関西弁ギャルの歓迎会
今治市を含む地域についても6月始めに気象庁が梅雨入り宣言を行った。窓の外は強めの雨が降っていた。放課後の教室では愛、紗良、花梨、志津香が集まって定例の会議中であった。
魔物が出現してからは、私立せとうち青雲高校では部活動は全面休止となっていた。愛、紗良、志津香の3人はともにダンス部に所属していたが、今は否応なく帰宅部であった。同じ理由で、美術部の花梨も帰宅部であった。
「ゴブリンキング……思った以上に、手強い魔物だったのね」
「魔法は使うし、ずる賢いし」
「愛がフラグ立てまくって大変だった」
志津香が考えながら
「81匹のゴブリンの頂点がゴブリンキングなら、243匹のゴブリンの頂点は何になるのかなあ?」
と疑問を述べた。志津香は、最近になって陽キャ美少女へと変身を遂げたが、もともとは陰キャの帰宅部であり、図書館や自宅で小説を読むのが趣味という少女であったので、筋道を立てて考える習慣が身についていた。
「ゴブリンエンペラーだよ」
と愛が教えた。愛が黒板に数字を書き出した。愛先生の計算によると、
「ゴブリン27匹につき、ゴブリンロードが1匹発生します。いま、243匹のゴブリンがいるので、単純計算だと243割る27でゴブリンロードが9匹になる計算だけど、このうちの1匹がゴブリンエンペラーとして発生します」
4人は顔を見合わせた。
「花梨が仲間になってくれて戦力アップだけど、まだちょっと不安だよね」
「わたし、自爆するかも」
「爆裂ナックルもリーチが短いからなあ」
手を挙げた志津香を、愛先生が指した。
「はい、志津香さん」
「前から思ってたんだけど、他のクラスにも保健室からエルデリアに転移した子がいるんじゃないかな」
ありそうな話であった。賢者であるアキ先生ならば、この状況を見越して、新しい仲間のことを考えてくれていそうであった。4人は手分けをして他のクラスに赴き、クラス日誌に体調不良者の記載を探し、メモし、教室に再集合した。
「みんな、緊急事態に備えて栄養補給よ!」
愛が配った個包装のクッキーをつまみながら、日本を、いや世界をも救うかもしれない極めて真面目な会議は続いた。
「すいませ〜ん」
教室の入口から女性の声が聞こえた。入り口にはジャージ姿の、金髪ですらりとした女子生徒が立っていた。
「波方愛さん、いてはります?」
「波方は私ですけど……」
「良かったあ〜。ウチ、紺原明奈っていいますねん。アキ先生から、いまちょうどみんな教室におるって聞いて来たんですよ」
話を聞くと、明奈は通信制コースの生徒であり、先日、登校日の際に体調が悪くなって訪れた保健室でエルデリアに転移したとのことであった。今日は自宅にいたところに、アキ先生からスマホにメッセージが入り、急いで放課後の教室にやってきた、ということであった。
「ウチも鬼退治、手伝いましょか?」
と、愛の手元にある個包装のクッキーを物欲しげに見ながら、明奈は言ったのであった。
*****
定例の会議は急遽、明奈の歓迎会となった。
自販機のカフェオレを飲み、一息ついたところで、魔物との戦いの話をすることになった。大半は第三者的な視点から志津香が説明してくれたが、合間合間で愛と紗良が補足した。
「最初は隠密のスキルを使ってるから、バレないと思ってたんだけど、隠密が効かない人が何人かいて、噂が広がったみたいなんよ。あ、それと魔物と戦ってるときは、基本隠密のスキルは切ってるから、魔物から人を助けるときは顔バレしちゃうんだ」
紗良が後を続けた。
「学校側も途中から気付いとったみたいやけど、どうやら黙認されとるみたい。学校側の経営判断?みたいな感じで。うちの親、学校関係者やけん、そういう話が入ってくるんよ」
「どおりで夜も学校に入りやすいと思った」
「紗良のお父さんとお母さん、やめなさいって言わないの?」
志津香が日頃から不思議に感じていたことを聞いた。
「それが、言わんのよね。心配しとるんは伝わってくるんやけど、言わんようにしとるみたいなんよ。愛と花梨んちはどう?」
「うちは、頑張りなさい、っていわれた」
「うちも」
どうやら今治市には魔物討伐に理解のある父兄が多いようだった。花梨がカフェオレを飲みながら、明奈に尋ねた。
「明奈さんのお家は、このこと、ご存知なの?」
「ウチ、親おらへんねん」
「……ごめんなさい」
「ええねん、ええねん、ウチこそ変な空気にしてしもてゴメンな」
空気を変えようと、志津香が以前から気になっていたことを思い切って聞いてみた。
「愛のファンクラブって、どんな人達?」
紗良が答えた。
「これまでに愛に助けられた人らが結成したみたいなんよ。ほら、ゴブリンにボコボコにされとった男子生徒ら、鉄道研究会やったらしいんやけど、その子たちがそのまま愛のファンクラブになったんやって」
「ビミョ〜〜」
「国語総合の先生、志津香のファンだって」
「ああぁ、あれかあ……。 ちょっとからかいすぎたかなあ、アハハ」
鉄研の子たちや国語総合の教師が聞いたら泣き出しかねない会話だった。紗良が話を続けた。
「でね……あと、英語の先生は、愛は学園のヒロインだって言っとるって」
「職員室でゴブリンにボコされてた人よね」
「英語の先生、イケメンだよね」
「え、イケメンなん?」
女子5人の作戦会議はその後も賑やかに続いたのであった。
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