜かれた刃が光る。
白い刃が、赤で染まる。
滴り落ちる。
「殺されても文句は言えないよね?」
無表情。無感情でレイは言った。
――
アルマの右腕、左腕が交互に消える。
シュッ、シュッ
激しい連打が、カマンを捉える。
右に左に、カマンの顔が弾ける。
「ぐぇっ!ぐえぇぇげぇ!」
カマンの“血“がアルマに飛び散る。
「ハァ…ハァ…」
カマンの目がアルマを睨みつけていた。
「ぐ…ぐぅ…ふざけやがってぇ」
「どうした?その程度かよ」
「お、おのれぇ!よくぅもぉ!」
怒りに震えるカマン。
しかし――
「なぁんてね…クヒヒ…」
「何がおかしい?」
「いえいえぇ、そろそろですかねぇ」
サイロが倒れていた場所、そして倒れる兵士達の方を見渡すカマン。
「今この戦場にぃ、どれだけの“血“が流れたと思いますかなぁ?」
「知らねーよ」
目の前に立つ、カマン。
いやらしく、小汚く――笑った。
「わたしぃの、レガリアの能力はぁ――」
背後から微かな音がした。
――瞬間。
アルマの体を、無数の“何かが“取り囲む。
「チッ」
右、左、頭上、足元、背後。
不規則に“何か“が高速で舞う。
両腕で急所を守る。体を丸くする。
アルマは、飛んでくる“何か“を目で追う。
コレは――
――血だ。
無数の血の刃が、追いかけてくるように飛んでくる。
「クハハハハ!そう!血の操作!!わたしのレガリアの能力でぇす!」
「なめんじゃねぇよ」
炎を纏う拳。
風を切り裂く連撃。
血の刃を撃ち落としていく。
カマンは満遍の笑みを浮かべ――唱えた。
「【血縛契約】」
動かない。いや、動けない。
アルマの身体が止まる。
な、なんだ!体が動かねえ!
「クヒヒ…わたしの【血縛契約】は…わたしの血を浴びたものの、動きを奪うんですよお」
理解するより先に、巨大な血の刃が迫る。
アルマを血の刃が切り裂く。
はずだった。
「クハハハァ!どうですかぁ?私の血を浴びた者を止める、狙う、切り刻む――」
カマンの目が見開く。
拳を握り込む。
「な、なんですかぁ…あなた!その防具はぁ!」
黒竜の防具は、刃を通していない。
何もなかったかのように。
「燃やせ」
籠手の炎が、全体を包み込む。
体に付着した血を、焼き払う。
「ば、化け物ですねぇ……ですがぁ」
カマンの銃口が光る。
アルマの姿を――捉える。
戦場内に溜まっていた大量の血が。
宙を浮き、銃口の前に集まってくる。
グジュッ、グジュジュッ
ゆっくりと血が蠢く。
“血の塊“で巨大な砲弾が生成される。
アルマに狙いを定めたカマン。
引き金を――引く。
「そろそろ…死になさいぃぃ!!【断罪砲撃】」
轟音と共に、血の砲弾が打ち出される。
地を削り、風を裂く。
アルマは地を蹴り上げ――
上空へ飛んだ。
血の砲弾が軌道を変える、
――下から迫る。
籠手から、炎が燃え上がる。
炎は、推進力となり体を動かす。
最小限の動きで、血の砲弾を避ける。
「クヒヒィィ!それでぇもぉ…無駄ですよぉ!」
血の砲弾は軌道を変え、アルマを追尾する。
「俺のレガリア」
視線が、レガリアに向く。
あの時は…ボロボロで、全力を出せなかったけどよ。
今なら…あの時よりは、お前の力を引き出してやれる。
静かに――右手を前に出す。
左手で右手の手首を、支える。
溜める…熱を上げる。
広げるんじゃない。集める。
一点に――集める。
――イメージするんだ。
右手に炎が収束し始める。
大気を巻き込み始める。
籠手の装甲が、紅く、白く、輝き出す。
そして――
人一人分ほどの、球体に形を成す。
不思議だ。
まだまだ……力が溢れる。
あれ?サイロが言ってたっけ?
力は、コアの量に比例するって…
まぁ――いいか。
溢れて、止まらねえ。
迫る砲弾と。カマンが、一直線に重なる。
球体は、中心に凝縮する。
大気が震える。
炎の密度――温度が上がる。
装甲が軋む。
全ての兵士を斬り倒し終わったレイは、空を見上げていた。
「なんて馬鹿げた力だ、あれじゃまるで…」
瞳にうつる、輝く球体を見ながら呟いた。
眩い輝きを放つ、球体を見上げるカマン。
「こ、これはぁ…もはやぁ“太陽“ですねぇ!すごぃです!すごいですねぇ!そのレガリアァァッ!」
目が見開く。
狂気に満ちた笑顔で叫ぶ。
アルマの視線が、カマンを捉える。
音が消える。
「焼き尽くせ――【極炎滅球】」
炎の球体が、カマンに迫る
血の砲弾が蒸発する。
カマンは血を集める。
血の防壁を何層にも重ねていく。
しかし、防壁を突き破る。
手の届く距離。
「ククク、クハハハハ!ば、化け物めえぇ――
眩く輝く球体は、カマンに直撃する。
轟音と共に、地を抉る。
カマンを押し出しながら球体は、家を薙ぎ倒し、ガエリオンの城壁に衝突する。
地上に降りてくるアルマ。
「まったく…兄さんやりすぎ」
「まぁ、周辺の人達が避難してるのはよ、何となく気配でわかったからな」
遠くの壁にめり込むカマン。
「あ…あがぁ……」
カマンは気絶しているが生きている。
「すごいねアレで生きてるなんて」
「アイツ、しぶてぇな」
「トドメ刺す?」
「いやいいよ、ところでレイの方は?どうだった」
「んー普通?」
「普通ってなんだよ!」
「うるさい」
「いや、なんでだよ」
二人は再度、カマンに視線を向ける、
――瞬間。
ゾワッ
何か――いる。
黒いローブに“仮面“。
カマンの横に。
いつの間に…?
「回収させてもらう」
低く――そして暗い声が響く。
足元から、黒いモヤが出現する。
「兄さん、アイツ――カマンを連れてく気だ」
「テメェ何者だよ」
“仮面“は、こちらを見る。
――面白いレガリアを持つ小僧だ。
兄さんを見てる…?
黒いモヤに沈むように、カマンと“仮面“ は消えていった。
「なんだったんだアイツ」
「アルマ様!レイ様!サイロ鍛治長が……目を覚ましました!」
「なにぃ!本当か!?」
「兄さん急ぐよ」
――アーセナルへ走るアルマとレイ。
二人はまだ知らない。
このシールズとの一件で。
捕まってしまうことを。
カマンを回収した謎の存在。
そして、アルマとレイを、待ち構えるさらなる試練とは。




