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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、新たな戦いの火蓋
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邂逅

「つ、ついた……」


"機関"本部前。


悪魔と、敵対する冒険者たちを掻い潜りつつ、サラたちはこの場所へ戻ってきた。


当然ながら"機関"の戦闘部も出撃しているようだ。制服を着た人物たちが武器を持って悪魔の軍勢と交戦している。


幸いにも、本部の中までは入り込まれていないようだが。


「こっちはこっちでかなり忙しそうだな。"機関"側でこの騒動の情報は何か掴めてるのか……話を聞くのも難しそうだ」


「では、悪魔を全滅させることを優先致しましょう」


フロワが盾を振り、"機関"の職員と戦っていた悪魔を吹き飛ばす。


「加勢致します」


「――! すまない、助かった!」


「礼には及びません」


「大丈夫ですか? "Saint Healing"」


"機関"職員が怪我をしていたのを見つけると、サラはすぐに近寄って回復魔法を施す。


サラの手からあふれ出る光が職員の傷口を包むと、小さな傷が塞がる。大きなものも完治とまではいかないが、かなり小さな傷になった。


以前よりも強力な治癒。サラは自分の成長を感じて、こんな状況だが少し嬉しさを感じた。


「ラディスは居るか? 何か知ってるとしたらあいつだ」


「ラディス様は他の場所へ支援に行っている。今から呼び戻すのは多分、無理だ」


「そうか……仕方ない、やはり騒ぎが収まるまで情報はお預けだな」


この周辺はどうにか持ちこたえているらしい。恐らくラディスは、もっと旗色の良くない場所へ行っているのだろう。


「とにかく、ありがとう! 俺はあっちへ支援に回る!」


「了解、頑張ってくれ」


「あ……待ってください。"Saint Increase"……」


襲われている仲間の元へ向かう職員に、サラが補助魔法をかける。職員は軽く頭を下げて、仲間の支援へ向かった。


「さて、俺たちもどっかの支援に――」


「行っている暇はないようです」


フロワが、鬼気迫った声と表情で呟いた。今までよりも、圧倒的な危機感を感じている様子だ。


「あれは……一体」


フロワの視線の先には、一人の女性が佇んでいた。どこか妖艶な雰囲気を纏った、大人の女性だ。


同時に、只者ではないとわかるオーラを持っていた。それはサラにも感じ取れる。軽い恐怖すら覚えるほどの強いオーラだ。


「あら……こっそり近づいているつもりだったのに、バレちゃったわね?」


その女性は、数本のダーツの矢を掲げながら、一行に微笑みかけた。


「それ以上近づくなっ!」


イブリスがその女性に銃口を向けた。


何者かはわからないが、どう考えても味方ではない。それだけはハッキリしている。


女性とイブリスたちの間にはそれなりの距離があるが、この距離でお互いが既に臨戦態勢に入っているのだ。


そして、女性のほうが圧倒的に余裕を持っている。これ以上(・・・・)近づかせるとマズイ(・・・・・・・・・)。イブリスが本能でそれを察知していた。


「お前、何者だ……? 俺たちを襲いに来た冒険者って感じじゃあないな。名を名乗れ!」


「あら、自分より先に相手を名乗らせるなんて、マナーがなってないわよ? ミュオソティス君(・・・・・・・・)?」


「――!?」


女性が口にしたその名を聞いた瞬間、イブリスに胸を刺すような衝撃が走った。鼓動が一気に早くなり、呼吸が荒くなっていく。


そして――自分の中で、黒い魔力が増大しかけている。


近づかせるだけじゃない、これ以上喋らせるだけでも危険だ。イブリスは構えた銃の引き金を引いた。弾丸を打ち尽くすまで。


「あら」


女性は手に持ったダーツを投げ返して、次々と弾丸を打ち落とす。


一般的なダーツのフォームとは全く違う投げ方だが、その狙いは正確。イブリスが放った弾丸は、一発も届くことがなく打ち落とされてしまった。


「自分から名乗らないだけじゃなく、いきなり撃ってくるなんて。紳士の足元にも及ばないわね? まあ、ちょっと荒っぽいくらいが私の好みでもあるんだけれど」


女性は変わらず、妖艶な表情で三人を見つめている。


「な、なんなんですか、あの人……それに、今の名前って、まさか……!?」


「わからん……"そう"なのかもしれない。だが、どっちにしろあいつは危険だ」


「はい。今の動きを見るに、相手はかなりの手練れ。少々覚悟を決める必要がありそうです」


周囲の空間に、緊迫した空気が流れる。銃の弾丸を全て打ち落とすような動きは、常人には不可能だ。


覚悟を決める。本格的に戦闘態勢を整えた三人に――


「あら、何の相談かしら?」


――いつの間にか、女性が接近していた。


「な……にぃ!?」


女性はイブリスの肩に手を置いて、三人の顔を覗き込んでいる。


イブリスはすぐに手を払いのけて振り向き、女性へ向けて銃の引き金を引いた。


だが、弾丸は先ほど打ち尽くしている。カチリと虚しく音が響くだけだ。


「ふふふ、ドジっ子さんね?」


女性は、その隙をついてダーツをイブリスに向けてかかげた。直接突き刺すつもりだ。


「イブリスさんっ!」


その瞬間、サラが動いた。振り降ろされるダーツから、身を挺してイブリスを守ったのだ。


ダーツの針が、サラの腕に深く突き刺さる。


「サラさんっ!?」


「思わぬところにダメージが入ったわね……まあいいわ」


「くっ……」


イブリスがサラを抱えて女性から距離を取る。フロワもそれに続いた。


相手が持つのは飛び道具のため、距離を取ったからといって安心はできないが、少しはマシになるだろう。


「サラちゃん、大丈夫か!?」


「だ、大丈夫……です。かなり痛いですけど……これくらいの傷なら、私の魔法でも治療できます。それよりも……」


サラは自分の腕の傷に回復魔法を施しながら、話を続ける。


「さっき、いつの間にか近づいてきてた時……黒い、霧のような……そんなものが見えたんです」


「――! 気配を消す、黒い霧……まさか、"miragE"だと!?」


サラの証言から結論に至るまでは一瞬だった。普段から自分が使う魔法なのだ、特徴を挙げられればすぐに結び付けられる。


「どうやら、正体が掴めたらしいな……!」


イブリスは銃に弾丸を込めなおしつつ、女性を睨みつけた。


「お前、悪魔(・・)かっ……!」


「ふふっ、大正解」


女性は不敵に笑って、肯定の言葉を返し、前髪をかきあげる。


すると、何も無かった女性の額からまっすぐに、しかし歪な方向に一本の角が現れた。恐らく何かの魔法で隠していたのだろう。


「真面目に隠していた訳ではないけれど、思ったよりも早く見破られちゃったわね? じゃあ、そろそろ自己紹介をしようかしら」


そう言うと、ダーツを数本ずつ持って、両手を広げてみせた。


「イーグル・アイ……『カルテット』の一人よ。どうぞ、よろしく」


女性の悪魔――イーグル・アイは両手を広げたまま、深々とお辞儀をし、名を名乗った。

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