赤猫の宅急便
「「「いただきま〜す」」」
3人の少女が食卓を囲んでいた。夕食のメニューはご飯、鮭のムニエル、ほうれんそうの御浸し、白菜としめじのクリームシチューだ。
豚汁とカレーばかりだった殺伐としたシェアハウスの食生活は瑞鶴が引越して来てから大きく改善された。
瑞鶴は料理、洗濯、掃除など家事全般において非常に手際が良かった。瑞鶴は実家で家政婦扱いされていたのだというが、それ以上のことを語ろうとはしなかった。
明奈も飛鳥も訳ありの少女だったから、それとなく察して、強いて聞き出すことはしない。
「瑞鶴、これ激ウマやん!」
「魚屋さんが鮭の切り身のいいのをサービスしてくれたの」
「うん、美味しい」
以前は各々バラバラの時間に食べていた夕食も、出来立てを温かいうちに食べるのが一番美味しいという理由で、自然に揃って食べるようになっていた。
「誰もアレルギーないから楽」
「あんたはウチらのママか?」
「少し食べ足りないなあ」
「ご飯とシチューならおかわりあるよ」
白米は高校の理事長名義で大量に届けられるので、不足することはなかった。飛鳥は炊飯ジャーからご飯をよそい、冷蔵庫から取り出した納豆パックを開けてかき混ぜると、ほかほかのご飯のうえにかけて食べ始めた。
話は自然に「瘴気水」に及んだ。
「野間先生に聞いたんやけど、アレ、化学分析しても普通の水と変わらへんねんけど、ネズミに飲ますとめっちゃ元気になって賢うなるらしいで」
瘴気水は担任の野間の手により近くの大学の研究室に渡り、研究が推し進められているらしい。野間は3人に対してとにかく瘴気水を大量に作成するよう要求しており、最近は野間からは水係の3人と呼ばれていた。
飛鳥が納豆ご飯を食べながら明奈に尋ねた。
「明奈は納豆食べないのか?」
「ウチそれダメ」
「美味しいのに」
「うにゃあ」
3人は顔を見合わせた。
「今、誰かうにゃあっていった?」
「ウチいってへんで、飛鳥か?」
「なぜ私が?」
「うにゃあ」
ふたたび、うにゃあと鳴く声が、今度は土間のほうからはっきりと聞こえた。明奈が土間へと続く磨りガラスの戸を開けると、赤毛の猫がエジプト座りをしていた。
「猫や…」
「猫だな…」
「猫?」
猫は軽い身のこなしでダイニングキッチンに上がりこみ、テーブルの上に飛び乗ると、瑞鶴の前に何かを置いた。
「なに……、ナイフ? あ!」
その日の午後に瑞鶴が申請したナイフだった。
「これ通販で私が頼んだやつ」
「そうなん?」
ナイフはブレードが格納された状態だった。2人と1匹が見守るなか、瑞鶴はテーブルからナイフを取り上げた。
「展開」
ナイフから6cmほどブレードが飛び出した。
「展開」
ナイフのブレードが延長し15cmほどになった。
「格納」
ブレードがハンドルに格納され、もとの状態に戻った。瑞鶴は満足げにうなずいた。
「よし」
「よし、やないわ! ちゃんと最初から説明してや」
瑞鶴はご飯の残りを食べ始めた。
「ちょ、なんで食べるん?」
「あったかいほうが美味しいから」
赤猫をテーブルに乗せたまま、3人は夕ご飯を再開した。食事が終わって、瑞鶴がお茶を配った。赤猫には平皿に水を出してみた。
皆でお茶を飲みながら、その日のCPUとのやり取りを説明した。胸の下で腕組みをしてじっと聞いていた飛鳥が呟いた。
「それは財団から与えられたナイフと同じものなのね?」
「そう」
3人にはこのナイフがナノマシーンを作り出した存在と関係があるという事実以上のことは分からなかった。
「でもどうして猫が届けてくれたのかな?」
「赤猫の宅急便じゃない?」
「理由になってへんわ!」
いつの間にかテーブルの上で横すわりをした猫は、3人の様子を時折前足を舐めながら聞いていた。
「ナイフのこと、野間先生には……」
「いわんとこ」
「賛成だな」
「うにゃあ」
このお話これからどうなるんだろうと、少しでもワクワクしてもらえてたら嬉しいです。
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