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46 専属の使用人って

お読みくださりありがとうございます!

「ディオ、今日はアルドの挨拶回りに行ってくる」


 ダニエルに会いに行った翌日、まだ眠気が取れないと並べられた朝食を前に目をこするディオにシドが言う。


 シドとトリスはすでにしっかりと目を覚ましていて、ディオ(王子)専属の使用人として一部の隙もない姿をしていて商人のときよりもよほど様になっている。


「うん、行ってきて。あ、でも父様たちはどうしようか、今いないんだよね?」


 シドが伝えた予定に了承したディオは、出来れば早めにアルドを見せたい人たちがいないことを思い出し、シドに尋ねるが問題はない答えが返ってくる。


「確かに陛下は不在だが、お前が帰ってくるからとイアン様たちは城にいらっしゃる」

「そうなの?」

「ああ」


 シドも何も言っていなかったし、てっきりいないものだと思っていたディオは驚きを隠せない。


 伝え忘れていたというわけでもないのだが、シドも立て続けに起こる用事に伝え忘れていたのも事実で、彼らも一昨日も昨日もディオが疲れていると気を使ってこなかったのだろう。


「そっか。ベル兄のこと誰かに任せたらオレも行ってくる。ちゃんと元気な姿見せとかないとね。心配させちゃってるだろうし」


 初め誰一人賛成してくれなかった旅を続けて、それでいて一年以上家に帰らずにいたのだからきっと彼らの心配する度合いはかなりのものだろうとディオはきまりが悪そうにする。

 外に出ることを認めてくれているとはいえ、引き止めたいと思っているのは確かなのだ。


「分かった」


 頷いたシドはディオの食べ終えた食器を片しながら、特別室に続くクローゼットの扉に視線を送っていつ顔を見せにいくか思案をする。


「出てきませんね。アルドさんとフランさん」


 同じように特別室に視線を向けたトリスがポツリとこぼす。

 ディオを起こす、いや起きるまでに叩き起こしていたのだが、未だ特別室から出てこない。


「そういえば昨日、アルドの服を作らなきゃって張り切ってたよ。しばらくは必要ないって言ったんだけどね」

「のんきに言ってる場合か。けど、通りで出てこないわけだ」


 呆れたシドが特別室の扉を開けると、服を着せられてうんざりした表情のアルドと嬉々としてそれを手直ししているフランの姿があった。


「あ、シド。見て!どうかなアルド君の服、まだ完成してないんだけど」


 シドが入ってきたことでそれを見せるフランは自慢気だ。


 馬子にも衣装というわけではないが、フランがおそらくリメイクしたのであろう服に身を包むアルドは良家の子供のようにも見える。

 しかし、制服と呼ぶには少々抵抗がある。


「却下だ」


 フランの意見一蹴したシドはため息をついて、手付かずのまま朝食を早く食べるようにと促すが、フランはアルドが着ている服を見つめて自信作だったのにと呟いた。


 やっと解放されたと脱力するアルドは、ずっとお預けを食らっていた朝食をすぐに食べ始める。

 着替えるのは後でいい、それよりも飯である。


 そこにピョコッとディオが顔を覗かせる。


「ちょっと行ってくる……けど」

「けど?」


 ジークベルトがいるとうるさすぎるので、足止めしてもらうべく部屋を出ると声をかけに来たディオは、アルドをじっと見て言葉を止めると視線をフランに向ける。


「フラン、作るのもいいけど仕立て屋に依頼するデザイン考えといて。シリルと一緒に」

「食べたらすぐ行く」


 過剰なやる気を見せたフランは朝食のパンを急ぎ食べ始め、ディオはフランらしい行動に全くと笑うと部屋を出ることを伝えて部屋を出て行った。


「詰まらせないようにね、フラン。それじゃ、行ってくる。シルクも探してくるから遅くなるかも」

「ああ」

「いってらっしゃい」


 城の中での移動なのでシドたちがついて行く必要もなく、ディオが一人で行くのをシドたちは見送る。


「アルド、今日はちょっと忙しいぞ」

「う、うん」


 よく分からないが、やらなければいけないことなのだろう。アルドは躊躇いがち頷いた。


 朝食を食べ終えたアルドは、シドに言われいつも通りの服装に着替えシドとトリスに午後からの挨拶回りのためにと言葉使いに関して指導される。

 シドとトリスは、フランにも参加してもらいものだとぼやいていた。


 そのフランはと言えば先ほどアルドに着せていた未完の服とスケッチブックを持って早々に部屋を出ていったが、その顔はとても楽しそうだった。


 ディオの部屋に運ばれて来た昼食を食べ終えると、トリスに部屋の留守番を任せてシドはアルドを連れてまずはジークベルトの部屋を訪れた。


「ディオ様から話は伺ってますよ。イアナ!」

「はいはーい」


 対応に出たのはバートで、ディオから話は聞いているとすぐにジークベルトの部屋の奥にいる同僚にバートを声をかける。

 すると、明るい声がしてその声の通りに明るそうな女性が飛んでくる。


「この子が、ディオ様の?」

「はい」

「アルドです。よろしくお願いします」


 アルドに目線を合わせたイアナはニッコリと笑うとアルドの手を取ってブンブンと振る。


「ええ、よろしくね。私はジーク様の専属侍女のイアナよ。ともにディオ様のために頑張りましょうね」


 イアナとアルドがお互いに紹介を終えるとバートは手帳を広げて何かを呟くと口を開いた。


「もう一人いるのですが、今産休で実家に帰っているので復帰した時に紹介します」

「分かりました」


 他にも使用人はいたのだが、シドはバートとイアナだけにアルドをしっかりと紹介して、次にアルフレッドの専属使用人の部屋に向かった。


 そこでは従者のベネディクトと侍女ティファナの二人を紹介される。


 二人はアルフレッドからアルドのことを聞かされていたようで話はスムーズに進む。


「確かにアルフ様がおっしゃる通りやっていけそうですね」

「ええ。ですが、私たちの楽しみが減ってしまうのは残念です」


 シドは苦笑いをして、まだアルドは一人前というわけではないので頼むことがあるかも知れないと口にすると、やけに圧のかかった表情で遠慮はしないようにとベネディクトとティファナに言われていた。


