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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、運命の分岐点
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EMQ:アヴェント防衛戦-機巧

幾度にも渡って砲声が鳴り響き、その数だけ地面からは爆炎が上がる。そしてその度に下級悪魔が次々と倒れていく。


圧倒的な殲滅力。『ザ・サード・フリート』の登場により、拮抗していた戦況は一気に冒険者側の優勢へと傾いた。


「おいおいおい! 今度はなんだ!?」


「機巧士(マシニスト)だ。まさかまた見ることになるとは……」


「機巧士(マシニスト)ォ!? あの事件は解決したはずじゃ!」


「そ、それに、水が浮いて……!?」


「だ、だが凄い力だ! 悪魔が一気に減ったぞ!」


「余所見をするな! この隙に体制を立て直すんだ! 砲撃には巻き込まれるな!」


冒険者たちから上がる戸惑いと歓喜の声、そしてそれらに喝を入れるルツァリの声。無論彼女も機巧士(マシニスト)の投入については把握している。最も決まったのが直前であるために冒険者たちへの周知がされていなかったのは落ち度だと考えているが。


「……それで、いったい何がどうなってんだ……こいつぁ」


一方、イブリスは目の前で起きていることを理解するのに苦労していた。


戦況が良くなっていることは喜ばしいことだ。敵の数が圧倒的に減ったことでこうして少しばかり休息の時もできた。


「流石ミリスですね。あれだけの質量の水を水脈から吸い上げるとは」


「……あの水は緑属性の力か……」


これがミリスの語った大仕事(・・・)である。よく見てみると水の塊の下にはミリスを中心に複数人の魔導士が集まり、水に魔力を送っている。


「それよりラディス。『ザ・サード・フリート』が居るってこたぁ……」


「勿論、俺もいる」


かすかに聞き覚えのある声がラディスの代わりに答える。


「……!」


「久しぶりだな……事情は聞いている。あの少女と顔を合わせられないのは残念だがお前たちと再会できただけ良しとしよう」


現れたのは、車椅子に乗った細身の男。


いや、細身……ではない。明らかに栄養の足りていない、痩せ細った身体つきと言うべきか。


身体の上から下まで、骨に皮が張り付いているような男。しかしイブリスはその顔に、確かに見覚えがあった。


「お前……そう、確か……」


「ハンニバル(・・・・・)。そうですね?」


記憶を探るイブリスよりも先に、フロワがその名を答えた。


「そうだ。まさか名まで覚えられてるとは思ってなかったがな」


男は少し嬉しそうに口を歪める。


その男は……かつて、イブリスたちが機巧士(マシニスト)と戦った時。マルメールの海のはずれの無人島に捕らわれていた"実験体"、オーブリット・ハンニバルだったのだ。


「ヒュグロンギルドの一件の後、あの島に捕らえられていた彼は"機関"が保護していました。あの強制具現化装置から解放し、療養してもらっていたんです」


「それで、今回戦力として駆り出されたと……?」


「そういうことだ……おっと、お話に夢中になってサボっては駄目だな」


言うや否や、戦艦から次々に砲撃が飛ぶ。以前、あの船を具現化させられていた時とは違って完全に自分の意志で操ることができているようだ。


「これでもまだ療養中なんだがな」


見ればわかる、とその場に居る誰もが呟きそうになった。


「何度も言っているけれど、少しでも戦力が惜しいからね。特に機巧士(マシニスト)が味方に付くとなればこれほど頼もしいものもない……危ないよ?」


「うおっ……」


イブリスの背後から迫っていた悪魔がラディスの時空斬によって斬り裂かれる。


「それだけじゃあない。どうやらこいつを試したいらしい」


ハンニバルは尚も『ザ・サード・フリート』を操りながら、首にかけていたペンダントをイブリスたちに見せる。


それは機巧士(マシニスト)たちが兵器の具現化のために使っていたペンダントに見えた。しかしどうやら少し意匠が違うようだ。


「アリムとかいう女が具現化機構に興味を持ったらしくてな。他の機巧士(マシニスト)どもと同じように俺の兵器も小型化してくれた。代償としてあの船一隻しか具現化できなくなったがな」


