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VS ゴブリンキング(1)

<新しく発生した魔物に挨拶を送る>

<ここはどこだ?>

<若い人間が集まる建物だ。糸のついた投擲武器を持った女に気をつけろ。あの武器は何回でも使用可能だが、糸が切れれば無力だ。もう1人、拳闘士の女がいる。爆裂の使用回数は不明だ>

<分かった。先行者よ?>

<なんだ?>

<これは夢か?>

<そうだ、これは夢だ>



*****



「――生徒はァ、落ち着いてェ、グランドにィ、避難しましょう」


 いつもと同じ抑揚のない警報が反響した。いつもと異なるのは、愛と紗良は体育の授業でグランドにいるということだった。


 白Tシャツにショートパンツ姿の愛は顔をしかめて、校舎を眺めた。同じ格好の紗良が走り寄ってきた。


「どうした?」

「爆裂ヨーヨー、更衣室に置いてきたんよ」

「更衣室に行くんなら、早いほうがいいよ」


 更衣室は校舎2階にある。紗良が断言した。


「最近、一度に発生するゴブリンの数が増えてきとるやろ? この間はゴブリンの数、27匹だったやろ。今度は81匹かもしれん」


 実体のない魔物は3のべき乗で発生する。81匹のゴブリンは大軍団であった。2階を占拠されると、更衣室にたどり着くのは極めて困難になるだろう。


愛が紗良を潤んだ瞳で見つめた。


「紗良ちゃん……、付き合ってくれる?」

「愛ちゃん……、唐揚げで手を打とう」

「紗良ちゃん……、ケチ」


 最初の目標として爆裂ヨーヨーの回収を行うのには理由があった。爆裂ヨーヨーは攻撃した対象を爆散させることができるウルトラスーパーレアアイテムであり、爆散に要するチャージの消費は0であった。つまり、何度でも使える。


「前回はゴブリンロードが出たけん、今回も大物がでてくるかもね」


 気合の入った紗良が右肩をぐるぐる回した。


「紗良のスキルは普通のゴブリン相手にはもったいないけん。雑魚ゴブリンはヨーヨーで倒すけん、紗良は最後までチャージを温存しておいて」


 紗良の職業は拳闘士であった。拳闘士のスキルである爆裂右ストレートは攻撃対象を消し飛ばすことができる極めて強力なスキルであるが、チャージが10必要であった。


 紗良はフルチャージで70だから、爆裂右ストレートを7回放つことができる。逆にいうと7回しか放てない、ということだった。雑魚ゴブリンはなるべく爆裂ヨーヨーで倒して、紗良のチャージは最後のボス戦まで温存しておきたかった。


 そのためにも、まず最初に爆裂ヨーヨーを回収する必要があったのだ。


 ちなみに非戦闘職である愛にはチャージそのものがなかった。愛の職業は巫女であり、ステータス上では愛のチャージ欄には-(ハイフン)が記載されていた。かつてエルデリアにおいてアキ先生には「ハズレ職」だと言われたことがあるが、それくらい巫女という職業は戦闘には不向きであった。


 二人は隠密のスキルを発動させ、人の流れとは逆に校舎へと移動を開始した。グランドへと急ぐ生徒や教師たちのなかには、隠密のスキルが効かず、愛と紗良に気づいた人々もいたようであった。だが、彼らは後ろからやってくる人の流れに押されて、愛と紗良に声をかけることはなかった。


 玄関から校舎に入り、お互いをサポートできる距離を保ちつつ、辺りを警戒しながらしばらく進んだが、魔物の姿はなかった。更衣室へは東階段が近かった。二人は上階を伺いながら、音を立てずに素早く階段を駆け上がった。


