18 フランへの頼みごと
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寝起きのディオは食事を済ませると、目があったフランを手招きして呼んだ。
「なに、ディオ様?」
「この町って妖精信仰ある?」
ディオの近くまで寄ったフランは記憶を辿り首を傾げてから首を横に振った。
「この辺りじゃないはずだけど……」
「そっか」
時折、妖精や精霊を信仰するような場所はあるがフランの記憶ではこのエルムの町はそんなことはない。
町や村ぐるみで妖精信仰がある地域は珍しく、そのほとんどは年配者が個人的に信心深いといったものが多い。
「体調でもおかしくなった?」
突然のディオの質問にフランがディオの顔色を伺うと、心なしかディオの顔色は悪いような気がする。
「少しね。妖精の姿は見てないけど、何かあるんだろうし、調べてきて欲しいんだ」
「いいの?」
原因を調べたいのは山々だがディオに何かあった場合、普通の怪我や体調を崩しただけならシドやトリスも対処は出来るが妖精絡みだとフランが頼みの綱となる。
他の家族なら妖精の方に天秤が傾く可能性の方が高いがフランにとってはかけがえのない親友でもあるディオを放置出来ないので迷いが生じる。
「うん。これくらいなら、それにフランが分からないなら調べておいた方がいいでしょ。時間は限られてるけど出来る?」
「もっちろん!絶対に見つけ出してみせるからね」
やる気を出したフランは急いで必要なものをカバンに詰め込んでドアノブに手をかけて振り向いた。
「夜には戻ってくるからね」
「絶対にだぞ」
シドの声も届いているのか、フランは上機嫌で部屋を出て行き、アルドはそれを不思議そうに見送った。
「どうかしたか?」
「え、あ、いや、ワンピースみたいなのを入れてから」
戸惑いを隠せないアルドに見間違いじゃないとシドは言って、慣れたふうにシドは返す。
「ああ、女装道具か。情報収集のためにたまにするからな」
☆☆☆
町に出たフランは宿に行く時に通った高級な店が立ち並ぶ道をさっさと通り抜けると、賑わう大通りからパーチメント商会の看板を探す。
「何をお探しですか」
「客じゃなくて、僕はパーチメントの家の人間で、ちょっとここを借りたくて」
パーチメント商会に行くと、店員に客として声をかけられるがフランはそれを否定すると荷物から一冊の本を取り出して最後のページを開いて店員にみせる。
「失礼いたしました。空いている部屋にご案内します」
急に態度が変わった店員は店の奥にフランを連れて小さな休憩室に行くと、手の空いている女性店員に来客用だと思われるティーカップにおそらく高級な紅茶を用意させてフランに用意する。
「ありがとう。それで、二人に聞きたいんだけど――」
「な、なんでしょうか」
本家からきた人間は貴族、そうじゃなくても貴族に仕える人間であって一般的な庶民の感覚では高貴な方々なのである。
緊張するのも無理はなく、早く部屋から出たそうにしている店員を引き止めるフランは彼らのことを御構い無しに質問をする。
「エルムの町で妖精に関わるものって聞いたことはある?」
「……ない、ですね」
フランを案内した店員は少し考えてから言葉を発し、力になれず申し訳ないですと謝るがフランはないならないで研究としては成果になると笑った。
「君も聞いたことはない?」
「えっと、その……お客さんから妖精の祠があると聞いたことがあります」
それに聞いたフランは目を輝かせて机に両手をついて立ち上がり、店員の二人は驚き肩を跳ねさせた。
「祠?それはどこにあるか聞いてる?」
「い、いえ」
さっきの驚きが抜けきらないなか、女性店員は首を横に振り、フランは逡巡してから口を開いた。
「そのお客さん、どこに住んでるかとかって分かる?」
「隣町というくらいしか……」
「そっか。ここからだとどれくらい時間かかるか分かる?」
フランはが尋ねると女性店員から場所を聞いたフランを案内した店員が答えてくれる。
