10話「 現れる謎の男×忍び寄る闇」
帝都を目指すアルマとレイ。
門兵に止められ、入れない…!
その時、現れたのは――
アーク・シールズに追われる三人。
謎の少女、セラを含む、アルマとレイは暗い通路を歩いていた。
……足をとられて歩きづらい。
レイは周りを見渡す。
水を吸い込んでるせいか、土がぬかるんでいる。
「セラだっけ?…で、お前はなんで、あの村にいたんだよ」とアルマはセラに尋ねる。
「……」
「っておーい!いきなり無視すんなー!」
「兄さん…静かに」
「なんで、こんな道を知ってるんだよ」
「……ごめんなさい、今は答えられないの」
「この抜け道は、何処に繋がってるんですか?」
「ちょうど、この上が裏門くらいよ」とセラは上を見つめる。
……微かに上から足音がする。
慌ただしいな。
「ってことは…ここ抜けたら、元いた山道近くに出れんのかよ」
「えぇ出れるわ」
暫く歩くと、上へと続く梯子が見える。木製で簡易的に作られた梯子だ。
ギシッ、梯子が軋む。
暫く上がると、頭上に木の板が目に入る。
「ここよ」とセラが、ゆっくりと木の扉を開ける。
辺りを確認するが、敵の姿はない。
三人とも静かに外へ出る。見渡すと、少し離れた場所から黒煙が見える。
村からだろうか…シールズが火をつけていた煙に違いない。三人の目が黒煙に釘付けになる。
――その瞬間。
背後の茂みから音がする。
三人は距離を取る。
しかし、どこかで聞き覚えのある声が耳に入る。
「あー!兄貴達!俺でさぁ!バイルですよぉ!」
茂みから出てきたのは――バイルだ。
「おー!無事だったんだな!さっきはありがとなぁ!」
「そ、それが無事じゃねぇんですよ…アイツらが俺を逃してくれたんでさぁ」とバイルは泣き出す。
確かに、先ほどまでいた手下三人組は姿が見えない。
「俺を助けるためぇに〜!うぉ〜ん!おんおん!」
「ばかやろう!大きな声出すな!見つかりてえのか」
ボコッ!
「は!そ、そうでしたね!捕まっちゃあ元も子もねえ、遺跡賊は命あっての物種ってなぁ、アイツらの事は忘れねぇです」と頭を撫でながらバイルは笑う。
「最低」
「オメェ最低だな」
「クズね」
「冗談でさぁ、ちゃんと助けますよ!」
――隠していた馬車まで移動する。
草の生えた枝を被せ、上手く擬態させている。
バイルは、近くに繋いであった馬車馬を解きながら言った。
「俺は、一旦…根城に戻りやす、捕まった奴らもなんとかしねぇとですし、荷馬車は兄貴達にお渡しするんで使ってくだせえ」
「そうか…色々とありがとうな!ボイル!」
「いや!バイルですよぉ!」
バイルと別れ、馬車に乗る。
手綱を握りながらアルマが言った。
「ところで…セラは何処に行くつもりなんだ?」
「帝都よ」
「それなら目的地は一緒か」
「セラさんは帝都に何しにいくの?」
「古い知人に会いに」
「セラさんは帝都に住んでるの?」
「いや、住んでた、の方が正しいわ」
馬車に乗せてあげたからか、セラは少しだけ二人に気を許しているように見える。
「貴方達は帝都に何しに?」
「僕らは最近、フリーでシーカーを始めたんだ」
「あら、フリーシーカーなのね、見た限り…まずは防具を揃える事をオススメするわ…」
セラは布切れ同然の服に視線を向ける。
「僕らもそう考えて、帝都で装備を揃えようと思ってるんだ」
「ふーん、それなら、まずは簡単な遺跡にでも潜って古代生物の素材を集めることね」
「うん、そうするよ」
荷室に積まれた箱の中にある、ゴブリンやキュクロの素材について、レイは敢えて言わなかった。素材を奪うシーカーの存在を警戒していたからだ。
「ま、貴方達の幸運を祈っているわ」とセラは深く追求せず外に目をやる。
――三日が過ぎた。
「うおぉ!レイ!見えてきたぞー!」
「あら、案外早かったわね」
レイは、バンから顔を出し、呆気に取られる。
視界の先に、異様なものが広がっていた。
帝都タニア。
でかい、なんて言葉じゃ足りない。
城壁は果てが見えず、街は地平を覆い尽くし、その中心には、空に突き刺さるような城があった。
息を呑む。
――ここが、帝国。
「に、兄さん、これは凄すぎるね」
「ああ、こいつはすげえ」
手綱を握る手に力が入る。
村なんて比じゃねえ…!こんなにすげえとは…!