 そのことに感謝をしてから部屋で出てしばらく歩く。

 このフロアは王族の居住スペースらしく、すれ違う使用人も少なく、けれどすれ違う使用人たちのシドやトリスと同等かそれ以上の佇まいをしていた。


 それもそのはずでここには限られた使用人しか基本的に出入りしない。

 なので、シドが言うにはこのフロアをお使いで歩けるだけでも使用人にとっても誉れであり、自慢出来ることらしい。


「まぁ、このフロア(ここ)で働く使用人自体、他の使用人の憧れだったりもするからな」


 王族仕えの使用人は同業者からすると劇場の看板役者並みの人気があるようだ。


「そんなに?」

「ああ。特にこれからお会いするイアン様は一介の使用人から陛下の従者にまでなられたすごい方で、イアン様に憧れて就職する人もいるほどだ」


 国内ではその名を広く知られていると言うのは、使用人としてはかなり稀有なことではあるのだが、それほどまでにイアンの出世が珍しいことの証明でもある。

 まあ、イアンの容姿がいいこともあるのだが。


 そう言ってシドは掠れて文字の読めない部屋の扉をノックして開けた。


「お待ちしておりました。シド様、アルド様」


 上品で流麗な動作でシドとアルドを出迎えた中年の穏やかそうな男は入ってすぐの椅子を二人に進めると、手慣れた手つきで二人の目の前に音を立てずにお茶を淹れたカップを置いた。


「あ、ありがとうございます。イアン様」

「ありがとう、ございます」


 目の前にカップを置かれた直後、シドは自分が流されていることに気がつきわずかにショックを受ける。自分がやるべきことだったのではないかと。


「シド、これはアルド君に早く顔を覚えてもらおうとやっただけですので気にしないで下さいね」

「そうですよ、シド君。これは言わば見せつけなんですから、シド君はまだまだ未熟だって」


 イアンの影からひょっこりと姿を現したのは中年くらいの女性で、ふわふわとした雰囲気がする。


「レベッカ、今一番未熟なのはあなたです」

「あらあら、イアン様ともあろうお方が何を――」

「誰も食えない喧嘩なんてやめてくださいよ」


 イアンとレベッカが火花を散らしそうになった直後、やる気のなさそうな声がして、部屋の奥から帯剣している男が現れた。恐らく騎士なのだろう。

 今アルドは気がついたがこの部屋、整理整頓されていて汚いわけではないのがものが溢れかえっている。

 倉庫なのだろうか。それにしては、先ほど見た休憩室にそっくりな作りである。


「また痴話喧嘩が始まる前に紹介だけしときましょうか。向こうから順にイアン、レベッカ、ボクがグレアムで、そこで微動だにしないのがトレーシー」


 グレアムが示す先には男装しているといった風の女性が立っていた。


 トレーシーが一歩進みだしたところで、イアンとレベッカがグレアムに向かって声を上げた。


「訂正を、グレアム」

「そうです。この男と夫婦なんて呼ばれるなんてこの世の終わりです」

「話が進まないではないか。グレアム、お前も余計なことを言うな」


 トレーシーが一喝して、恥ずかしいところを見せたとイアンとレベッカ。長い付き合いになるのだしと行動を反省していないグレアムは笑っていた。


「長い付き合いになるでしたら、初めから知っておいた方がいいじゃないですか。それに変なやつの方が記憶に残りますし」

「一理ありますが、品行方正で通っているので看過できませんね」

「そうですそうです。こんな美人が変なやつになるわけはないのですよ」


 イアンとレベッカに反論されるグレアムは二人を宥めながら、収集がつかなくなると説明をトレーシーに任せる。

 トレーシーは何かを言いたげにグレアムを見ていたがため息だけをついて何も言わなかった。


「イアンとグレアムは陛下のお付きで、私とレベッカは王妃のお付きだ。名前より顔だけ覚えておけ」

「は、はい」


 廊下ですれ違った使用人たちのような、またはアルフレッドの使用人のような()()()を想像したアルドは、見事に期待を裏切られ圧倒されていてなんとか返事だけを絞り出した。


 しばらく夫婦漫才(夫婦じゃない)を鑑賞しながら出されたお茶を飲みきるとシドに連れられて部屋を出る。

 再びディオの部屋に戻ると、アルドは長い息を吐いて床に倒れこんだ。


「なんかドッと疲れた」

「お帰りなさい。アルドさん、兄さん」


 トリスは労いの言葉をアルドにかけてソファをアルドに進めるが、アルドは動く気力もないと起き上がる気配すら見せず、シドは仕方ないいった風に笑う。


「いきなりあの四人が揃っているところに出くわせばそうなるか」

「お疲れさまです。アルドさん」


 事情を理解したトリスはアルドを抱えてソファに運んだ。


「アルド。他にも何人かいるが、今日挨拶した人間以外がここに来たら追い返していい」


 トリスに運ばれるがままソファに横になるアルドにシドは念を押すようにそう言った。

クセの強い人が多いですね。

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