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田舎


「んでんで? デートどうだったわけ?」

「街案内な」

「もー、照れちゃってさー。ねぇ、ユキちゃんどうだったの?」

「とっても楽しかったですよ。この街の歴史に触れられた気がして」

「歴史にってことはあれだ。命の壁か。初デートには鉄板だねぇ」

「ナナリータ」

「ごめん」

「よろしい」


 そんな他愛のない会話をしつつ、魔導列車に揺られて目的地を目指す。


「現場は田舎町のアバロニーラか。急に連絡が途絶えたから見てこいとさ」


 隣りのフォンから資料を受け取る。


「グリムファーロンじゃ定期連絡すら怠ってた。本部もそれに気付かないくらいの田舎だったけど、アバロニーラはちゃんと職務を真っ当してたんだな。お陰で異変にもすぐ気付いてもらえた」

「あの時は応援が来るまで数週間かかりましたからね」

「あぁ、人間、勤勉でないとな」


 でないと伊座という時になって泣きをみる。


「連絡が取れなくなった理由はなんだと思う? シオンの言う職務怠慢って訳じゃなさそうだけど」

「機器の故障でしょうか?」

「連絡を絶ってからすでに五日も経ってるんだぜ? 流石に修理できてるだろ。時間がかかるってんなら本部に人をよこすはずだ。勤勉ならな」

「たしかにそうだ。だとすると考えられるのは……魔物の襲撃で全滅って線か」


 グリムファーロンでの死闘が脳裏を過ぎる。


「なんにせよ、行って確かめてみないことにはどうしようもありませんね」

「何事もないと良いけど」

「何があっても殴って解決すりゃいい」

「単純だなぁ、フォンくんは」

「くん付けするな」


 魔導列車が停止し、田舎町アバロニーラに到着する。

 座席を立ち、忘れ物がないことを確認して、駅のホームに足を下ろす。


「あれ?」

「ありゃ?」


 駅を出るとグリムファーロンよりは多少発展した町並みが広がっていた。

 行き交う人々にも若い年代が見られ、町全体の雰囲気も悪くない。

 車内で想像していたようなことは微塵も起こってはいなかった。


「なーんだ、なんにも異常ないじゃん」

「そのようですね。襲撃に遭ったような様子もなさそうですし」

「こりゃ機器の故障が濃厚か? 思ったより勤勉じゃなかったらしいな」

「とにかく、支部に行こう。それではっきりする」


 何の変哲も、異変もない町の中を支部を探して歩き出す。

 支部を見付けて中に入るまで、本当になにも異変は見付からなかった。


「えぇ!? 連絡が途絶えた? 可笑しいな。ちょ、ちょっと待ってくださいね」


 支部の責任者に事情を説明すると慌てた様子で確認を行ってくれた。

 しばらく待つと、申し訳なさそうな顔をして戻ってくる。


「確認したところ、機器が故障していたようで。送っていたと思っていた報告が届いていなかったようなんです。こんな田舎町までご足労いただいて申し訳ない」

「いえいえ、そういうことならいいんです。俺たちは確認にきただけですから」

「すぐに修理して本部のほうに連絡しますので」


 随分と腰の低い人だった。

 グリムファーロンのご老体にも見習ってもらいたいもんだ。


「仕事終わっちまったな」

「終わっちまったねぇ。どうする? シオン」

「どうするもこうするも、クラッドイールム行きの魔導列車は一日一本なんだ。一泊するしかない」

「それまでは自由時間ですね。シオンさん、付き合ってもらっていいですか?」

「あぁ、もちろん」

「ふふっ。では、行きましょう」


 手を引かれて歩き出す。


「じゃ、あたしらは宿とっとくから。ごゆっくりー」

「あぁ、頼んだ」


 後のことを二人に任せてユキが進むままに歩く。

 行き着いた先は町外れにある雑木林。


「ありました」


 ユキが見付けたのは木の麓に裂いていた茜色の花だった。


「それは?」

「夕暮れ花と言って、乾燥させて紅茶に混ぜると、とっても良い匂いがするんです」

「ここに咲いてるってよくわかったな」

「実は出発する前に調べていたんです。クラッドイールムには花が少ないので」

「そっか」


 田舎にないものが都会にあり、都会にないものが田舎にある。

 都会に咲く花は種類があまり多くない。

 ユキの趣味である薬作りや茶作りはやりにくいのかもな。


「じゃあ環境を壊さない程度に摘んでいくか。紅茶にしたら一杯ごちそうしてくれ」

「はい、もちろん。とびっきり美味しく煎れますよ」


 手分けして夕暮れ花を探す。

 木の麓に良く生えていて、色も目立つのですぐに纏まった数が集まった。

 どんな味のする紅茶なんだろう? 楽しみだ。


「ユキ、こんなもんで――」


 不意に鼻が詰まるような異臭がした。


「ありがとうございます。それだけあれば――どうかしたんですか?」

「嫌な臭いがする」

「臭い……そうですね」


 臭いは雑木林の奥から続いている。

 腰に差した刀を手で確かめ、ゆっくりと奥へと進む。

 足を進めるために臭いは強くなり、茂みを掻き分けるよいっそう鼻に来た。

 その先にあったのは家畜と思われる動物が食い荒らされた跡だった。


「酷いな。家畜小屋から脱走したのか?」

「そう見たいですね。支部の人に報告をしないと」

「あぁ、まだ近くにこいつを食い荒らした奴がいるかも」


 町の近くに魔物がいるなら討伐しないと。

 まぁ、それは俺たちじゃなくて町の騎士団の役目だ。


「部外者が手柄を奪うのもよくないし、ここを離れよう」

「そうですね。折角の戦闘服に臭いがついてしまいそうです」

「帰ったら二人に嗅いでもらうか」


 家畜の死骸を放置してその場を後にする。

 最後に一度振り返ると、死骸の下から血塗れの蛇が這い出てきていた。

 それを気味悪く思いつつ、支部への報告を済ませた。

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