56 シルク
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寝起きのディオは首をプルプルと振って眠気を飛ばすと、シルクを探しに行かなきゃとアルドを連れて部屋を出た。
「なんか、すごい時間かかりそうなんだけど。簡単に見つかるものなの?」
アルドは妖精が視えないのでただディオについていくだけなのだが、城のような大きな建物からどこにいるのかわからない相手を探すということは無謀にも思えてしまうが、ディオはすぐに見つけられると豪語する。
「なんとなく、どこにいるってわかるからね。それに、まあ……」
「なに?」
言いにくそうに言葉を切ったディオを見る。
中途半端に話を止めれてしまうとスッキリしない。
「シルクとは切っても切れない縁だからね」
ディオは困ったような顔をして、迷いなく歩を進めると一つの扉の前で足を止める。
扉にはなにも書かれていなかったが、ディオが王族専用のティールームだとアルドに教えた。
「あんまり使ってること見たことないんだけどね、この部屋」
中に入るとシンプルで上品そうな家具が置かれていて、流れる空気はゆったりと感じる。アルドには少々居心地の悪い空間である。
「シルク」
ティールームに入ったディオはどこを見渡すわけでもなく、誰もいない空間にそう呼びかけた。
すると、花瓶に活けられていた花のない長さ15センチほどの茎が宙に浮かびフラフラを揺れながらディオに近づき、茎はディオを叩き始める。
目の前で起こる怪奇現象にディオは怖がることも驚くこともなく、わずかに迷惑そうな顔をしてそれを容赦なく掴み、茎を取り上げた。
「あー、そうするとアルドには分からないよね」
ディオはアルドに頼んで、チェストから小さな紙とペンを出してもらうと片手でなにやら描き始めた。
描き終えると、小さなお菓子を束ねていた紐をほどいて紙に通すと、それを宙で結んだ。
描かれているのは羽の生えたなにかで、おそらく妖精なのだろう。
しかし、片方の羽は欠けているように見える。もしかしたら、フラフラ飛んでいるように見えたのはそのせいなのかも知れない。
ディオの描いた絵が浮いている場所に妖精がいると思っていいのだろう。
アルドは妖精をまともに信じているわけでもないのだが、精霊や妖精が世界の秩序を保っているという話は知っている。
ディオたちと出会う前でも信心深い人もいて、そう言った話は聞いたことがあるためディオの行動に不安がよぎる。
妖精を怒らせるなと、彼らはよく言っていたから。
「そんなことして怒られないの?」
アルドが疑問を口に出すとディオは寄ってくる妖精を手で制しながら答えてくれる。
「怒ってるよ、シルクはオレのこと恨んでるからね。不可抗力って言ってるんだけど聞き入れてくれないんだよ」
「でも、フランは相棒だって言ってたけど」
恨まれてるのに相棒とは、不思議な関係ではある。
「うーん、あながち間違いじゃないけどって――痛いよ、シルク」
シルクに何かをされたらしいディオが痛みに顔をしかめ妖精を掴む。
迷惑そうな顔をしているディオだが、そこまで嫌がっている風ではなく呆れた感じだ。
「シルク、ちょっと話があるんだけど聞いてくれる?」
ディオはシルクにグレイ伯爵家のことを伝えようと口を開いたが、ドタドタと廊下で走る音が聞こえて口を閉じた。
「ベル兄だ」
姿が見えないとは言えど、このフロアでここまでの騒音を響かせて走るのはジークベルトしかいない。
あの勢いのままでくるだろうと容易に想像がつくのでディオはアルドが巻き込まれて怪我をしないようにアルドから距離をとった。
バンっとマナーの先生が見ていたら雷が落ちそうなほど乱暴に扉を開けると同時にジークベルトはディオの名を呼んだ。
「ディオ〜!」
「――急に止まったら」
女性の焦ったような声も一緒に聞こえてきて、アルドは驚き肩を跳ねさせた。
声の主は探すまでもなくディオとアルドの目の前にいて、ジークベルトを下敷きにうつ伏せに倒れている。
扉開ける際、急に止まったジークベルトに体当たりする形になったからだ。
自分が下敷きになったことも、女性の心配もせずにディオの元に向かおうとするジークベルトにため息をついて、女性はジークベルトの上に腰を下ろした。
そして、なにごともなかったかのようにディオを見て笑いかける。
