14 些細なことで
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宿屋内でのおつかいを頼まれたアルドが出版社の違う新聞を手に部屋に戻ってくると、なにやらディオとフランが騒いでいた。
「横暴だー」
「そうだ、そうだ」
二人の前で腕組んだまま動かないシドは騒いでいる二人の言い分を黙って聞いていて、すぐそばではトリスがなにやら作業をしていた。
巻き込まれたくはないが、かといってこの騒ぎが終わるまで待つの嫌なので、アルドはさっさと自分の用件を終わらせる。
「シド、買ってきた」
「ああ、ありがとう」
新聞をシドに手渡して、トリスに手伝うことはないかと尋ねてアルドは逃げることにするが、聞き耳は立てておく。
「で、何が横暴だって?」
「ヒマシ領に行くのダメって言うし、材料の数も増やすなって言うし、あげく作るなって横暴だ」
「すぐにダメって、シドの頭でっかち!」
――ゴッ。
騒ぐディオとフランの頭にシドの拳が振り下ろされ、ディオとフランの二人は頭を抱えて縮こまった。
フランはどうか分からないが、少なくともディオは分かっていてやっているので拳骨をするには充分な理由だ。
「う〜、シドはそうやってすぐ暴力を」
「暴力はんたーい」
反省することもなくまだ喚く二人はシドが睨みつけた瞬間大人しくなった。
頰を膨らませるディオはまだ反抗する気があるようだが、フランの方は戦意喪失しているようで怯えたようにシドを見上げていた。
「作るなとは言ってない。俺は時と場所を選べと言ってるんだ」
「だ、だっていつもいつも……すぐに片付けさせるくせに」
フランは戦意喪失しつつもディオが隣にいることで、なんとか持ち直そうとするが声はわずかに震えている。
「それはディオの寝ているところでやろうとしているからだろ。配慮をしろと言ってるんだ」
「そーいうことか。フラン、そこはオレも力になれないや。ごめん」
「ディオ様?味方だと思ったのに」
裏切られたとフランはディオを見るが、ディオはこたえていない。
むしろ、シドに感謝の言葉さえ送っている。
「じゃ、じゃあヒマシ領は、薬の材料は?トリスだって横暴だって思うでしょ」
新たな味方を作ろうとトリスを巻き込むが、取りつく島もなく淡々と返される。
もとよりトリスは助け舟を出す必要性もないと判断していて口を出していないだけだ。シドと二人で相手をするより、シド一人に任せた方が幾分か早いだろうと。
「ヒマシ領は往来許可が出ていませんし、材料については置く場所がないので増やすわけにいかないと以前の説明したかと」
どうやら味方はいないようで、ショックをうけるフランは床に手をついている。
正当な理由もなくシドが否定も禁止もするわけではないと分かっているので、ディオは理由を尋ねてみる。
「薬の材料については分かったけどさ、なんでヒマシ領は許可が出てないの。あの辺りの治安はいいはずだよね」
「治安については否定しないが、あの辺りの名産は――」
シドよセリフを思い出したディオが遮る。
妙に納得した顔をして、ディオは頭を押さえた。
「あー、そっか。薬草の生産地で有名だ。許可は難しい、かな」
行ってあげたいとも思うのだが、そうするとフランが仕事をしなくなってしまうのが目に見えているので行くわけにはいかないのだ。
ディオは困ったふうに息を吐いた。
「オレが家から出なきゃ行けると思うけど、向こうの予定と合うかなぁ。シド、一応話だけ通しといてくれる?」
「わかった」
了承はしたシドだが苦渋の表情をしていて、眉間にシワが寄っている。話を伝える順番を間違えると大惨事になってしまう。
それを見て、今度はフランが困ったような顔をして口を開いた。
「ディオ様、シド。僕はそうまでして行こうとは思わないよ。天秤にかけるまでもとは言えないけど……」
だんだんと声が小さくなっていくフランは自信なさげではあるが、しっかりとディオと目を合わせる。嘘はついていない。
「うーん、優先順位の問題もするけど。じゃあ保留で」
先延ばしにするという形にして、一旦騒ぎは収まりシドが疲れたようにため息をついた。
こうしたことは日常茶飯事ではあるのだが、やはり援護者がいるのといないのでは苦労が違う。
そこに労うように水の入ったコップをアルドがシドに差し出し、シドはお礼を言って受け取って一気に飲み干した。
「ありがとう、アルド。戻ってきて早々にトラブルで悪いな」
「別にいいけど。短い時間で何があったわけ」
アルドが新聞を買って戻ってくるまでのじかんは往復でも五分くらいだ。
フランもディオも荷物を散らかしていたわけでもなかったので、アルドには原因が想像つかない。
「ああ、薬の材料の補充がしたいとフランが言い出してな。十分な量のストックはあるはずだから必要ないと言い聞かせてたんだが」
「……くだらないというか、それだけのことで」
呆れるアルドにシドが仕方ないというふうに笑う。
「長い付き合いだからな、互いに遠慮がないんだ」
むしろ、ここまで騒ぐことがなかったのは最長記録だと感心するシドはちょっとだけ楽しそうだ。
そこにディオはやってきて、アルドの頭ををぐしゃぐしゃと撫でる。
何をするんだとアルドがディオを睨めば、ディオは不敵な笑みを浮かべた。
「オレはもう、アルドにも遠慮はないけどね」
勤めて明るい声でディオはそうのたまうのだった。
こういう時のディオの裏切りは日常茶飯事の様子。




