EMQ:機巧士の捜索、及び捕縛 その2
「実験体……?」
「そう、実験体だ。俺をこうした奴らは、とある研究をしている。魔法を現実の物質として具現化する技術……まあ、その産物が機巧士なんだが」
私はあの戦艦と、ペンドラゴンの戦車のことを思い出した。
どちらも、魔力から作り出されたとは思えないほどのものだった。物質でないものを物質として具現化する……どんな仕組みなんだか、私には全く分からない。
「お前ら、機械が具現化されるところを見たことはあるか?」
「あ、はい! えっと……」
ペンドラゴンが戦車を具現化したときの様子はどうだったっけ……?
「……アクセサリーが光を放って、それと一緒に具現化されていました」
……私が思い出す前に、フロワちゃんが答えてくれた。
そうだ。ペンドラゴンが身に着けていたアクセサリーが光って、それが収まったらいつの間にか戦車が出現していたんだ。
「そう。ここにある蒸気機関はそのアクセサリーの原型だ。ヒトから魔力を吸い上げ、それを物質に変換する」
「え、ええっ!? これが……ですか!?」
私は周りを見回した。部屋いっぱいに広がる機械と、あのアクセサリー。その大きさは比較するまでもない。
「この機械は最初の具現化研究の結果。この仕組みを研究し続け、小型化したものがあのアクセサリーだ。
当然、そうなるまでにはかなりの苦労があった。奴らはこの蒸気機関が完成してから、研究のために冒険者を拉致し、実験体にして……最終的に冒険者は、死んでいった。その三人目が、俺というわけだ。
あの戦艦も俺の魔力で具現化されちゃいるが、俺が操ってるわけじゃない。結局は、この機械の燃料にされてるだけなのさ……やがて俺も吸いつくされて死ぬんだろう」
私は、耳を抑えたい衝動に駆られていた。
罪もない冒険者を拉致し、その命を自分勝手な研究に使わせる。あまりにも酷い行為だ。
……こんな話、もう聞きたくない。
「なんと非道な……これが人のやることか……!」
レオさんが握りこぶしを作り、怒りに震えている。リアスさんが彼の肩を叩き、それをなだめた。
イブリスさんとフロワちゃんは冷静に話を聞いているけれど、内心は想像に難くない。
「ちなみに表にいた魔物も俺が具現化させられている奴だ……おっと、いつの間にか倒されているじゃないか」
「あ、あのお猿さん……」
私は、私たちを襲ってきた大猿を思い出した。
……うん、言っておいてなんだけど、"お猿さん"なんて可愛い言葉で片付けられるような魔物じゃなかったかな、あれは。
「……もう十分だ」
イブリスさんが話を止めた。
「あんたの境遇はわかった。あんたの立場もだ。敵対する意志が無いことは信じる」
立場上は敵だけれど、敵対するつもりはない。この言葉の真意がわかった。
確かに、機巧士という私たちと敵対する立場にありながら、彼は寧ろその機巧士の被害者の一人でもあったんだ。
「教えてくれ、ハンニバル。あんたをこうしたのは……この実験を続けている"奴ら"ってのは、一体何者だ」
……確信をつく質問。
ハンニバルさんを含めた冒険者たちを実験体として非道に利用し、"機関"のお尋ね者、機巧士を生み出した存在。
「……どうせ大方予想はついているだろう」
そして、イブリスさんやアトミスギルドを狙うもの。
「ヒュグロンギルド。あんたたちアトミスと同じ、三大ギルドとか呼ばれてるギルドだ」
……それがヒュグロンだという証拠は思ったよりも早く私たちの元へ転がり込んできた。
「聞けばステレオンは既に落ちたらしいな。その時からこの島の警備が強化された。今まで色々な所へ派遣されていた戦艦がこの辺りに常駐したり、あんな魔物を具現化させられたり、な」
