21:終
その後の王宮内はさらに大騒動だった。国王陛下が誘拐されるなんて大事件だ。
しかし陛下が無事にすぐに見つかった事、使われたのが王族しか知らない通路であったことから、何かしら思うことがあったようで、王家の指示で内々に片づけられた。かん口令がひかれ、関係者以外に知られる事はなかった。
ウィルは、シシィを取り逃がした責任を取って、側近の職を解いてもらうよう自ら願い出た。しかし陛下を無事に取り戻した功績を評価され、数週間の自宅謹慎だけを言い渡された。アレクサンダー殿下はきっとウィルを手放したくないのだろう。
あの真面目なウィルに、ずっと追っていたシシィを見逃すという、最も苦しい選択をさせてしまった。
この先、彼は後悔するかもしれない。
謹慎が解けた頃、ウィルがお見舞いに来てくれた。
「怪我はどう?まだ痛む?」
私の短くなった髪をなでながら、痛々しそうに聞く。でも、ウィル自身の方が辛そうに見えた。
「私は大丈夫。あねの、ウィル、本当にごめんなさい。そして、ありがとう」
ウィルは、結局シシィの正体について、一切報告しなかった。それは、私が王家の暗部を知ってしまった事を、王家に知られる事を避けるためだ。私を守るため、彼は、今までの人生で大事にしていた忠誠心を曲げたのだ。
私のせいで、ここまでさせてしまった。十分だ。
「ウィル、今まで本当に感謝してる。どうか、私と、婚約解消してください」
私は深く頭を下げた。
ウィルはすこし目を見開いて、ため息をつく。
「やっぱり言うと思った」
「私には、もう、婚約者の資格がないわ」
「それで?婚約を解消したら、その後どうするの?そんなぼろぼろ姿でさ。縁談ももう来ないよ」
私の顔の包帯をそっとなでる。
「別にいい。一人でひっそり暮らす」
「とかいって、元気になったら出奔するんだろう。君はそういう人だ」
ウィルは、切なそうに目を細めて言った。
「君が負担なら、婚約解消してもいいよ」
「でも出奔するときは、僕と一緒だ。実は僕もちゃんと自分の用意をしてあるんだよ、君がせっせと天井裏に隠し始めた頃から。君がいつ急にいなくなっても、すぐ追いかけられるようにね。」
「そこまでされるとひくんだけど」
「もう諦めて。慣れてくれ」
「私は、真面目なウィルを道連れにできない」
「いまさらだよ。今回はさすがの僕も、ちょっと色々嫌になったしね。それに、シシィの事が終われば、殿下はまたマリーを口説き始めるだろうしさ。あーもうあの一族めんどくさくてやだ」
心底うんざりといった表情をするウィルがおかしくて、笑ってしまう。
「じゃあさ、一緒にいろんな国まわろうか!」
旅装束のウィルと、二人で、見知らぬ国を冒険して回る。
想像するだけで、わくわくする!ふと視線を戻すと、ウィルが愛おしそうに私を見ていた。
「いいね」
「そしたらさ、どこかで、またシシィに会えるかな」
ウィルの機嫌が一気に悪くなった。
「まだ君は・・・」
「そしてね、ウィルの事ちゃんと紹介するの!『この人が、私の愛する人です』って」
ウィルはピシッと固まる
「ウィル、好き!」
ウィルは両手で顔を覆い、泣きそうな声で言う。
「初めて、マリーに、好きって言ってもらった・・・」
「ええ?そうだっけ?ごめん、いうの忘れてた」
「もう・・・そんな事忘れるなよー」
グズグズ鼻をすすっている。
愛おしい、この人が。
「あはは!また忘れないようもっと言うね、ウィル、大好き!」
「うわあ過多でこれ以上耐えられない、でももっと言ってくれえ」と、唸るウィルが面白くて、怪我をしていない方の手でばんばん背中をたたいていると、その手を取られた。
ウィルの目が熱を帯びている。
「マリー、いい?」
「うん」
目を閉じると、温かいウィルの唇が、私の唇に触れた。
***
やっぱり、私は、今でも強く願う。
シシィ、どこかで、生きていて。
もうあんな仕事をやめて。
そして、できたら、笑って生きていてほしい。すこしでも、シシィらしく。
あの時、手を振ってくれたシシィに、私も手を振りかえす。
「ばいばい、シシィ」
了




