50 推測とか
「それでグレイ伯爵家のことなんだけど」
パーティーの翌日、ディオの部屋にある円形のテーブルを囲んでディオたちは座っていた。
グレイ伯爵には無事会うことは出来たためひとまず作戦は成功。
しかし、やるべきことはまだしっかり残っている。解決はしてないのだ。
「とりあえず、あの家にはまた行くとして――」
「誰か話を聞けそうな奴がいるかどうかだな」
シドが言った。
おそらく本物のカトリーヌである子供使用人の味方として話を聞けそうな相手があの家にいるかどうかと渋い顔をする。
「いるんじゃない?」
フランは考えなしといった風に発言をする。
いつものことなのでいいのだが、ディオと違ってフランは本当に考えなしの場合があるため理由を尋ねる。
「根拠は?」
「だって、妖精がいたんでしょ。なら、住処も近くにあるはずだし、別に森の中ってわけでもないなら、それを管理する人間っていると思う」
手付かずの自然や深い森の中、妖精が住処にするのはそういった場所が多いが、妖精は人が丹精込めて作り上げたものを気に入って住処にすることもある。
それはどんなことにも代え難いほどに名誉な称号だ。
「住処が作れる人、ですか」
「あの親子に怒ってたのは力が弱かったし産まれたばかりは確かだけどさ」
ディオは唸るとテーブルに突っ伏し、シドが素早くティーカップを持ち上げで中身が溢れるのを回避する。
「ったく、お前は」
「ごめん。でも、ありがと、シド」
あまり反省してないように謝ったディオは突起き上がると腕を伸ばした。
「とりあえず、まだ見たことのない使用人は――」
「パッと思いつくのは料理人と庭師かな。服装ですぐ分かるから」
「確かに見てないな」
ディオの言葉にフランが答え、シドとトリスがそれに同意をする。アルドは話を黙って聞いて、グレイ伯爵家での使用人を思い出すが似たような服装の使用人しかいなかった。
「それでしたら、庭師は味方なのでしょうか。カトリーと名乗った彼女は花を種を欲しいと言っていましたし」
トリスが言う。
グレイ伯爵家へ2回目の訪問時に、彼女は前に売ったお金で買える花の種を買いたいと言っていた。
「自分で育てるってことは――」
「お前の家を基準にするな」
フランの意見はシドによって一蹴され、ディオはいつものやりとりにクスクスと笑い、フランはまだその可能性を残しつつ、もう一つの可能性を考える。
「その可能性は置くとして、自分で育てないなら庭師に渡すよね」
「だな。少なくとも、あの家の誰よりもあの子との関係性は良さそうだ」
同意したシドは、あの親子や他の使用人たちよりも仲はいいのだろうと推測をする。
「だと思うよ。多分、彼女が言ってた幼馴染もそこにいるだろうから、一度会ってみるべきかな」
自由に出歩けないであろう状況にいるカトリーが、妖精が出した石について話せる人がいるのは事実だ。
連絡を取り会える人物が外にいると考えられない以上、その幼馴染はあの家の中にいると思っていいだろう。
「ディオ様は目星がついてたの?」
「うん、まぁ」
「早く言ってよ〜」
うなだれるフランにディオは笑って、カップを手にとって口をつける。
今日のお茶はジークベルトの専属侍女のイアナが淹れてくれたものだ。
彼女はやや押し売り気味にやってきて、お茶を淹れるとさっさとジークベルトの下に戻っていった。それだけのために忙しい合間を縫ってやってきたらしいが、誰も何も突っ込むことはなかった。
「それで、どうやって庭師に会うか考えようってことなんだ」
あの場にいないのは、呼ばれないのか興味がないのか。
どちらにせよ、会うためにはいつも通りの商売をしても仕方がない。何か作戦を考える他ない。
「早いのは仕事道具を持ってきたから、見てもらいたいと言うものですが」
「ちょうどいい道具は仕入れてるし、方向性はその辺りでいいと思う。不安要素は、あの子の味方だとベアトリーチェが庭師を嫌ってるって可能性だよね」
以前仕入れたガーデニングバサミはあるので、売るかどうかは別として売る品を用意する必要はない。
「ああ。そうなると一筋縄ではいかなくなる」
「なんか、大変そう」
作戦を考えるディオたちをみて、アルドは呆れたように言った。
ただでさえ、面倒なことが多いような作戦なのに、さらにそんなことまで重なったらますます面倒だ。
やるのは自分ではないが、その苦労を想像するとなんとなく嫌気がさす。
「話を通しやすいように珍しいものは他にも用意しておかないとね」
「まずは城の庭師に聞いてみましょう」
蛇の道は蛇、同業者なら変わり種のものもよく知っているだろう。
「それなら、うちに手紙出して聞いてみようっと。珍しいやつなら結構あるはずだし」
「フラン、それは薬草としてだろ」
シドが突っ込む。
フランの家には愛でるための植物など存在しないのだ。
薬効効果のない花も咲いてはいるのだが、どのみち研究のために育てられている。
「珍しいのは珍しいし、プロなら育ててみたくなるんじゃないかな」
「個人の庭ならな。あくまでも仕事だからな要望や周りへの調和もある」
「でも、咲く花によっては好まれるかも知れないから一応聞いといてくれる?一般的な庭に良さそうなものがあるか」
ディオはフランがあらぬ方向で手紙を出さないように念を押すように内容を伝え、大体の方向性が決まるとあくびをする。
「大体、まとまったかな。それじゃあ、オレは少し寝る。ベル兄が来たら適当に相手しといて」
そう言ってディオはあくびをしながら自分のベッドに向かっていった。
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