55 国王夫妻
グレイ伯爵家からカトリーヌを連れ出すために、ディオの相棒らしい妖精シルクに旅の同行を頼むべくディオたちは城に戻ってきた。
ジークベルトに見つかると面倒なことになるため、ディオたちはジークベルトに見つからないよう速やかにディオの自室に移動をすると、ディオは両親である国王夫婦とアルフレッドだけを部屋に呼び出した。
幸いにも両親とアルフレッドは手が空いていたと彼らの従者たちを連れてすぐに来てくれた。
ディオの父で現国王のブルーノは髭面の威厳溢れる男で、アルフレッドやジークベルトにはよく似ているがディオとはあまり似ていない。
ディオの母で王妃エルザは銀髪の髪をしたたおやかな人で初対面に相手に警戒心を抱かせない雰囲気を持っていて、その辺りはディオとよく似ていた。
どうやらディオはアルフレッドたちと比べて母親に似ているらしい。
「すぐ来てくれてありがと、父様母様、アル兄も」
すぐに来てくれたことにディオはお礼をいうが、本当は忙しかったのではないかとディオの顔には出ていた。
ジークベルトのように仕事を放り出すようなことはしないとは分かっているのだが、しばらく帰ってきていなかった分両親の心配はかなりのものだったはずで、だからこそ仕事を抜け出してきた可能性も考えてしまう。
「今回はスケジュールを調整しておいたから問題はないわ、ディオ」
「我が子を優先出来ない仕事も確かにあるが、幸いにも今はそういったことは起きていない」
両親の嘘のない表情と言葉に、ディオは胸をなでおろすとそれならいいと笑った。
「多分アル兄が全部説明してると思うけど――」
そう言ってディオはアルドのそばにいくと、アルドの肩を軽く叩いた。
「この子が新しく入ったアルド」
ブルーノとエルザの視線がアルドに注がれ、その好奇に満ちた視線にアルドは身を固くするが、国王夫妻はそんなことお構いなしだ。
「まぁ、この子が」
「なかなかに頼もしそうな子じゃないか。アルド、ディオをよろしく頼む」
アルドの右手を取ったブルーノは握手をアルドと交わし、そして何かあれば遠慮せずディオたちに頼り甘えなさいと言う。
主人だから頼ってはいけないということはないのだからと穏やかに笑って。
このどこか有無を言わせない感じと、否定を出来ず納得させられる感じはディオによく似ている。
容姿こそ似ていないがやはり親子なのだろう。
「父様母様。オレ、ディオの会を開きたくて帰ってきたんだ。カトリーヌの確認とダニエルとの顔合わせも兼ねて」
アルドの紹介を済ませたディオはすぐに本題だとディオの会を開く旨を伝える。
両親はアルフレッドから話を聞いていたようでスムーズに話は進んでいく。
そしてディオはパーティーの後すぐに家を出てしまい伝え忘れていたと、グレイ伯爵が妻であるリサを友人の領地へ静養に出していることを伝える。
すると、エルザは後ろに控えるトレーシーに向かって指示を出した。
「グレイ伯爵の交友関係を全て洗い出して、何としてもリサの場所を見つけなさい」
その声音はひどく冷たく、冷静に見えて静かな怒りを内に秘めていることが感じ取れた。
エルザはリサと個人的に仲が良く妹のように可愛がっていたこともあり、その怒りは推して知るべしだろう。
まして、ずっと体調が悪いから面会謝絶と嘘をつき続けて、愛人を家を上がらせた挙句、リサの娘であるカトリーヌを使用人として扱うなど、到底許せるものではない。
「可愛いリサをよくも、どう落とし前つけてもらおうかしら」
「エルザ、落ち着きなさい」
今からでもグレイ伯爵の家に殴り込みに行きそうな王妃エルザに陛下は声をかけるが、大した効果はなく言い方を変える。
エルザの対処については慣れている。
「泳がせてから、最適なタイミングで捕まえた方がダメージは大きい。しばらく待ちなさい」
「そうね。簡単に終わらせてしまっては行き場のない思いがどうしようもないものね」
エルザは息を吐いて心を落ち着かせる。
「ごめんなさい。今は個人的な感情を持ち込むべきではなかったわね」
「ううん、今は王妃じゃないから」
ディオはエルザのフォローをする。
ディオの部屋にいるときは王妃ではなく母だとエルザはディオに教えていて、それはエルザがディオにした約束の一つでもある。
「そうだったわね。それでディオの会よね」
「イアン、近々の予定はどうなってる?」
「はい。そうですね」
ブルーノがイアンに予定を訊ねブルーノはすぐに答えると、ブルーノ以外の予定も含め一ヶ月近くの大まか予定をシドに伝える。
シドは一緒に聞いていたトリスと相談をして、ディオの会の開催日について準備期間を考えて目安を出して伝えると、イアンたちはそれを目安に予定を頭の中で組み立てていく。
「全員の予定は揃いそうですね。変更があれば教えてください」
「はい」
ダニエルの家に伝えるは明日ということになり、午後からは自由時間となった。
トリスは城の近くに来ているという家族に、フランは実家がこの近くなので手に入りにくい薬草を取りに、シドは腕が鈍らないようにと城にある騎士たちの演習場に向かった。
ディオはシルクを探す前に一度寝ると言い、やることのないアルドは以前ディオから渡された貴族のマナーについてはまとめられたものを読みながらディオが起きるのを待つことにする。
待っている間、一度外が騒がしくなったが怒声が響きすぐに静かになった。




