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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、運命の分岐点
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EMQ:アヴェント防衛戦-開戦

「悪魔どもが来たぞ!」


「落ち着け、落ち着け……!」


「兵器の準備は整ってるか!? 強化魔法は!?」


戦闘前のざわめきがけたたましい怒号に変わる。眼前の景色を埋める悪魔たちはまだ少し遠いが、到達するのも時間の問題だ。


「なんつー数だ……! フロワ、防御は任せたぞ!」


悪魔の大群を見据えたイブリスは銃の撃鉄を起こして初弾に備えながらフロワに呼びかける。


「ご心配なく。身を挺してお守り致します」


フロワは大盾を展開してそれに答えた。


その瞬間、フロワの盾に何者かの魔力が流され、魔石による拡張防壁も起動される。


「――!」


「礼はいらねぇぞ嬢ちゃん!」


フロワの盾に魔力を与えたのは名も知らぬ男性のプリーストである。


フロワだけではない。辺りを見ると冒険者たちはそれぞれ互いに協力し合って戦闘態勢を着々と整えている。


冒険者たちの先頭には戦車をはじめとした魔導兵器――機巧士(マシニスト)によって顕現されたものではなく、本物である――がずらりと並び、その砲塔を悪魔たちへと向けている。


「総力戦、か……!」


イブリスもまた"誰か"からの強化魔法を受け取って、ひとり呟いた。


新米も熟練も、何百という冒険者たちが、悪魔の軍勢という脅威を前に団結している。普段自分を邪険にしている者も、普段街ですれ違うだけの者も、顔すら覚えていない者も、皆が一つになっている。


「待ってろ、サラちゃん……すぐに終わらせる」


勿論、今はこの場に居ない少女もその中のひとりだ。


――イブリスが静かに自身を奮い立たせた時、それは起こった。


「おい! なんだありゃあ!?」


ひとりの冒険者が、空を見上げて叫んだ。悪魔の群れの中から、黒い"何か"が上空へ向け撃ちあがったのである。


"何か"はあっという間に空高くへと上昇していき、そして……弾けた(・・・)。


「……魔法だ」


また、誰かが呟いた。


弾けた"何か"は無数の黒い炎となり、冒険者たちへ向かって急降下してくる。


悪魔と冒険者の接触を待つまでもない。アヴェント防衛戦は、超広範囲の黒属性魔法による悪魔たちの先制攻撃で幕を開けた。


* * *


「"fireworkS"」


「なんだって?」


「"fireworkS"だよ、あの魔法の名前。あんな真っ黒な花火が夜空に映えるとは思わないけどな」


イブリスたちから少し離れた位置。黒い炎が降り注ぐ空を見上げてカイリとルツァリが言葉を交わす。


カイリが"fireworkS"と呼んだ魔法。現在はプリーストたちが空へ防壁を張って凌いでいた。


「拡散する分あの炎一発一発の威力は控えめだ。ま、見ての通り広範囲への軽い攻撃を目的とした魔法だな。流石にこれほど広いのは『カルテット』の奴らくらいしか撃てやしないが」


