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33 第三王子の名は

 野盗討伐のためにトリスは朝早くから騎士の駐在所を訪ねていた。


 ウォルグが率いる自警団のメンバーたちだけでも構わないといえば構わないのだが、それらに関わる手続きなどを考えるとやはり騎士がいた方が楽なのだ。


 それに実戦ということもある。町中のトラブルと違って多くあるものではないので騎士に経験を積ませるといった理由もあるようだ。


「――それで、数名参加をして下さる方を出して頂ければと」

「はぁ、なるほどね」


 トリスがクラウディオの名を出した時からやる気がなさそうに話を聞く中年騎士は、面倒そうに頬杖をついた。


 荒唐無稽だとでも思われているのだろうか。

 確かに証拠と言われれば貴族と野盗が繋がっているなど現時点で示せるものなどなはなく、信用しろと言うのは難しいかも知れない。


 しかし、騎士というのは王家に忠誠を誓い、国を守るために尽力をつくすものなので第三王子であるクラウディオの名を聞いてやる気を無くすというのは問題である。


 腹は立つものの別に怒るつもりはなく、世間に流れる悪評は訂正するわけにもいかないのでクラウディオの名に嫌そうな顔をするのは構わないのだが、それを理由に動く気がなくなるというのは大問題だ。


 トリスは目の前の騎士の名前と容姿をしっかり記憶に刻んでからもう一度だけ騎士何人か連れて行きたいと伝えた。


「隣が宿舎なんで、ご自分で探して下さい。行きたいというやつがいればどうぞ」

「ありがとうございます」


 どこまでもやる気がないらしい中年騎士は駐在所の隣を指差した。

 トリス自身で連れて行く騎士を探せということのようだが、その言い方はまるで誰も行きたいと言い出すやつがいないとでも言いたげだ。

 トリスは中年騎士に礼を伝えると騎士の宿舎に向かった。


 もうすぐ朝食ようで宿舎では騎士のほとんどが一箇所に集まっていてわざわざ人を集める必要がなく、トリスはそこで淡々とここにきた理由を説明し始める。


 クラウディオ様のためじゃなくていいのだが、せめて戦う力のない民のために動いてくれる騎士がいればいいのだが。

 先ほどの騎士みたいなばかりではないことを祈りながらトリスは立候補者を待った。


 すぐに立候補したのはおそらく騎士になりたてだろうとおもわれる若い青年で、あとは中堅くらいの槍が得意という騎士とトリスを知っている騎士が立候補をしたのでその三人に参加してもらうことにする。


 トリスはその三人の騎士に道すがら細かい事情を話し、自警団のメンバーと合流すると今回の野盗討伐への作戦を話し始める。


「――敵の数がわからない以上、細心の注意は心がけて下さい」

「はい」


 女性であるトリスが指揮をとることに不満を持つものもいたが、トリスの作戦自体は非の打ち所がないために反論の声は出なかった。


 野盗を捕らえに行けば、トリスは騎士や自警団のよりも優れた活躍をしていて、周囲へのサポートも怠らない。

 その姿は唖然とした人々だったが、トリスがレグホーン侯爵家出身だと知ると騎士たちは納得していた。あの家は国境沿いにあるためそれなりに強いのだ。


 作戦通り野盗を捕らえたトリスは騎士とともに事故処理をしていると騎士が話しかけてくる。


「そういやトリス、不思議に思っていたんだがな」

「はい。何でしょうか」


 トリスが書類を書く手を止めて顔を上げる。


「なんで王子は野盗と貴族が繋がっていると知っていたんだってな」


 そう言って疑問を呈す騎士はトリスをよく知る騎士だ。

 彼はトリスがクラウディオ様の()()()()として働いていることを知っているので、もともとトリスがクラウディオのそばを離れて野盗退治なんかをしに来たこと自体不思議に思っていた。


 捕らえた野盗が貴族と繋がっていたのは彼らの根城からも尋問からも裏は取れているのだが、実際にここに来たことのない王子がどうしてそんなことを知っていたのだろうと騎士は疑問に思ったようだ。


 もし仮にお忍びで訪れていたとしたら、理由は知らされなくても町の警備は厳重にされるはずなのだがそんなことは一度もなかった。


「それは――」


 一瞬言葉に詰まったトリスはよく兄たちが使う言い訳を思い出してそれを口にする。


「クラウディオ様は千里を見通す力がおありですから」


 騎士の疑問もトリスが野盗退治に自警団とともに来たのも、一応それで説明がつくがまともに信じる相手もいないだろう。

 せいぜい、自作自演ではないかと疑われないだけでもマシというものだ。


 なにせ、あの第三王子だ。

 世間じゃ兄王子と比べて劣るロクでもない王子と烙印を押されている。


「なんだよそれ。王子専属(クラーク様)にも言われたぞ」

「私もクラークさんからそう教わりました」


 実際に千里を見通す力があるわけではないが、見て来たように情報を集めることが特に第三王子はできる。


 しかし、そのカラクリを教えたところで信じる人はそうそういないのでこれでいいのだ。

 どの道、第三王子となれば疑ってかかられてしまうので大した問題もない、時に脅しとしては使える言葉ではあるだが。


 はぐらかすための冗談に取られ笑われたが、トリスはそれ以上何も言わなかった。


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