83 アルドとダニー
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ディオが寝てしまうと、間を繋ぐ人間がいなくなってしまう。
いや、いるにはいるのだが忙しいために2人に構っている余裕がないと言うのが実際のところだ。
そのため気まずい雰囲気が流れるが、だからといって手を貸す人間もここにはいない。
どこかで慣れてもらわなければならないのなら、2人になる機会も多いここで仲良くなってもらうのがいいだろう。ディオの判断でもある。
アルドの方は今までの暮らしぶりからか、耐えるのは得意らしく、多少の気まずさはあれど問題なさそうにしている。
先に耐えられなくなったのはダニエルの方で、何を話せばいいのか分からないまま口を開いた。
「あの……」
「なに?」
声をかけられてアルドは短く返事を返す。
素っ気ないのはアルドの通常仕様だが、いまこの場では拒否されているようにも感じてしまう。
「今日はいい天気ですよね」
「曇りが好きならね」
声をかけた手前、何かを話さなければとダニエルが絞り出した言葉はアルドの淡々とした一言ですぐに終わる。
アルドは困ったように息を吐くとダニエルに向かって言う。
「無理しなくていいから。そっちの方が面倒」
「そ、そうですか」
ディオたちが聞いていたら怒られそうな台詞を言い放ったアルドは、そう言ってソファから降りると勉強道具を机上に広げる。
ちなみにアルドの言葉使いについてはダニエルがそのままでいいと言ったため、敬語は使わない。
あまり畏まられるのが好きではないのと、アルドに気を使った結果である。シドは渋い顔をしていたが了承した。
ディオの寝息だけが聞こえる静かな時が続いて、ダニエルは手にしたままの本を机上におくと息を吸い込んだ。
「あの、アルドさん」
躊躇い、戸惑うようにしながらもダニエルはアルドに声をかけた。
「なに?」
先ほど変わらないような素っ気ない返事にダニエルは拳をギュっ握ると、アルドを呼んだ時よりも少しだけ大きな声をだす。
「ぼくは……アルドさんとも仲良くなりたいと思っています」
ディオが連れてきた少年。
ただそれだけでダニエルには信頼出来てしまうが、だからと言って相手のことをなにも知らずにいるのことをダニエルは良くないと感じている。
それに、なんとなくアルドとは仲良くなれそうな気もするのだ。
「そう」
ダニエルの決死の思いでの告白もなんとも思っていないのかアルドの返事は短く冷たい。
まだアルドはダニエルに対して、ディオたちほど心は開いておらず、他の人より気を使わなくてはならない相手と言った認識でしかない。
まぁ、貴族にしてはマシな人間なのだとは思っているけれど。
アルドはダニエルの方を見ることもなく出された宿題に手をつける。
それを見たダニエルは何も言うことが出来ず、閉じた本を開いて再び読み始めた。
切りのいいところまで読み込んで、ダニエルは一度大きく伸びをする。
すると、難しい顔して手を止めるアルドの姿が目に入る。
「………………」
確かアルドが勉強しているのは、ダニエルがもっと幼い時にやっていたものではなかったか。グレイ伯爵家に来る道中の勉強内容は知っている。
「良かったら教えましょうか?」
席を立って、アルドが開いている問題集をダニエルは覗き込む。
「これならぼくもわかりますから」
「……それなら、ここ」
逡巡のあと、アルドは問題集の一つの問題を指差す。
ダニエルはちょっとだけ口元に抑えきれない笑みを浮かべて解説に取りかかる。
「それはですね。さっきの応用をすれば……」
「えぇと、だから」
目を覚ましたディオは近くから聞こえてくる話し声に、すぐに起きたことを知らせることは出来ず静かに上体を起こすとダニエルとアルドの様子を見て柔らかな笑みを浮かべる。
「仲良しになったんだ」
「ディオ。これは――」
「ディオ兄さん、起きたのですか」
突然のディオに驚く二人に、ディオはマイペースにおはよ〜と声をかけて手を振った。
否定の言葉を出しかけたアルドはディオを前に続きを言うことが出来ないまま、寝起きのディオのために水を用意する。
「はい、ディオ」
「ありがと、アルド」
ベッドから降りたディオはソファに移動すると、すぐに状況を理解をして2人に見えないように小さく笑った。まだまだ完全な仲良しではないのであまりつつくべきじゃない。
「ちょっとオレ、シドのとこに行ってくるから」
それだけ言ってディオは部屋をさっさと出て行った。
アルドの宿題が終わるくらいまでは2人でも大丈夫だろうと。




