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89 オレも戦えるんだからね

お読みくださりありがとうございます!

 「それじゃ、グリヴェールのことよろしくね」


 ディオは柔らかに笑ってそう言って、シドが待つ馬車に乗り込んだ。


 護衛たちも戻ってきたのでひとまずディオたちは家に帰ることにした。


 まだ完全とはいかないが、必要なことについてはリサやヘンリーなどに伝えてあるのであとは上手くやるだろう。


 知識だけがある人間よりも、長年実践をやってきたヘンリーの方が余程適任だろうし、いつまでも滞在していてはみんなの気が休まらないはずだ。


 なので安全が確保されたいま長居はするべきではないのだと、ディオは城に帰ることにする。


 商会として動くわけではないのでいつも以上に野宿は避けられていて、町や村の宿に泊まりながら進んでいく。


 ゆっくりな旅路もたまにはいいとそれをもどかしく感じることはないのだが、騎士の護衛についてはたまに辟易していた。

 仕方ないと言っても、やはり慣れないことは疲れるのだ。


「シド、頑張れ〜」


 一棟貸し切った宿の庭で団長とシドが手合わせをしていて、それをベランダに腰掛けてディオはアルドと一緒に眺めていた。

 歴戦の猛者と呼ぶべき団長相手はシドも苦戦を強いられていて、ディオはシドを応援するべく声を出す。


 何度か打ち合いが続いて、シドの持つ木剣が弾かれて宙を舞い、その場で息を吐いて座り込んだ。


「さすが団長」

「シドが負けた……」

「ありがとうございます。若いもんにまだ負けるわけに行きませんよ」


 ディオが団長を褒めれば団長は朗らかに笑って、シドに視線を向ける。


「しかし、シドも強くなった。ディオ様を安心して任せられるというものだ」

「……ありがとう、ございます」


 掛け値無しの団長の言葉を受けて、シドがわずかに躊躇い礼を言った。

 団長の本気を引き出せずまだあしらわれているだけに、全て素直に受け取ることは出来ないのだ。


「シドもトリスも1日も欠かさずに特訓してるからね。頑張ってるよ」

「そうでしたか。それは嬉しいことを聞きました」


 今の手合わせで団長も感じていたが、ディオの言葉を聞くとなおのこと団長は嬉しくなる。

 シドやトリスの性格上サボることはないと分かっていても、2人の口から聞くことのないものだ。手合わせでそれがわかっていても、やはり聞くと安心をするし嬉しいらしい。


 シドは土を払いながら立ち上がると、勝てなかったことへの不満より反省に頭をめぐらせる。まだまだ強くならねばならないのだ、躓いている暇はない。


 その様子を見ていたディオは立ち上がると飛ばされた木剣を拾い上げると、その切っ先を団長に向けて二ッと笑った。


「シドの仇をとらないとね」

「お、やりますか、ディオ様」


 団長はディオの行動に朗らかに笑う。


「うん。シドたちは相手してくれないから鈍っちゃうしさ」

「そうでしたか。ですが、せっかくの技術鈍らしては勿体ない」


 そう言って団長は静かに剣を構えなおした。


 隙のない構えは団長という地位まで登りつめただけあり、一瞬で空気がひきしまるのをアルドでさえ感じと取れた。


「シド、ディオって戦えるの?」

「普通に戦えるぞ」


 なんでも王家には15歳になると1年間だけ、その年の騎士見習いの訓練生たちと一緒に訓練を受ける伝統があるらしい。なので多少の心得はあるようだ。

 ディオの場合、ディオの事情から同じように出来なかったが、団長や副団長から指導は受けているという。

 むしろ、ほぼマンツーマンだったためにみっちりとした訓練だったとシド。


 小気味いい打ち合う音が響き、シドの言葉が真実であると分かる。前に言っていたいざとなったらオレも戦えるは嘘ではないらしい。

 アルドの目にはシドよりも団長と互角にやりあえているように見えた。


「あっ!」

「……ディオ!!」


 ディオが大きく振った木剣の真ん中辺りがポキリと折れ、ディオは大きな声を上げる。

 シドが瞬時に動いたが間に合わない。団長の剣がディオの頭目掛けて振り下ろされ、ディオは木剣を持ったままの腕でそれを受け止めた。


「ギリギリセーフ」

「そうですね。間に合ったようで何よりです」


 アルドの目には思い切り当たったように見えたが、そうでもなかったようだ。シドは安堵と言うより、呆れたように息を吐いていた。


「う〜、まさか折れるとは。久々だから加減間違えちゃったかな」

「そういうこともありましょう。しかし、ディオ様もお強くなられて」


 ディオは小さく唸りしょげて、団長は小さく笑いながらディオの善戦ぶりを褒める。


「ありがと、団長。思ったより動けてて良かった」

「私もディオ様と久々の手合わせ楽しくやらせて頂きました」


 ニコニコとするディオは折れた木剣をシドに渡すと、ベランダに腰掛けてフランが用意していた冷えたお茶を飲む。ディオは労いの意味も込めて団長にも勧めていた。


「ディオってあんなに戦えたんだ」

「どうかな、オレの強さはちょっとズルだから」

「ズル?」


 ディオは僅かに戸惑う様子でこくりと頷いた。

 素直にアルドの驚きを受け取るかと思えばそうじゃなかった。


「うん。オレは環境に左右される部分があるから、団長と対等になる時もあればシドやトリスより弱くなることもある。だけど、少なくともフランよりは強いよ」

「それはわかる」


 フランよりというのは分かるのだが、日によって強さが変わるというのはどうにもアルドには理解が出来なかった。体調なら分かるのだが、ディオは環境と言った。


「だからって言ってもオレが戦いに出ることは基本ないんだけどね」

「王子だから」

「それもあるけどオレもちょっと複雑な立場でさ」


 それ以上のことは喋るつもりがないらしいディオは、立ち上がるとお茶のおかわりをもらうために家の中に入りフランを探しに向かった。

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