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10 利用しろっていっただろ

お読みくださりありがとうございます!

 読み終えたばかりの新聞の1ページをディオは抜き取ると、シドたちの目を盗んでそれをたき火の中に突っ込んで燃やした。


 その一部始終を見ていたアルドに気がついたディオは口元に人差し指を当てて黙っているようにとジェスチャーをする。


「アルド、フランの手伝いを頼んでいいか」

「え、あ、うん」


 ディオの行動に意識がいっていたアルドは肩を跳ねさせてシドに返事をし、シドに不審そうな顔をされたためなんでもないと首を横に振った。


「ちょっとボーッとしてただけ」

「それならいいが。ディオがまた何かやらかしたかと思ったが違うならいい」


 体調が優れないようならすぐに伝えろとシドはアルドに言って、フランの手伝いを再び頼むとシドは自分の仕事に戻っていった。


 アルドはフランの手伝いをするためにフランのもとに向かうと水を汲んでくるように言われて少し離れた場所にある川に向かった。


 川が近づくと言い争う声が聞こえてきたが、アルドはとくに思うところもないようで無視をしてその近くで水を汲むことにした。


 言い争っているのは男たちで、服装からして商人のようだ。

 お互いに三、四人程度の団体で、言い争っているのは主にリーダーなのだろう二人で小太りの中年とハデで若い男だった。


 何度か往復しなければならないだろうから、遠くまでいって水を汲んでいては面倒だし、殴り合いではないのならアルドの経験上まだ危険は少ないので問題ないだろうと判断し、彼らを無視してさっさと自分の用事を済ませることにする。


 渡された肩がけの水筒二つとバケツに水を入れたアルドはさっさと戻ろうと立ち上がったちょうどその時、若い男に押された小太りの中年がよろけてアルドにぶつかった。


 アルドではぶつかった勢いを止めることは出来ず、小太りの中年にぶつかった勢いで川の中に飛ばされてしまう。

 その拍子に手から離れたバケツは小太りの中年を濡らし、バケツはカンッと小気味いい音を鳴らして男の頭にぶつかり地面に転がり落ちた。

 若い男たちはそれを見て腹を抱えて笑い、満足したのかどこかへ去っていった。


「なんだよ、もう」


 びしょ濡れになった男を一瞥だけしたアルドは転がったバケツを拾い上げると壊れていないかを確かめると水を汲んでさっさとこの場から立ち去ろうとするが、小太りの中年に腕を掴まれた。


「待て、小僧」

「なに?」


 怯えるわけでもなく、ただ淡々とアルドは返す。

 完全に怒りの矛先がこっちに向いているのを感じて、面倒なことになったと心の中でため息をつくとアルドは男を見上げて、掴まれた腕に握ったバケツから手を離した。


 ☆☆☆


 一度、空を見上げたはディオは悩んだ顔でひとまず場所が分かっているフランのところに向かった。


「あれ、アルドは?」


 一緒にいるはずのアルドがいないのでフランに聞くと水を汲みに行ってもらっている返ってくる。

 それにしては、少し戻って来るのに時間がかかっている気もする。


「フラン、雨降ると思う?」

「こんなにいい天気なのに?妖精の声でも聞こえたの?」


 唐突なディオの質問に動じることなくフランは返し、ディオはそれに同意をして自分の額をコツコツと軽く握った拳で叩いた。


「妖精が騒がしいのは確かなんだけど……あー、ちょっとまずい、かも?」

「まずいってなにが?」


 フランに返事をせず、ディオはシドを大きな声で呼ぶ。

 いちいち探すより近くにいるのは分かっているのでこの方が早い。


「シド‼︎」

「なんだ、ディオ」


 シドの姿が見えるとディオはなにも言わず川のある方へ走り出す。

 説明のないディオにシドはため息をついてディオを追いかけると、ディオの前に出て先導する形をとる。


 川の音が聞こえるとすぐに人影が見えた。人だけ他よりも小さい。

 シドは周囲の気配に一層気を配り、ディオにも気をつけるように小声で伝えた。


 頷いたディオはシドの後ろを追いかけ、やがて人影がどんな人物なのかわかるほどの距離になり、小さい影がアルドだと分かると走る速度を速めた。


 相変わらず冷めた感じのアルド、激昂している小太りの男、それを宥めようとしている二人の若い男がいて、ひとまずアルドに怪我がないことにディオとシドは安堵をした。


 突然現れたディオとシドに、全員視線が向いた。


 彼らの姿を不躾にならないように見て商人だと推測したディオは、前に立つシドを目だけで制し前に進んだ。


「アルド、おいで」


 ディオがアルドを手招きする。

 誰も止めることはなく、アルドはディオのもとに向かう。

 ディオは羽織っていた上着を全身びしょ濡れのアルドにかけて背におくと、男たちに尋ねた。


「うちの者がなにか」

「その字も読めない小僧がか」

「大事な見習いです。磨かなきゃ(ぎょく)にはならないですよ」


 バカにしたように言われてもディオはペースを崩さず返し、それからもう一度尋ねる。


「なにがあったのか聞いても?」


 あくまでいつも通り自然体のディオだというのに、なぜかディオを前に嘘をついてはならないような気にさせる。


「そ、その小僧は水をかけといて謝りもしねぇから、ちょっと躾けてやろうと……」

「それなら、いささかやりすぎと思うけど、アルドはどうなの」


 後ろを向いてアルドに声をかける。


「そいつがぶつかってきて川に落ちたから知らない」


 アルドがよくわからないと言うので、ディオは中年と一緒にいる若い男たちに視線を向けた。

 男たちは自分より若いディオに畏怖でも抱いたかのように一から丁寧に説明をしてくれた。


「なるほど。ライバル同士が喧嘩してたところにアルドが巻き込まれたってことか」

「は、はい。私たちも止めきれず、申し訳ない」


 状況を把握したディオは、冷静になり始めた小太りの男と和解のための話し合いをしていく。

 一応こっちは被害者なので、何かしらの請求はしてもいいだろう。


 すぐそばではアルドがシドに叱られていた。

 謝らずにいたことやアルドならもう少し上手い対処も出来たのではないかと。


 パンと手を鳴らしたディオは話し合いが終わったらしく、戻るよと声をかけて来た道を歩いて行く。

 ディオを追いかけるアルドが後ろを振り向くと、なぜか男たちはこちら頭を下げていた。


「あ、やっと戻って来た」

「すぐよそいますね」


 たき火を囲って食事をして、再びシドが馬車を走らせて日が沈んだ頃宿についた。


 宿についた直後にディオがすぐに寝てしまい、その間に近くの店で夕食を調達することになりフランとトリスが買いに行くために外に出た。


 昼間ディオが読んでいた新聞が無造作にベッドに置かれていて、アルドはそれに視線を送ったあと、躊躇うようにしてシドを呼んだ。


「あのさ、シド」

「どうした?」

「……字を教えて欲しいんだけど」


 窺うようなアルドにシドはため息をついた。


「利用しろって言っただろ」


 そして、それだけ言うとシドは静かに笑った。



新聞の一部分を抜いたことはシドに見つかり、ディオは怒られてます。

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