だがそれで十分だ、とハンニバルは続けた。事実、この様子を見る限り護衛艦までは必要なさそうだ。


「おおおおおおお!! 素晴らしい!! 私の子が! 私の子があんなにも!!」


――遠くから聞こえてきた叫び声は、その場に居る全員が聞かなかったことにした。


「兎に角、殲滅は俺に任せろ。お前たちには撃ち漏らしの処理を頼む……流石に近くには撃てん」


「承知致しました。……イブリス様」


「わかってる。行くぞ」


イブリスとフロワは遠距離の処理をハンニバルに託し、周辺の悪魔を倒しに走る。先ほどイブリスが襲われかけたように、全ての悪魔を『ザ・サード・フリート』が殲滅できるわけではないのだ。


「僕も各所の支援に向かう。くれぐれも無理はしないでくれ」


「……心配するな。倒れそうになったら具現化はやめるさ」


イブリスたちを見送ったラディスも、ハンニバルに一声だけ言葉をかけて戦いに向かう。


……そして、一人残されたハンニバルに近づく人影がひとつ。


「へっ、倒れそうになったらか。俺には既にへろっへろに見えるがね」


「……お前、何をしに来た」


「別に? ただ任務をこなしに来ただけさ」


ハンニバルに邪険な態度をとられた人影は口元を歪ませて戦場を見た。


「与えられた任務を"成功"させにな」


* * *


「元々が数が数とはいえ……結構残ってやがるな……!」


悪魔の上げる奇声と、冒険者たちの叫び。再び前線へと出たイブリスを待ち構えていたのは相も変わらず多数の下級悪魔たちだった。ハンニバルの援護もあって先ほどよりは少ないが、それでも大群と呼ぶには十分な数だ。


「おい! その辺の奴、気を付けろ! "holE"!」


イブリスが左手を通して放った弾丸が地面に着弾すると、そこを中心として底なしの穴が開いた。翼を持たない下級悪魔たちは、次々とその穴に飲み込まれていく。周囲の悪魔たちを軒並み飲み込んだ後、その穴は閉じてしまった。


戦闘開始直後と違うのは、黒属性魔法がある程度気兼ねなく撃てるようになっていることだ。悪魔の数が減っているこの隙に負傷した冒険者たちは一旦下がっており、巻き込みのリスクが格段に減っているためである。


