72 フランの実家
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妖精石を調べる専門家はフランの実家だった。
フランの実家は城からも近いのですぐに行くのかと思えば、フランが家族に手紙を書いてその返事が来てからと言うことになった。
それにはどこか怯えたようにディオもすぐに賛同をして、シドもその方がいいかと了承をした。
返事は翌日に返ってきて、手紙を読むフランは読み終えた手紙を机の上に投げ置くとシドに向かって言った。
「準備はしておいたけど、止める自信はないって」
「覚悟を決めて行くしかない、か」
馬車を走らせてたどり着いた先は立派な屋敷で、アルドがディオたちとともに行動するようになってからよく見るようになった貴族の家という感じだった。
「フランも貴族だったんだ」
「嫌いになった?」
「そんなことはないけど……」
歯切れ悪くアルドが言う。
庶民的すぎるフランが貴族というのは些か信じられない。アルドとともにシドからマナーを教えられるといった点でも貴族とは思えなかった。
これならまだディオが王子だったという事実の方がすんなりと受け入れられた。
「良かった。この家は別の意味で嫌になるかも知れないけどね」
アルドの言葉に安心したように微笑んだフランから不穏な言葉が出たが聞き返す時間は与えられず、家の中に入ると顔立ちの整った使用人が待ち構えていた。
「フラン様、お帰りなさいませ」
「うん、ただいま。デイジー姉さんだけを僕の部屋に呼んできて」
「かしこまりました」
細かなことはすでに伝達がいっているのか使用人はすぐにお呼びいたしますとフランに答えると、この場を去る前に人払いが済んでいるというルートをフランに伝えた。
その様子は主従というより同僚同士といった風にも見えなくもない。
フランの案内でたどり着いたフランの部屋は、落ち着いた乙女の部屋のイメージがあった。
すぐに部屋がノックされて、気怠げな美人が部屋にやってきた。顔はどことなくフランに似ている。
「クラウディオ様、シド様、アルド様、ようこそお越しくださいました。ご迷惑をおかけすると思い出迎えを差し控えさせて頂きました」
丁寧な対応をする気怠げな美人はフランの姉デイジーだという。容姿は似ているのにその動作は姉弟と疑いたくなるほどに美しい。
「ううん、助かる。あれは怖いから」
「ありがとうございます。そう言って頂けると助かりますわ」
フランの家は代々妖精について調べている家で、妖精と関わりが深く、妖精が見えたり声が聞こえたりする王家を、王家ではなく研究対象としてしか見ていない節がある。
特にディオは妖精との繋がりが強いために特別視されている。
彼らは貴族よりも研究者と呼ぶ方が相応しく、マナーなどはどこかに落としていて、好奇心が赴くままに行動をする。
それがなによりも恐ろしい。
「デイジー姉さん、母さんはいるの?」
「フィールドワークに行ってるわね」
「そっか。どうしたものかなぁ」
研究熱に浮かされ暴走する家族を止められるとしたらフラン、デイジーの母が確実なのだが生憎と留守にしているようだ。
「それで詳しくは直接話すと書いてあったけど、なにかしら?」
「うん。それは――」
切り替えるようにフランがディオたちを連れて家に帰ってきた理由をデイジーは尋ね、言いかけたフランは一瞬言葉を止めて部屋の外の気配を探った。
そして、人がいないだろうことを確認してから口を開いた。
「簡潔に言うと、妖精がとある女の子に手を貸して、その妖精石が本物がどうか調べろってこと」
「それはとても興味を引きそうな話ね」
デイジーはフランの話を聞いてため息をつくように言った。
そしてフランと顔を見合わせると、二人揃ってそっくりな困った顔をする。
「ほら、これ」
小箱を取り出したフランが中の包みを広げて妖精石をデイジーに見せて、デイジーは小さく息を吐く。
「クラウディオ様もいらっしゃると知られたら大変なことね。勘付かれる前に渡した方がいいかしら」
「だよねぇ。こと妖精についてだけはすぐに嗅ぎつけるから」
二人の父であるパーチメント伯爵ことアレックスは、妖精に関することにだけは妙に鼻が効き、強運を持つ。
そのため、一部の人間にだけが知っているディオたちの来訪も今すぐに知られてもおかしくない。
ディオと鉢合わせて面倒なことになる前にと判断したフランの行動は早かった。
「僕一人で行ってくる。ディオ様たちは待ってて」
「気をつけるのよ」
ディオたちを部屋に待たせて一人で父のいる場所へと向かう決意をしたフランが部屋を出ようとした瞬間――扉が勢いよく開きフランは顔面強打、フランの手から妖精石が転がり落ちる。
「ん、なんだ?」
フランは顔の痛みを忘れて、デイジーとともに頭を抱え、シドは警戒をする。
なんていうタイミングだ。フランの部屋にやって来たのはアレックス・ハント・パーチメントだった。
フランがディオたちを連れて家に帰ってきているのを知るのはデイジーと一部の使用人だけだというのに、おかしなほど絶妙なタイミングだ。
アレックスはフランの心配をしかけたが、フランの手から落ちたものが気になるらしくそっちに手を伸ばした。
拾い上げた石を手にしたアレックスはフランたちの隙間から見えるディオを視界に入れてニィと口の端を吊り上げた。
「ディオ様がいるってことはただの石ってわけじゃねぇよな」
それが妖精石だとアレックスが見抜けないわけがないのでフランは淡々と言う。どのみち調べて鑑定してもらう必要なのだ。
「陛下からの依頼だよ、父さん。それが妖精石なのか調べて欲しいって。一つだけ残してくれればあとは自由にしてもいいって言われたよ」
2番目に研究したいものを手にしたアレックスは、欲しいものを手に入れた子供のようになる。
「そーか、妖精石か」
「お願いね、お父様。クラウディオ様のお相手なら私とフランがいるから必要ないわ」
ディオをジッと見つめて動かないアレックスにデイジーは遠回しに部屋から出て行くように伝え、そこに髪を一つに束ねた女性がやってくる。
「フラン、帰ってきてたのかい」
「ケイト姉さん……」
「ケイト姉様」
長女のケイトリンと久しぶりの再会だというのにフランとデイジーの顔は浮かない。
状況の悪化は免れず、アレックスの持つ石に興味示したケイトリンも、アレックス同様にディオに視線を送り、シドの護衛も役に立たないほどにディオに近づいた。
ディオは身の危険を感じシドの後ろに隠れて誤魔化しきれない震えを、アルドも得体の知れない恐ろしさにシドの服をぎゅっと掴んだ。
「流石に安全がどうか分からないのにディオ様で実験させるわけにいかないよ」
「安全性の確保すればいいと、ならばすぐに証明をしなければ」
フランは問題を先延ばしにさせて、アレックスたちが研究室に向かったのを確認すると大きなため息をついた。
「独り占めは困る。フラン、新しく仕立てた服があるから確認しておきなさいよ」
「――わかった」
フランの返事をする頃にはすでにケイトリンはアレックスを追って研究室に向かっていた。
騒がしくなっていく廊下は貴族の屋敷といった厳かな様子は欠片も見られなかった。
フランの家で1番しっかりしているのはデイジーです。
ちなみにフランもこの家に限りしっかり者の分類されます。




