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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、遠出する
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男、三人


「……遅かったか」


俺はジャングルの中に残った魔物の足跡を見て呟いた。


サラちゃんの悲鳴を聞いて駆けつけてきたが、どうやら一足遅かったらしい。


「捕まったわけではなさそうですね」


リアスが地面を見て言う。


視線の先には魔物のものと違う二つの足跡。大きさからして少女のものだ。サラちゃんとフロワに違いない。


足跡は魔物とは違う方向へ伸びている。魔物を撒いた証拠だ。


「がっはっは!! 一安心だな!!」


「ばっ……でかい声出すなレオ! まだ魔物が近くにいるかもしれないんだぞ!」


……あんなことがあったというのにレオはまだまだ元気らしい。


俺たちは船の転覆後すぐに合流し、この島を探索していた。最優先は当然、全員の合流である。


途中、島を巡回する『ザ・サード・フリート』の襲撃も受けたが、そこは三人でどうにかやり過ごした。おかげで俺たちはすでにヘトヘトの状態だ……約一名を除いて。


ああ、こいつの筋肉が飾りじゃないってことはよくわかったよ。


「足跡を辿っていくぞ。早いところ二人と合流しよう」


とりあえず、全員この島にたどり着いていることは分かった。


フロワが居ればサラちゃんは大丈夫だろうから、あまり焦る必要はないかもしれないが……だが、ちゃんとこの目で姿を見るまでは完全には安心できない。いつまた魔物に襲われるかもわからないのだ。


フロワの盾は1体には強くても群れに弱い。サラちゃんのサポートを受けたとしても、結局は正面しかガードできないのだから。


「しっかしよりによって女子二人がはぐれちまうとはな」


俺たちは三人で足跡を追い始めた。


煙草に火をつけようとしたが、先ほど海に入ったせいでまともに吸えるのは残っちゃいなかった。無駄になったのはちょうど一箱、なんて勿体無い……


「途端に男臭くなってしまったな! なんて汗臭いパーティーだ! がはははは!」


リアスが注意したからか、レオの声は先ほどよりも少し小さい。正直まだ五月蠅いレベルだが。


「全く……その汗臭さが一番強いのはどこの誰なんだか」


「がはは! 海に入ったおかげで多少は汗が流れたぞ!」


「さっき走ったせいでまた汗かいてるけどな」


他愛もない話が三人の中で交わされる。なんだかんだ言って親交は順調に深められているようだ。少なくとも初めて会ったときよりは警戒心が緩められている。


フロワに色々と調べてもらったりもしていたが、やはりアトミスは俺を狙っているわけではないようだ。


「……ん、なんだ?」


森を抜け、少し開けた場所にでた。


ここで一旦足跡が途切れ、代わりに座り込んだような跡が残っている。


だが肝心の二人は見つからなかった。また別の方向へ向かう足跡があるから、少し休んでいったのだろう。

出発した時からはそんなには経っていないはずだ。サラちゃんたちはそう遠くない。


「しかし……どんどん深くまで潜っていきますね」


「方向が分かりにくいからな。どこへ行けばいいかわからずにさ迷ってるんだろう」


今まで辿ってきた足跡もでたらめに曲がりくねっていた。魔物から逃げたのならそれも仕方ない。


いつ魔物に遭遇するかわからないような場所。早く合流しなければ危険だ。自然と足が速くなる。


「ここで休憩していったなら、そう遠くへは行っていないはずだ」


「うむ! 二人は近いぞ!」


俺たちは、いつの間にか足跡をダッシュで辿り始めていた。


走るにつれ、磯の匂いがどんどん遠ざかっていく。今までよりもさらに深く深くジャングルの奥へと潜っているらしい。


同時に辺りの木に傷が増え始めた。ここに住み着いたという魔物がこのあたりを中心に生活しているという証拠だ。


つまり、近くに魔物がいる可能性が高いという事。二人が再び襲われる可能性が高いという事。


「頼むから無事でいてくれよ……!」


どうか何事も無いように。


柄でもないが、心のどこかで神サマに祈ったりなんかしていると、木の隙間から再び広場が見えてきた。


「森を抜けます!」


リアスの言葉の直後に、俺たちはその広場へ躍り出た。


先ほどの場所よりも広い。ここだけ木がほとんどなく、上には青々とした空が広がっている。上空から見れば森の中心がぽっかり空いているように見えるに違いない。


だが、この広場にはもっと大きな特徴があった。


「……なんだ、こりゃ……」


広場のど真ん中に悠々と立つ、石を積み上げたような建造物。


古代に作られた遺跡のようなものが、俺たちを迎えたのだ。


「……リアス、この島にはなんか文明でもあったのか?」


「いえ、何も聞いていません……こんな遺跡が存在するなんて……」


「がっはっは!! 今日はハプニングの連続だな!」


俺とリアスが戸惑っている一方、レオはこの状況を楽しんでいるようにすら見える。とんでもない大物だ。いや、大馬鹿というべきか?


「中は真っ暗だな。こいつは……地下への階段か」


入り口を覗いてみると、入ってすぐに下り階段があるようだ。この建物は見かけだけで、実際は地下を進んでいく構造らしい。


流石にこの暗闇を探索するわけにもいかないか……サラちゃんが居れば道を照らせるんだが……


「……! そうだ! サラちゃんたちは……!」


辺りを見渡してみるが、それらしい人影は見当たらない。困ったことにこの遺跡の周囲は石畳になっていて、そこで足跡も消えてしまっている。


「まさかこの中に入っていったんじゃないだろうな……!?」


俺はもう一度遺跡の入り口を覗き込む。暗闇から帰ってくるのは空洞音ばかりで、俺の疑問には何も答えてくれない。


「落ち着いてください。少女二人だけでこんな得体のしれない遺跡に入っていくとも考えにくい……手分けして辺りを探してみましょう」


「がははは! その通り! ここからでは死角になっているところもあるようだからな!!」


その後、俺は遺跡の周囲を、リアスとレオは俺たちが来た方向とは別方向の森側を探し始めた。


主に地面に注目しながら遺跡の右側面へと移動する。ここに留まっていないとしたら、足跡でなくても歩いたような跡が残っているはずだ。


ええい、このあたりも土だったらこんなに苦労せずに済んだものを……心の中で愚痴を呟きつつも遺跡の裏側へ回る。


「……!」


遺跡の角のあたりに何か見えた。魔物ではない。あれは……杖の先端だ。


「まさか……!」


ここからでは先端のほんの少ししか見えないが、その形状には確かに見覚えがある。あれはサラちゃんの杖に間違いない。


完全に倒れているようにも見えるが、隠れているところがかすかに浮いていることから、なにかに立てかけられていることがわかる。


「サラちゃん! そこにいるのか!?」


大声で呼びかけてみるが、返事はない。杖が動く気配もない。


俺は息を飲んだ。脳裏に最悪の光景が浮かび上がる。地面に横たわり、ピクリとも動かず……その体を赤い液体で彩った彼女の姿が。


「っ!」


俺はそんな幻影を振り払い、そこへ向かって走り始めた。遺跡の裏側の、右角から左角へ。


遺跡は奥行きはそうでもなかったが、幅はそれなりにある。息を切らすには十分な距離だった。


「はぁ、はぁ……サラ……ちゃ……ん?」


息を整え、恐る恐る角から顔を覗かせる。


そこには……


「すぅ……すぅ……」


「……」


……寄り添いながら安らかに寝息をたてるサラちゃんとフロワの姿があった。

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