「うお……! おい、危ないだろ!」


「俺はちゃんと警告したぞ」


それでも、リスクはゼロではないが。


「グゲッ」


「皆様、周りを見る余裕はあまりないのでしょう」


「わかってる。これでも気を使って撃ってるんだぞ」


悪魔の数が減ったとはいえ、こちら側も減っている分、数の利を得たわけではない。他人に気を配る余裕ができたわけではないのだ。


イブリスがある程度周りを見られているのは、フロワの存在ゆえである。フロワはイブリスの背中に立ち、近づく悪魔たちから彼を守っている。


二つに分けられた盾を振り、右の悪魔を押しつぶし、左の悪魔を突き飛ばし、着々と悪魔を捌いていた。


次は正面から。盾を結合させ、攻撃に備える……その時だった。


「……! イブリス様ッ! 備えて下さいッ!」


結合させる盾の隙間から、フロワが何かを見た。イブリスに注意を促し、思い切り足を踏ん張っている。


「どうした……何っ!?」


突然の切羽詰まった発言に、イブリスが振り返ったその瞬間。


フロワが、盾ごと吹き飛んだ(・・・・・・・・)。


「フロワッ……!? くそっ……! 一体何だってんだ!」


フロワへと意識を向けつつも、攻撃された方向へと銃を向ける。あのフロワと大盾をこうも簡単に吹き飛ばしてしまう火力。どれほどの力を持った悪魔なのかと。


「おっとぉ、すまんすまん。狙いが逸れちまった。少しばかり砲撃を"失敗"しちまったぜ」


が、意外にもその先に居たのは悪魔ではなく、人間であった。角もない。至って普通の人間だ。ただ一点――戦車を携えている(・・・・・・・・)ことを除いて。


「人間だと……!? お前、何者だ!」


「ナニモン? おいおい黒の魔術師さんよ。忘れちまったか?」


その口ぶりから、イブリスが知っている人物であることは容易に想像できた。そして、今はもうイブリスの記憶にない人物であることも。


「……ペンドラゴン。あなたは、チャリアス・ペンドラゴン……そうですね」


立ち上がったフロワが、その名を呼んだ。


「ああ、そうさ。久しぶりだなぁ、お前ら」


「丁度……この辺りから記憶が消えてしまっているのですね。彼は私たちを襲った、最初の機巧士(マシニスト)です」


「……!」


フロワがこっそりとイブリスに彼の正体を告げる。


戦車『アルビオン』を駆る機巧士(マシニスト)。この戦闘に参加する機巧士(マシニスト)は、ハンニバルだけではなかったのだ。


「確か貴方は収監されていたはずですが」


「釈放だよ、一時的にな。この戦いが終われば逆戻りだ。まあ……」


『アルビオン』からの砲声が、一発響く。


「これが終われば刑期短縮らしいから、それなりに気合は入ってるがね」


この戦いに協力すること。その代わり、刑期を短縮すること。それが、彼と"機関"の間で交わされた契約である。


「まあ、前は敵だったが今回は味方だ! 互いに健闘を祈るとしようや」


ペンドラゴンはそれだけ言い残すと戦車の上に飛び乗り、周囲の悪魔の殲滅を開始した。巻き込まれないよう、イブリスたちは少し後方へと下がる。


「まさか……囚人まで駆り出すたぁな」


「しかし大きな戦力であることに変わりはありません」


フロワの言う通り、戦車からの砲撃と、ペンドラゴン本体からの魔法攻撃によって、とてつもないスピードで悪魔たちが倒されていく。他の冒険者たちを巻き込みそうで少々危なっかしいが。


いまだ続く『ザ・サード・フリート』からの攻撃も合わせ、冒険者側の勝利は目前かに見えた。辺りの冒険者たちの表情からも希望が感じられる。


「うわあああああああああ!!」


「――!」


だが、悪魔たちがそう簡単に勝利を許すはずもなかった。


突如として響いた、冒険者の『恐怖』の叫び声。イブリスたちの脳裏に走る、ある人物の顔。


「まさか……!」


「ええ、そのまさかよ」


果たして予感は的中した。イブリスたちの目の前に、『カルテット』の一人、イーグル・アイが現れたのだ。


彼女が通ってきた道筋には、恐怖におびえ、気を失った冒険者たち。彼女の能力の被害者か。


「イーグル・アイ! やはりお前たちも来ていたか……!」


「当然じゃない。この襲撃は私たちが指揮しているんだから……残念だけど、今回はあなたとゆっくりお喋りするつもりはないわ」


イーグル・アイの周囲に、何本ものダーツが出現する。


「っ! イブリス様!」


「さっさと倒れちゃいなさい」


フロワが咄嗟にイブリスの前に割り込み、盾を構える。


そして、空中に静止していたダーツたちが一斉に二人に飛来し……


「ちょーっと待った」


「!!」


なかった。


ダーツが動き出す瞬間、弾丸の雨が降り注ぎ、全ての矢を撃ち落としたのだ。


無論、撃ったのはイブリスではない。こんなにも大量の矢を撃ち落とせるほどの連射速度を持った銃……それを扱えるのは一人だけだ。


「よお、いーぐるちゃん。元気だった?」


カイリ・コウナギ。


サブマシンガンを持った彼が悪魔の翼を生やし、空中からイブリスたちを見下ろしていたのだ。

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