冒険者たちが慌ただしく動く中、カイリは余裕綽綽と魔法の解説を行っている。その中でさりげなく示唆された『カルテット』の存在に、ルツァリは眉をひそめた。


「慌てるな! これは牽制だ! 防御はプリーストたちに任せ、各自接触へ備えろ!」


ルツァリの一喝でざわめく冒険者たちは静まり返る。『接触に備えよ』。声の届かぬ所へもその指令を伝えるために"機関"戦闘部の伝令係が走り出した。


「いい声だ、ねぇちゃん。ただ悪魔たちを舐めちゃいけないな」


「何が言いたい!」


「威力は控えめとは言ったが腐っても黒属性ってことさ」


「――!」


カイリの言葉の直後に、ガラスが割れるような音が響く。空中に展開されていた防壁の一部が、耐えきれず崩れ去ったのだ。


「ほらな?」


"言わんこっちゃない"という素振りを見せるカイリ。


もっと早くそれを言え、と叫びたくなったが、それをぐっとこらえてすぐに指令を出す。


「各自飛来する炎に警戒! プリーストは急ぎ防壁を張り直せ! 接触前に隙を見せるな!」


防壁を超えた炎を慌てて回避する冒険者たち。防壁はすぐに修復されたが、また違う箇所が次々と破壊されていく。


「……やれやれ、しょうがねぇなぁ」


パニックに陥った一同を見て、カイリは呆れたように空を見上げる。


「"absorptioN"」


――そして、空一面に、魔法を吸収する黒い霧を展開した。


霧は陽の光を隠し、更に降り注ぐ炎を次々と喰らっていく。


"absorptioN"は吸収する魔法が強いほど厚く張らねばならないが、"fireworkS"は拡散する魔法。であれば、今のように薄く広範囲に広げた霧であっても吸収は容易い。


「そしてぇッ!」


全ての炎を吸収し終えたカイリは悪魔の翼を広げ、一同の頭上へと飛び立つ。悪魔であることを隠す気は早々になくしたらしい。角も隠匿魔法を解いていて丸見えだ。


突然味方陣営から飛び上がった悪魔に、冒険者たちは更にざわめく。


「あの馬鹿! 混乱を増やしてどうする!」


ルツァリが叫ぶのもお構いなしにカイリは空で位置につき、掌を突き出した。


「"releasE"!」


刹那、突き出した掌から極太の黒いレーザー・ビームが発射された。吸収した"fireworkS"の力を凝縮して発射したのである。


カイリの放ったビームは悪魔の群れに突っ込み、直線範囲の悪魔たちを地面もろとも焼いた。


「ふう、いきなり大技だ」


吸収した分を吐き出したカイリは軽く戦場を見下ろす。双方の集団が接触するのももうすぐだ。


「ありゃ?」


そのまま悪魔サイド、続いて冒険者サイドを眺めていたカイリは、あること(・・・・)に気が付いた。


「……剣聖サン、どこいった?」


* * *


「あいつ、いきなり何やってんだ!」


同刻、再びイブリス。


「おい、今のはなんだ!?」


「何!? どうして私たちの方に悪魔が居るの!?」


突然の味方側の悪魔の登場に、こちら側も案の定パニックが加速している。


「お、おい、黒の魔術師! どうせあいつもお前の仲間だろう!?」


「違う。断じて違う」


ある意味湧きだして当然の疑問には即刻否定を返した。


まあ、知人(・・)ではあるのだが。少なくとも仲間(・・)と言えるほど関係は発展していないだろう。まだ信用もできていない人物をそうは呼べまい。


「ルツァリ様からの伝令です!」


混乱のざわめきの中に、伝令係の声が轟く。


「『あの悪魔は味方だ。後に説明するので、先の伝令通り接触に備えよ』とのこと!」


「……確かに、混乱している場合ではなさそうです。皆様」


見ると、悪魔たちは既に目前に迫っていた。接触まであと15秒。


「ちぃ! なんだか腑に落ちねェがあんだけ強い悪魔が味方だってんならありがたく頼らせて貰うか!」


「そ、そうね! あの子の言う通り、今は混乱してる暇はないわ!」


目の前の謎より目の前の危機。混乱をどうにか抑え込んだ冒険者二人が得物を構え、他の冒険者もそれに続いた。接触まであと10秒。


「気合を入れたところすまんが、初撃は俺にやらせてくれ」


勇んで足を踏み出そうとした斧を持った冒険者を、イブリスが引き留める。あと8秒。


「黒の魔術師……! 抜け駆けしようったってそうはいかねぇぞ!」


「ちげぇよ、巻き込まれると困るんでな。どいてろ」


距離はすでに大量の下級悪魔たち一匹一匹の姿がはっきり見えるほどだ。イブリスは悪魔の群れに狙いを定め、自身の左手に銃を突きつけつつそちらへと向ける。あと3秒。


「数に対して俺の魔法は……強い」


あと1秒。


「"blasT"」


接触。


イブリスの銃が咆哮を上げたのは、悪魔の群れが冒険者の元へたどり着くのとほぼ同時だった。


左手を通した弾丸は無数の下級悪魔の中に飛び込むとその瞬間に大きな爆発を起こし、大量の悪魔と砂埃を巻き上げる。


銃声、そして爆発音を合図にするかのように、他の冒険者たちも一斉に悪魔たちとの交戦を開始した。


――開戦である。

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