「二時間ほどでしょうか」
「二時間……。熱中しなければいけるか。うん、ディオ様のことさえ忘れなければきっと、たぶん」
後半自分に言い聞かせるようにつぶやくフランは店員の二人に礼を言うと店を出てすぐさま乗り合い馬車に乗り込んだ。
馬車から降りたフランは女性店員から細かく聞いたお客の容姿と似た人を探しながら、町で妖精の祠を知っているかすれ違う人たち尋ねていくが皆知らないと言った。
「うーん、そんなものがあるなら父さんが見つけてそうなものだけどって逆か、見つかってないから僕がここにいるのか」
独り言に言いながら町をひたすらに歩き、女性店員が言っていた容姿と一致する人物を見つけたフランは祠についてやっと話を聞けると息を吐き出した。
「あの、妖精の祠って知って――ご存知ですか?」
「あー、知っとるよ」
まるで田舎町の老紳士といったふうなその人は頷き、突然そんなことを聞くフランに訝しげな視線を向けている。
このままじゃ話が聞けないと敏感に感じ取ったフランはすっと背筋を伸ばし、いつもよりも明るい声を出した。
「わたし妖精について研究しているんです。パーチメント商会の方から祠のお話を聞いたパーチメント伯爵から調べてくるように任されてここにきたんです」
フランはまるで女の子ように振る舞い、老紳士に微笑みかける。
いつも通りでもいいのだが、女の子としていた方が相手の警戒は解かれやすいのだ。軽く髪を整えただけなのでほとんど何も変わってないのだがあとは仕草でどうにかするしかない。
「そうだったのか」
「はい」
素で妖精の祠のことしか頭にないフランに老紳士は苦笑しながら、祠の場所を教えてくれる。
するとフランは目を輝かせ、その場所に向かおうとして老紳士に振り返って礼を言うと走って祠の場所に向かった。
「……あった。確かに妖精の祠みたいだ」
町の外れに古びた、誰も見向きのしないような祠を見つけたフランはそっと手で汚れを払う。
「思ったよりも汚れてはないけど――」
祠に飾られた花を見てフランは手を止めて、ジッと花を見つめる。
たぶん置かれたばかりのその花は、かなり手をかけて育てられたのだろうと予測がついた。
「なるほど。急な変化に追いつかなかったのか、ディオ様は」
フランは原因が分かった手帳を取り出すと分かったことを書きとめて、考察をする。
「かなり信心深い人がいるのか、祠自体のエネルギーとかの影響なのか、妖精自体の力。まあ、一応専門外だし連絡だけしとけばいいんだけど……」
考えていたフランはフクロウの鳴き声で我に返って空を見上げた。
オレンジに染まり始めていた町はもうすでに真っ暗で空には満点の星が瞬いている。
「あ、熱中しすぎた。急いで帰らないと……」
慌ててカバンに手帳を突っ込んで来た道を戻るフランは乗り合い馬車がもうないことに落胆したあと、これからエルムの町に帰るという騎士に出会い馬に乗せてもらうことでなんとかエルムの町に帰ると急いで宿に戻った。
「た、ただいま帰りました」
ゆっくりと部屋の扉を開けて恐る恐ると帰ってきたことを知らせる。
「全く、お前は」
小声で呆れたようにいうシドはフランが約束通り夜までに帰ってくるとは思っていなかったようだ。
部屋に入るとアルドとトリスは既に眠っていて、シドがディオをベッドに寝かせるために抱えていた。
フランが帰ってくるのを待っていたディオは途中で眠ってしまったのだろう。
「それで、何か分かったのか」
「う、うん。隣町に妖精の祠があって、急激なエネルギーの変化のせいかな」
「そうか。なら、早めにエルムを出るか」
シドは予定の変更を急遽決める。
ディオの体調が戻ってから移動していてはまたディオの体調が悪くなってしまいかねない。
この町での予定はないのですぐに出てしまっても問題はないのだ。
フランもシドの言葉に同意をして明日すぐにエルムの町を出ることを決めると、他のことはディオが起きてからだとそれぞれのベッドに入った。
パーチメント商会は店によってはフランクに接するところもあります。




