90 シルクのご機嫌
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無事に城に戻ったディオたちは、両親などへの報告もあってしばらく城にいることにした。
手紙でこまめに報告はしていたのだが、やはり実際に話を聞く方が疑問の解決は早い。それに妖精に関してはディオに聞く方が早いからだ。
何しろディオは家族の中で1番妖精がはっきりと見えていて、会話もできる。
もちろん、初めに大きく約束を破った手前というのもあって家族や使用人たちに元気な姿を見せると言う理由もあるのだが、シルクが怒っているようでその機嫌を直すためとディオと言う。
「放置するわけに行かないの?」
「うん。オレにとっては死活問題になるからさ」
妖精、シルクだけを名指ししているディオとシルクを探して城内を歩きながらアルドが言って、ディオは大きく頷いた。
「いやまぁ、シルクじゃなくても妖精が怒ってるなら解決しなきゃなんだけどね。ほら、アルドも絵本で読んだでしょ」
「フランの家で読んだやつ」
「そう、それ」
前にフランの実家に行った際に散々読んだ妖精関連の物語をアルドは思い出す。
大抵は英雄譚ばかりだったのが、童話や昔話などでは妖精が人に優しくすることもあれば、機嫌を損ねた妖精は人に仇なすこともあった。
気まぐれで妖精もやっているわけではないので、教訓という意味合いが大きいのだろうとは思うが、ディオから言わせれば精霊の意思で動いていた妖精の事実らしく、物語ではなく実際にあったことだと言う。
「シルクは特別だから、他の人に任せるわけにもいかないんだ」
「相棒だから?」
そんな感じだとディオは肯定すると、シルクがいるであろう庭に出る。
長く続く花のトンネルをくぐった奥深く低木に囲まれた小さな丸い広場があり、ディオは立ち止まるとシルクの名を呼んだ。
「シルク。えっと、ごめ……じゃないや」
口から出た言葉をすぐに引っ込めたディオは目線を空中で彷徨わせる。
王子だから軽々しく謝ってはいけないとか、そういうものじゃなくてもっと単純な、昔から知っている2人の問題だ。シドもそうなのだが、謝れば反対に叱られる。
アルドは躊躇いがちに喋るディオに口を挟まずに、すぐ近くで風もないのに大きく揺れる葉を見つめていた。
妖精の姿は見えないけれどそこにシルクがいるような気がして。
「……うん、それはそうなんだけど。無碍には出来ないから、本気だっていうのは伝わったし」
ディオはシルクの話を聞いたあとわずかに顔をしかめて、左右をキョロキョロとして小さく笑った。どうやらシルク以外にも妖精がいるようで、心配しなくていいよと声をかけていた。
「ケンカはしないから。だってシルクはオレのことをしんぱ――いたっ、シルク!!」
「なに!?」
急にディオが大きな声を出すのでそばにいたアルドが驚いてディオの方を見ると、ディオが額を抑えて痛みに耐えていた。
「――っ。魔法は卑怯だよ、シルク」
「ディオ、大丈夫?」
「うん。シルクもあんまりやりすぎると自分に返ってくるってわかってるからね」
それからディオはこめかみの辺りをかいて、困った表情をしてシルクに尋ねた。
「お詫びは何すればいい?」
何かする必要はいらないと分かっているが、これがディオとシルクの関係性だ。2人にしか分からないもの多いので誰も口を挟むことはしない。
「……それでいいの?わかった、伝えておくね」
ちょっとだけ驚いたような顔をしたディオは笑う。
微かな鈴の音が聞こえてディオはアルドを連れて来た道を引き返す。
部屋に戻る道中、聞いてもいいものかと思いながらディオにアルドは尋ねてみることにする。
ディオの関係者ではありながら、妖精については部外者だから答えてくれるとも思えないけれど気になって。
「ねぇ、ディオ。何を頼まれたの?」
「ん?ああ、精霊の泉に行く許可と、美味しいお茶が飲みたいって、その2つ」
「精霊の泉?」
聞きなれない単語にアルドは首を傾げる。
妖精ではなく精霊と言われると全く分からない。
「部屋に戻ってから話そっか。1度、オレも休まないといけないし」
あくびを1つしたディオはまだ少し大丈夫だと、部屋に戻ってからすぐに精霊の泉についての説明を始めた。
シルクのお茶はフランが淹れました。