「座ったままでごめんなさいね、ディオ」
「ううん。助かったよ、ロザ姉」
ディオも兄がないがしろにされているというのに気にする様子もなく、平然としていてジークベルトも女性に座られたまま動く気配がないが、視線はずっとディオに固定されている。
ツッコミ不在のこの場で、アルドは自分の感覚がおかしいのかと思い始めるが、女性はドレスを着ているので問題はないのかもしれない。
「止めるつもりが引きずられるなんて」
全く自分が情けないわと女性はため息をついていたが、ディオは構わず女性にアルドを紹介する。
「ロザ姉、新しくオレの専属になったアルド。ベル兄とかバートから聞いてると思うけど」
スミレ色の髪に金の瞳の活発そうな女性で、淑女といった感じではない。
すぐにアルドの方に向いたディオは、アルドに女性を紹介する。
「アルド、この人はベル兄の奥さんでロザリアさん」
「え、あ、うん」
予測はついていたとはいえ、ディオに対してのいつも通りで接するわけにもいかずアルドの対応が遅れる。
しかし、ロザリアはそんなこと気にせずアルドにニコリと笑いかけた。
「小さいのに専属なんてすごいわね。アルド、ジーク様が止められないときは遠慮なく呼んでちょうだい。すぐに回収しに行くわ」
「え、っと、はい」
少々マシンガントーク気味なロザリアに慣れないアルドは戸惑いを隠せず、助けを求めるようにディオを見たがディオはシルクの対応に忙しいそうにしていた。
「そろそろ立たせてくれ、ロザリア」
「そうね、落ち着いたようだし」
やっと口を開いジークベルトがロザリアに解放を願い、ロザリアももう大丈夫だろうと立ち上がった。
ロザリアが立ち上がったことで、立ち上がったジークベルトはディオが掴んだままのシルクに視線を移す。
「あぁ、そうか。シルクを連れて行くってアル兄さんが言ってたな」
ジークベルトは鼻息を荒くしてディオの手の先、妖精の頭のあたりに人差し指を突きつける。
「シルク、ディオに迷惑はかけるなよ。そんで、お前の羽が欠けたのはお前の自業自得だ」
ジークベルトはディオを溺愛する兄としてシルクにハッキリと告げるが、シルクはツンと澄ましていて意に返していない。
ジークベルトもシルクとは仲が悪いようだ。
「ベル兄、それ首のあたりだよ」
「あー、もっとハッキリ見えてればな」
ディオの言葉にジークベルトは悔しそうに言葉を漏らす。
王族といっても必ず妖精が視えるというだけで、その度合いは同じではなく姿も声もハッキリと分かるディオと違って、ジークベルトには妖精がボンヤリとしか視えていない。
「ま、見えてるだけ良しとしないとな」
ディオと同じ程度妖精が分かればと思わなかったわけでもないが、視えないわけではないのでジークベルトはそれで納得をしておく。
「ジーク様、そろそろ戻りますわよ。無理をいって抜け出してきたのだから」
そこに時計を確認したロザリアがジークベルトに声をかける。
おそらく、ディオに会わなきゃ仕事が捗らないとかなんとか言って来たのだろう。
「誰がやっても同じ仕事だろ。放っとけばいい」
「そういうわけにも参りません」
ロザリアはお騒がせ致しましたと言うとジークベルトをズルズルと引きずって帰っていく。
元幼馴染だからか、ロザリアの性格からなのか、ジークベルトに対してロザリアは容赦がない。もっとも、そう言った関係上ディオに対しても似たようなものだが。
ディオへそれを見送ってから、シルクに話を聞いてくれるかを問いかけてシルクを手から離した。
「髪飾りに入れられた妖精が手を貸した女の子を助けるために手を貸して欲しいんだ。相手はこの前の親子なんだけどお願いしてもいい?」
ついてくるだけでいいからとディオが言い、シルクはふわりとディオの肩に乗っかった。
「ありがと、シルク。細かいことは後で話すね」
ディオはシルクも連れて部屋に戻る。
道中、アルドしかディオのそばにいないことを知ったイアナは人手が必要ですよねと、シドたちの誰かが戻るまでの間のディオの世話に買って出た。
かといって、あまりやることもなくほぼ雑談しかしていないのだが、ディオの部屋にある人形はイアナが作ったものらしく近々アルド人形も追加されることになりそうだ。
1番早く戻って来たのはトリスで、トリスと交代をしたイアナは名残惜しそうにジークベルトの元へ帰っていった。
ジークベルトにはみんな容赦がないですね。