ステレオンがつぶれたとなればヒュグロンにも疑いの目が行くことはありえる。だからこそこの島の警備が強化されたのだ。と、ハンニバルさんは語った。
「しかしその強化があったからこそ、クエストが発生し、我々はここに来た……作戦が仇になったわけですね」
「……そうなるな。全くお笑いだ」
ハンニバルさんが苦笑いを浮かべる。でも、どこか嬉しそうな、そんな笑い方だ。
「でも、お前らがこうして来てくれたのは幸いだった。俺は奴らを恨んでる。俺をこんな目に合わせた、あいつらを」
……ハンニバルさんが、頭を下げた。
「この場所と俺の証言が十分な証拠になるはずだ。頼む、あいつらを……ヒュグロンを、潰してくれないか」
「言われなくてもそのつもりだ!! いや……これでヒュグロンを打倒する理由が増えたというもの!」
「はい……! こんなことをするなんて、許せません!」
レオさんに続き、私は強く頷いた。
イブリスさん達だけじゃない。何の罪もない冒険者の中にも、被害者が居る。そんなことが許されていいはずがない。
「……よろしく頼む。俺もできる限りの協力は……」
「皆ッ!」
ハンニバルさんの言葉が、若い男性の叫びで遮られる。
「……ラディス」
「主様……!? そのお怪我は……!?」
叫び声とともに遺跡に飛び込んできたのは、外で『ザ・サード・フリート』と戦っていたはずのラディスさんだった。
その姿はボロボロで傷だらけ。別れる前は元気な姿だったというのに、それが嘘のようだ。
息を切らしていることから、かなりの力で走ってきたらしい。ここまでの傷を負っておきながら、そんなにも焦る事態……あまりいい予感はしない。
「はぁ……はぁ……」
「ラ、ラディスさん! 大丈夫ですか!? 今すぐに回復魔法を……」
「大丈夫、です……動くのに支障はありません」
「で、でも……!」
「治療は後からいくらでもできます! 一刻も早くこの島から離れないと……!」
ラディスさんは私の治療を頑なに拒否し、この島から逃げることを促す。
彼の強さはこの目で見てよく知っている。たとえ見ていなかったとしても、"機関"戦闘部のトップを任されるくらいなのだから、その戦闘力は十分だとわかる。
……そんなラディスさんが、ここまで言うなんて。
「……ラディス、いったい何があった。まずはそれを聞かせろ。焦ってちゃ俺たちも状況がわからない」
イブリスさんが冷静にラディスさんに声をかける。
……いや、完全に冷静ってほどでもないみたい。冷や汗がイブリスさんの頬をつたっているのが見て取れた。
「……3人目の機巧士の襲撃です……! 消耗した今じゃあまりにも分が悪すぎます!」
「その通り。君たちに勝ち目は全くない」
「……!」
……また、新しく男の声が聞こえた。低く、冷血な印象を与える声。
「やはりここに来ていたか。全く、予想通りにもほどがあるぞ」
「……ヴェルキンゲトリクス」
ハンニバルさんが、その男の名を告げた。
3人目の、最後の機巧士の名を。
「まさか来ていたとはな……」
「ふ、自分の船が私に沈められたというのに、気づいていなかったのか? 全く間抜けだとしか言いようがないな」
「俺の船と言うな。あれは俺の力を吸い取る化物でしかない」
ハンニバルさんがヴェルキンゲトリクスを睨み付ける。やはり、機巧士に対してもいい印象は持っていないみたいだ。
「……この様子だと、全員もう"知っている"ようだな」
「ああ、全て話させてもらった」
「ほほう、全く意外なものだ。無口なお前がこんなにお喋りになるとはな」
「俺はもともと無口でもないさ……ただお前たちとなんか話したくないってだけでな」
「ふん……全く、言ってくれるな」
二人の間に流れる険悪な雰囲気がこの場を支配する。依然として二人はにらみ合ったままだけれど、誰も動こうとはしない。