「失礼、感動してるところ悪いんだけど、私はそろそろここら辺で降りるわ、寄るところがあるの」
「兄さん止まって、セラさんはここで降りるみたい」
「おう!わかった!どうどう!」
――馬車馬の足が止まる。
「アルマ、レイ、二人にはこの三日間、夜の寝床がら食事まで…本当に助かったわ、ありがとう」
「いいっていいって!気にすんなよ!」
「セラさんも気をつけて、また何処かで会いましょう」
「えぇ、アルマとレイのシーカーデビュー、楽しみにしてるわね」
見送るセラが小さくなっていく。とうとう、帝都の門の手前まで辿り着く。
「うひょぉー!でっけぇ門だな…!」
「兄さん、それ古城の時にも言ってた」
「言ってない」
「言ってた」
「良いじゃねぇか、こんなにすげえんだからよ」
確かに凄い。古城の門とは比較にならない程の大きさだ。それに、この行列は…。
「この並んでる列はなんだろうな?」
「きっと色々な国からきてる人達だろうね、入国審査、があるんだ」
列を見ると、一般人から、馬車を引く行商、武器を身につけているシーカー、人だらけだ。
「次の者前へ」
「よし、通れ!」
どうやら、門番のシールズが入国目的、荷台の確認、職業を聞かれているようだ。僕らの順番は次だ。
「次の者前へ」
アルマとレイが乗る、荷馬車が前に進む。
「見ない顔だな、名前は?」
「アルマ」
「レイ」
「入国目的は?」
「素材を売りに」
「職業は?」
「フリーでシーカーをやってる」
「その積荷はなんだ?」
「素材だよ」
小汚い布切れの服に、シーカーで、馬車で…素材だあ…?怪しい奴らだ。
「貴様ら本当にシーカーか?」とシールズの兵は、疑いと嫌悪の眼差しを向ける。
「なんでだよ!」
「貴様らのような小汚い服を着て、シーカーだの、身分にそぐわない馬車を引いている…さらに素材まで…?まさか貴様ら強奪した荷を売りに来た遺跡賊ではあるまいな?」
後ろの列がどよめいている。進まないので気になって見ているようだ。
「この馬車は……貰ったんだよ!」
「うるさい!怪しい奴らめ!」
マズイ…兄さんも熱くなってる…。ヤイダ村の一件もあるし今騒ぎを起こすのは…。
頬を汗が伝う。
――その時。
「おーぃ!こんなとこに来てたのか!着いたら、俺が来るまで門の外で待っとけって言ってたろうが!」
の太い声に、見た事もない男、背丈は門兵より高く、バイルと同じくらいだろうか…二メートルから三メートルはある。
男は、アルマとレイの前で止まる。
「門兵さん、こりゃ失礼しました、この子達は私の連れでしてね」
「なに?本当なのか?もし、嘘をついていたらタダじゃ済まないぞ?」
「おい、待て!その方の首飾りの紋様!」
「あ、貴方様は……こ、これは失礼しました!どうぞ、お連れ様の方、お通りください!」
男の首飾りは銀色で盾の形をしており、盾には八個の星が彫りこんであるのが見える。
事態が飲み込めないまま、門を通される。しかし、二人は更に驚愕する事になる。
帝都タニアの門をくぐった瞬間、空気が変わった。
人、人、人。
道を埋め尽くすように行き交い、肩と肩がぶつかる。
「安いよ安いよ!今朝焼いたばっかだ!」
「どけどけぇ!馬車通るぞ!」
怒号と笑い声が入り混じる。
焼きたてのパンの香りと、香辛料の匂い。
その奥に混じる、汗と獣の臭い。
鍛冶場からは、ガンッ、ガンッと鉄を打つ音が響き、
露店では色とりどりの布や果実が並んでいた。
――村とは、まるで別世界だ。
呆気に取られながらも、アルマはふと我にかえる。
「で、お前誰だよ!」とアルマが手綱を握りながら尋ねる。