 階段からは2階の廊下が続いていた。陰から廊下をうかがうと、ゴブリンが2匹うろついていた。


 愛は右足を両手で膝からなで上げるようなセクシーな仕草をしてみせた。紗良が頷いた。


 これまでの戦闘経験から隠密のスキルはこの世界のゴブリンには効果がないと分かっていた。愛は隠密のスキルを切ると、紗良を残し、廊下の角を曲がって歩いてみると、すぐにゴブリン達に見つかった。


「ぐえ♡ ぐえ♡」

「きゃあ」


 愛は驚いた様子を装って、ゴブリンから逃げるように見せかけて、もときた通路を戻り、廊下の角を曲がって紗良に合流した。


 予想通り、獲物を見つけ興奮したゴブリン達が追いかけてきた。


 だがゴブリン達は廊下を曲がった途端、待ち構えていた愛と紗良にそれぞれ首を折られて息絶えた。愛と紗良は親指を立てた。


 黒い瘴気と化した彼らを愛が浄化した。非戦闘職である巫女のスキルとしてヒールと浄化がある。ヒールと浄化は戦闘スキルとは異なりチャージを消費しなかった。かといって無限にヒールや浄化できるかというとそうでもなく、ステータス上で数値化されない制限や経験値があるようであった。


 以前、愛は気を失うくらいヒールを連発したことがあるが、その時から浄化スキルを使用できるようになっていた。


 浄化が終わりきらぬうちに、廊下の反対側にある西階段からゴブリンの一団が現れた。ゴブリン達は愛と紗良を見つけると、声を上げてこちらに向かってきた。更衣室はもう目と鼻の先であった。


「愛!」

「うん!」


 二人は同時にダッシュした。更衣室までは20m足らず。3秒フラットで更衣室入り口までを走りぬけ、ゴブリン達よりも先に更衣室に入ると、紗良は扉の内側の位置で腰を落とし、ファイティングポーズをとった。


 待つこと数秒。


 更衣室に足を踏み入れた1匹目のゴブリンの顔面に紗良が右パンチを叩き込んだ。チャージを消費しない通常の、だが異世界で強化された強烈なパンチだった。ゴブリンが後ろに倒れた。が、すぐに次のゴブリンがやってきた。


 愛は自分の制服に駆け寄り、スカートのポケットに入れておいた爆裂ヨーヨーを右手に装備した。ずっしりとしたヨーヨーの重さが頼もしかった。


 紗良を見ると、入り口に立ちふさがり、群がったゴブリン達をサンドバッグのように、パンチの雨あられを浴びせているところだった。入り口に殺到したゴブリン達は格好の標的であった。


「紗良!」


 一言で十分だった。入り口を塞ぐ位置から紗良が体を避けるのと同時に、愛がコンパクトなモーションでヨーヨーを連撃した。


 ゴブリン達は次々に爆散していった。


 最小限の動きによる攻撃はエルデリアでの特訓でアキ先生から徹底的に叩き込まれていた。この連撃技はエルデリアから帰還して以降、至近距離での戦闘のために練習に練習を重ねてようやくできるようになった。


「ぐえ。ぐえ」


 廊下を走って、次のゴブリン達がやってきた。瘴気を浄化する間もなかった。更衣室内での戦闘は、いざという時に逃げ場がなく、危険であった。二人は更衣室から廊下に出てゴブリン達を迎え撃った。


 右に愛、左に紗良が立ち、中腰になって会敵を待った。


 ヨーヨーの射程距離に入った瞬間、向かってくる先頭のゴブリンの顔面をヨーヨーが食い破った。爆散を見届ける間もなく、次々とゴブリンに向かってヨーヨーが襲いかかった。


 途中、愛に掴みかかろうとするゴブリンに対しては、すぐさま紗良がインターセプトに入り、ジャブで牽制し、通常の右パンチを放っては撃退した。それらのゴブリンも愛が次々と爆散させていった。


「これで終了?」

「愛、それはフラグ! 言うたらいけんよ!」


 すぐに次のゴブリン達が2階の廊下にやってきた。

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