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40 アルドへの問いかけ

 ディオが王子だと分かったところで、急な不安がアルドの中を巡った。


「ていうか、大丈夫なの?おれみたいな孤児を入れて」


 城の使用人でも下っ端の下っ端、それこそ文字の読み書きが出来なくてもつける末端の仕事ならアルドだって働けるかもしれないが、アルドがいようとしているのは世間の評判がどうあれ王子のそばだ。


 弱小貴族と呼ばれるような家が孤児院から子供を引き取り使用人にしたという話は聞いたことがあるが、出自も分からない、まともな教育も受けていないような人間(孤児)を王子の近くにいる使用人として受け入れるだろうか。


 シドたちがあまりにもいつも通りすぎて、やっと今アルドはそんな考えにぶつかった。


 アルドの不安をよそにフランとトリスはなんてことないとでも言ったふうにアルドの不安を払い飛ばすような軽い口調で言った。


「問題ないと思うよ。ここはそういうの気にされる場所じゃないから。じゃなきゃ僕が採用されるわけもないし?」

「必要なのは身分や能力より、ディオ様への対応力です。忍耐力もですが」

「辞めることも出来なくなる仕事だけどな」


 報告のために城を駆け回っていたシドが戻ってきてアルドの頭に手を置いて会話に参加する。


「陛下たちは不在だった。状況次第では挨拶は明日に回す」

「分かりました」

 

 シドはそれだけ報告すると、疑問を浮かべるアルドに視線を向けた。


「人手不足?働きたい人がいないの?」

「万年人手不足は事実だが、募ればそれなりに人は集まるぞ」


 人が集まるのなら何故万年人手不足なのだろうかと思ってしまうが、理由はそこまで複雑なものでもないらしい。


「審査員のお眼鏡に叶うやつがいないってのがまず1つ。こっちに関してはまぁディオが押し切ってしまえばどうとでもなる」


 最終審査員として一緒に働く時間が長いシドたちが控えているのだが一度も候補者が回ってきたことはないと言う。

 そもそもディオはその辺りのことに関しては人に任せているらしく、シドたちも詳しくは知らないようだ。


「ディオも色々と難しいからな、仕方ない」


 シドの言葉にフランもコクコクと頷いた。


「そうは言っても原因はディオ(あいつ)だけじゃないからな。アルドなら大丈夫だと思うが」


 眉間を抑えたシドは開けたままの扉からディオの様子を窺うと、ちょうどディオが目を覚ましたところだった。


「馬車の中じゃない」


 あくびをしながらディオは腕を上げて伸びをして、キョロキョロを辺りを見回して自分のいる場所を確認していた。


「シド、お湯もらってきてもいい?ディオ様も起きたしお茶くらい淹れたい」

「使用人用通路を通って行けよ」

「分かった。アルド君もおいで」


 シドから許可を得たフランはアルドをつけてさっさとお湯を取りに調理室に向かい、その背中にトリスはわずかに手を伸ばしていた。


「大丈夫でしょうか。アルドさんのリング」

「顔を覚えてもらう必要もあるから大丈夫だろう。それにフランだ」


 現時点では客人扱いのアルドをつれたフランに気づいたものの止められず心配だと零すトリスに、問題はないと放置することに決めたようだ。


 ――コンコン。


 ノックの音が部屋に響いて入り口近くにいたトリスが出ようとしたが、それを制したシドが客人を出迎える。


「アルフレッド様」

「ちょうど手が空いたのでな、お前たちの顔を見にきた」


 客人は威厳に溢れた、赤みの強い茶色い髪をした豪奢な服を身を包んだ男で、シドは恭しく頭を下げる。


「そうでしたか。ディオも今お目覚めになられたところです」

「そうか。タイミングが良かったな」


 シドはアルフレッドを中に招き入れてディオの前まで案内をし、トリスはベッドの近くにアルフレッドが座るための椅子を運んだ。


「アル(にい)、ただいま!」

「おかえり、ディオ。病気や怪我はしなかったか」


 アルフレッドを見て元気よく声を出したディオに、アルフレッドは落ち着いた様子で返事を返す。

 しかし、その表情はとても優しげでまるで幼い子供を見守るような温もりをもっている。


「うん、みんな無事」

「ならいいが。無事で安心した」


 アルフレッドは優しくディオの頭を撫でる。

 ちょっとだけ恥ずかしそうにしているがディオは大人しくそれを受け入れていた。


 (今回)の件でどれだけ、今まで以上の心配を周囲の人たちにかけているかもよく分かっているし、なによりいつまで一緒にいられるかも分からないことをディオもアルフレッドも理解している。