「まあ、まだ静かにしろ、門兵に聞かれるぞ」
「……」
馬車の横を歩きながら、見上げるレイ。
この、大男は何者なんだ…。
兄さんも僕も、こんな人は知らない。
しかも、この男……強い。
「そろそろ、良いかな?…いやぁ驚かせてしまって、すまないねぇ、私の名は、オルグス・ドーアだ、オルグスと呼んでくれよアルマ、レイ」
「いや!だから誰だよ!」
「兄さん今はそこツッコまないで、って何で僕らの名前を知ってる?」
レイは少し警戒を強めていた。
短髪の短髪に刈り上げ、背丈に似合わず、ニコニコした男、オルグスは話し出す。
「お前ら、来る時にセラによくしてくれたんだってなぁ」
「え!お前、セラの知り合いなのかぁ!?」
「まあ、知り合いってか、元同僚みたいなもんだ、アッハッハッハッハ」
「セラさんから、話を聞いたんですか?」
「まあ、そんなとこだ!門で困るだろうから迎えに行ってあげてほしいってなぁ、行ったら一発で分かったよ、お前らセラが言ってた通りの奴らだなぁ、アホ丸出しのアルマに、おんなみたいな――」
「あ゛ぁ゛?」
レイの目が、殺意を纏う。空気が凍りつく。
そしてアルマも凍りつく。
「わー!待て待て!レイ!オルグスも、それ以上は口開くなよー!」
「なぁんだ?おもしれぇやつらだなぁ!アッハッハッハッハ」
――
「ところでお前ら、セラが言ってた通り、ボロッボロの服だなあ、そんなんでシーカーなんてしたら死んじまうぞ?」
「うるせえ!ほっとけ!これでも遺跡、一個攻略してんだぞ!」
「そうか!そうか!悪かったなぁ!アッハッハッハッハ!」
「このやろー!信じてねぇな!」
「で、お前ら、武器屋と素材買取屋を知りてえんだろ?、武器家なら、まあ色々あるが、おすすめはやっぱり、亜巨人の《ヘイスト》兵器庫だろうなぁ、品揃え、腕、どれとっても一番だろう」
オルグスは誇らしげに言った。
「場所は、そこ曲がってずっと真っ直ぐ行ってたらまぁ見えてくんだろ、ちなみに素材買取は、そこの橋を渡って右に行って、真っ直ぐだ」
「覚えらんねぇよ!」
「覚えた」
「それじゃあ、俺は予定があるからよ、帝都にいりゃあ、また会う事もあんだろ、たまに、冒険者の茶屋で飲むけどよ、そのうちお前らも行ってみろよ、あそこの酒は美味いぞ!アッハッハッハッハ」
そういって、オルグスは手を振りながら、中央の人混みの中へ消えていった。
「なんか、すげぇやつだったな…」
「兄さんくらい騒がしい人だったね」
「なぬ!俺は騒がしくない!元気なだけだ!」
「騒がしい」
「騒がしくない」
「騒がしい」
馬車の上と下とで、言い合いしながら進む二人。
果たして、無事に目的地に辿り着けるのだろうか。
【帝都裏路地】
人混みから離れ、路地を真っ直ぐ進んだ路地裏。
薄暗い。ここに、ローブを纏った一人の男と、痩せた軍服姿の男がいた。
ローブの男に、軍服の男は平伏しているようだ。
「帝から、ある物を奪うまで――もうすぐだ」
男は低く告げた。
「いいか。準備が整うまで、貴様は潜んでいろ」
わずかな間。
「……あれさえ手に入れば、この帝都さえ滅ぼせる」
「はいぃ……!もちろんでございますぅ……!」
甲高い声が、歪む。
「わたくしめにお任せを……。貴方様に、ひいては――あの御方様の為にも」
クツクツと、喉の奥で笑う。
「この茶番、最後まで演じきってみせますので……ご安心を」
男は、ゆっくりと笑う。
――その視線は、帝都の中心を貫いていた。
セラと知り合いのオルグス、一体彼は何者なのか…
そして、帝都に忍び寄る闇の正体とは……




