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VS 豆腐小僧(2)

 瑞鶴(みつる)が体を動かそうと悪戦苦闘する間、豆腐小僧は長〜い舌を出して、豆腐を舐め回していた。


 やがて一通り舐め終えた豆腐を投げつけようと豆腐小僧が顔を上げたとき、明奈の右の踵落としが豆腐小僧の頭部に炸裂した。頭部を失った豆腐小僧が床に倒れて消えた。


「爆裂踵落としや! どや!」


 ドヤ顔の明奈が両手が開き気味のファイティングポーズを取った。


「乙女の足で昇天しいや!!」

「……」


 店内に気まずい沈黙が訪れた。明奈が両手を前に組み、少し照れながら解説を加えた。


「いや、ね……。この台詞、ええやろ? 技が決まったときに使おうと思おてね……。 ずーっと温めとってん」


 飛鳥と瑞鶴が明奈をジト目で見つめた。明奈がわざとらしく咳払いをした。


「コホンッ。それよりも金縛りや! 飛鳥、瑞鶴、あいつの目ぇ見たらあかんで!」


 3体目の豆腐小僧が客間から出てきた。飛鳥と瑞鶴は慌てて、豆腐小僧の目を見ないように足元へと目線を落とす。


 豆腐小僧は店舗内をぐるりと見渡し、床に両手をつき喘いでいる飛鳥と瑞鶴を見つけると、ゆっくりと近づいてきた。


 ヒタッ


 ヒタッ


「やばっ!」


 明奈は慌てて飛鳥と瑞鶴を助け起こすと、店舗の外へと後退り始めた。店の外に出ると、心配そうな店主が明奈に声を掛けた。


「明奈ちゃん、すごい音が聞こえたけど、大丈夫?」

「大丈夫や! おっちゃん、危ないから下がっとってや」


 豆腐小僧が店の外に出てきた。店主は慌てて離れていった。


 豆腐の射程範囲はせいぜい2mといったところだった。豆腐小僧に2m以内に近づかれないように、飛鳥と瑞鶴は必死に後退るが、視界に映る豆腐小僧の下半身がどんどん大きくなってきた。


「はあ、はあ、あいつ、ゆっくり歩いてるのに、なんでどんどん近づいてくるの?」

「……瑞鶴、あいつ、巨大化してるぞ」

「え?」


 飛鳥と瑞鶴が慎重に顔を上げてゆく。足元から脛に。脛から帯紐に。帯紐から襟合わせに。


 視線が豆腐小僧の顔に辿り着く前に、2人は後ろにコテン、とひっくり返ってしまった。


 すると、


「わーはっはっ。わーはっはっ」


 巨大化した魔物が低い声で笑った。もはや豆腐小僧ではなかった。一つ目はそのままに、今や豆腐大入道となった魔物は、巨大な豆腐を大きな舌でベェロ、ベェロ、と舐め始めた。


 後ろにひっくり返った飛鳥と瑞鶴は、そのまま金縛りの状態となってしまい、身動きが取れなくなっていた。


 大入道が存分に舐め回した巨大豆腐の爆発力が大きなものであろうことは想像に難くなかった。


 その時!


「このばかちんが〜。喰らえ〜、スペシャルロイリングドラゴン!!!」


 明奈が空中高く飛翔すると3発の踵蹴りと2発の蹴りを一瞬で叩き込んだ。


 明奈が着地した。


「乙女の足で昇天しいや!!」


 豆腐大入道の頭部が爆散した。残った胴体は立った姿勢のまま、輪郭を失い、やがて消えていった。魔物がこれ以上は出現しないことを確認した明奈は、ひっくり返ったままの飛鳥と瑞鶴のもとに駆け寄り、2人を助け起こした。


「ふたりとも怪我とかしとらん?」

「……大丈夫。しかし、あの台詞があんなにも頼もしく聞こえるとはな……」

「あいつ、なんやったん?」


 始めて戦うタイプの魔物であった。瑞鶴が答えた。


「あいつは豆腐大入道。豆腐で検索した時に豆腐小僧といっしょに出てきた」

「さっきも魔物辞典っていってたけど、それって何やねん?」

「魔物辞典は……」


 考えるように、少し間をおいて、小声で瑞鶴が続けた。


「……2人とも、治験、受けた?」


 他の2人も小声となった。


「……ウチは財団と契約したときに受けたで」

「……私も」


 3人とも短期間だけ、国際クルーズ船に乗り、そこで新薬の注射を受けたことがあった。瑞鶴は小声で説明を続けた。


「私もはっきりとは分からないんだけど、そのときに体内に注入されたのがナノマシーン、みたい。ナノマシーンからできてるのがCPUという装置。少し前から、わたし、CP∪と話ができるようになって。魔物辞典は、最近、ダウンロードしたんだ」

「にわかには信じがたい話だが……」

「それいうたら、ウチらが魔物と戦っている事自体が、なあ……」


 店の前の路上で、飛鳥と瑞鶴が回復するのを待っていると、一台のタクシーが直ぐ側で停車し、中から野間が降りてきた。


「近見さん、瘴気の場所を教えて頂戴! 水係のみんなも手伝って!」


 3人は顔を見合わせて溜息をついた。3人は必要な後始末を終えると、興奮した野間を残し、足早に中華料理屋を後にした。



*****



【今治銀座かわら版 妖怪注意報】


9月13日 来来軒に豆腐小僧が出ました!

豆腐小僧は豆腐を載せたお盆を持った1つ目の妖怪です。一見すると無害に見えますが、目が合うと金縛りにあい、豆腐を投げつけてきます。投げつけられた豆腐は爆発します。またいつの間にか巨大化して、見上げようとした人を後ろに転ばせて大笑いする悪趣味な妖怪です。

魔物を見かけられたら、決して近づかず、すぐに青年会にご連絡を。

このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。

よかったら、ブックマークや評価をポチっとしてもらえると作者の励みになります!

よろしくお願いします!

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