……はやく、ラディスさんを回復してあげないと。多分、この位置からなら死角を縫ってラディスさんのところまでいけるはず。
「……ヴェルキンゲトリクス。確か、飛行する機械の使い手ですね」
リアスさんがコンタクトを取る。
「ならばこの地下では具現化は使えないはず。追ってきたのが仇になりましたね」
ヴェルキンゲトリクスの意識がリアスさんの話へ集中している。今のうちだ。私は出来るだけ自然な動きでラディスさんへ近づいていく。
「くくく……そう思うか? 本当に? この私が全く計算をせずに追ってきたと?」
「……何を考えている」
「ハッタリに決まっている!! いくら我々を動揺させようとしても無駄だ! 何かした瞬間、全員で袋叩きにしてくれる!!」
ヴェルキンゲトリクスの言葉にひるむことなく、レオさんから脅迫に近い言葉が返される。
ラディスさんに魔法が届くまで、あと少しのところ。大きな声に少しばかり驚いてしまったけれど、とりあえず、大丈夫。
でも、ヴェルキンゲトリクスからは余裕が消えていない。消える気配がない。
「くくく……そうか。ならば……」
よし、ここまで来ればラディスさんの回復ができる……!
「試してやろう」
……その時、鈍い痛みが私を襲った。
私の鳩尾にヴェルキンゲトリクスの拳がめり込んでいる。鳩尾への強烈な打撃、これが痛みの原因のようだ。
苦しい、息ができない。
霞む視界の中に、イブリスさん達の戦慄した表情が見えた。
「ほら」
私の体が思い切り引っ張られる。抵抗しようにも体に力が入らず、されるがままにヴェルキンゲトリクスの方へ引き寄せられた。
拘束された私の首が締められ、喉元にはナイフが突きつけられる。
「サラちゃん!」「サラさん!?」
「くくく……どうした? 全く動かないな。私が何かした瞬間に袋叩きにするのではなかったのか?」
呼吸を封じられ、薄れていく意識の中に、ヴェルキンゲトリクスの声が響く。
「ひ……人質だと!? 卑怯だぞ貴様ぁ!?」
「人数が多いからと油断しきった貴様らが悪いのだ。私には全く非は無い」
私の首を締めている腕の強さがどんどん増していく。息もどんどん苦しくなっていく。
ナイフは喉に触れるか触れないかの位置。時折触れる先端が恐怖をあおる。
「私は動くなとは全く言っていないぞ? まあ、動けばどうなるか……想像はつくだろうがね」
ヴェルキンゲトリクスは私を連れたまま遺跡の外へ向かう階段へと近づいていく。
「くっ……」
「おっと」
「ぁっ……!?」
ラディスさんがカタナに手を触れようとした瞬間、ナイフが少し、私の喉を斬った。ほんの少し、皮膚の表面を傷つける程度に。
喉元を温かい液体が滴る。
「くっ……」
ラディスさんの動きが止まった。カタナに触れられさえすれば、あの時を超えた斬撃を繰り出せるのだろうけど、私が足かせになってしまっているんだ。
ラディスさんの行動を防いだヴェルキンゲトリクスは、階段に足を掛けた。妨害は無く、ヴェルキンゲトリクスは順調に階段を上っていく。
「この少女は貴様たちを口止めするのに丁度良さそうだ、預かっておこう。殺されたくなければここのことは決して、誰にも、一言たりとも全く話すな……いいな」
階段をある程度上ったヴェルキンゲトリクスが私を抱えて走り出した。
「っ! 待て!」
私とヴェルキンゲトリクスは階段を駆け上がっていく。地上の明かりが徐々に見えてきた。
後ろからは皆がこちらへ走ってくる音が聞こえる。
「イ……イブリス……さん……!」
……声が届いたかはわからない。
ただ、皆が私たちに追いつくことはなく。
数分後には、私は空の彼方へ連れ去られていた。