 この前の、建国祭のことだってそうだ。まだ受け入れきれているだけ。


「アル兄たちも変わりない?体調崩したりしてないならいいんだけど」

「変わりはないが、ジークからお前の名前が出ない日がなくてな。あれは病気の一種とは考えることにしているが」


 そう言ってアルフレッドは苦笑をする。


「悪化したってことだよね。嬉しいことだけどロザ姉に悪い気もする」

「ロザリアも似たようなものだ。ありがたく受け入れておけばいい」

「うん、そうする。ロザ姉たちくらいだもん認識阻害が効かないの」


 家族の話を聞いて、クスクスと笑い出したディオは思い出したようにアルドについての話を始める。


「あ、そうだ。アル兄、旅の途中で助けた子供がいるんだけど、その子を専属として雇いたいって思ってるんだ」

「許可を出せるかどうかは見てからだが、どれくらい一緒にいたんだ?」


 反対することも否定することもなく、アルフレッドは落ち着いた様子でディオに尋ねる。


「一年は立ってないけど、それくらいかな?」

「そうか。状況を思えばある程度考えも理解出来るか」


 そこへ調理室からフランとアルドが戻ってきて、アルフレッドは挨拶で軽く手を上げた。


「……アルフ様だ。えっと、こういう時は」


 アルフレッドを見てわかりやすく一瞬思考停止したフランは小声で呟きながら頭を下げ、そばに立つアルドも見よう見まねで頭を下げた。


「堅苦しいのは公的なものだけで充分だ。楽にしてくれ。無事に帰ってきてくれたのならそれでいい」

「ありがとうございます」


 フランは手に持ったままのお湯を置くために奥の部屋に行こうとしたが、アルフレッドがアルドを見ているため立ち止まったまま言葉を待った。


「シド、この少年か」

「はい。アルドと申します」


 アルドに視線は固定したまま男がシドに尋ね、シドが肯定する。


 顎に手を当てたアルフレッドは楽しそうに口元を釣り上げると予想もしないことを口にする。


「ふむ。ならば、私が誰か当てられたら採用としよう」


 ディオはニコニコとしていたが突拍子のない言葉にディオ以外は唖然としていた。


 耳を疑う発言と思いつつ、アルドは助けを求めるようにシドたちに視線を向け、シドが何かをするより先にアルフレッドは手を貸すなシドたちを手で制した。


 アルドは大きく息を吸って呼吸をするとシドやフランの行動を振り返る。

 ディオはやたら親しげにしているし、シドはなんかいつもより堅苦しい、フランがここまで真面目ぶっているのも珍しい。


 おそらくディオの家族なのは間違いないのだろう。

 容姿はあまり似ていないように思えるが、どことなく人を見透かすような瞳はディオとだぶって見える。

 さっきシドは陛下は不在と言っていたし、ディオより明らかに年上のようだ。それなら――。


「ディオの兄貴」

「ほう、その根拠は?」


 アルフレッドはアルドの導き出した答えに理由を求める。

 アルドはチラリとディオを見てからアルフレッドをまっすぐに見据えた。


「見透かすような瞳がそっくり。突拍子のなさもディオみたいだ」

「ハハハ、そうか」


 声を出して豪快に笑い始めたアルフレッドはディオに視線を向けると優しげに言った。


「だ、そうだぞ。ディオ」


 ディオは目を見張り驚き、すぐに破顔するとアルドに飛びついて頭をぐしゃぐしゃと撫でるが、アルドはそれに必死に抵抗をする。


「ちょっ、やめてよ。ディオ!」


 その様子を見守るアルフレッドは嬉しそうだ。

 全く似ていないわけではないのだが、容姿という点ではディオ1人毛色が違うため似ていないと言われることも多々あり、そのことをディオが気にしていたのをアルフレッドはよく知っている。


「今不在の陛下に代わり、アルド、君をディオ専属の使用人として採用しよう。見習い期間を終了とし――」

「アルフレッド様?」


 台詞を途中で止めたアルフレッドを不思議に思いトリスが声をかける。


 するとアルフレッドからは金銭を渡すだけというもの芸がないという答えが返ってきたため、シドは孤児であるアルドの身分を証明出来るものを用意して欲しいとアルフレッドに願う。


「ならば、それの他に使用人居住区の家を一軒を用意しよう。他に必要なものはあるか」

「あとは――」


 アルフレッドとシドと会話が進んで行くのだが、肝心のアルドはわけが分からないとディオをみる。


「アル兄とシドに任せとけば大丈夫だから」


 仕事人間の2人に苦笑いをしたディオは、ひとまずその話は後にするようにと止めることにしたのだった。

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