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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、悪魔の巣へ
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-Quartet- Crow Ro Phobia その2

戦いは、イブリスさんの銃声から始まった。


魔法ではなく、銃撃による攻撃。まずは様子見といった感じだろうか。放たれた銃弾はクロウに届くことなく、ツタの一本にいとも簡単にはたき落されてしまった。


「……Shit」


けれど、そのツタは弾丸に触れた場所から黒く焦げていき、ゆっくりと消滅していく。


「銀の銃弾による浄化能力……なるほど、思っていたよりも強力なようですねぇ……」


クロウが苦い声を出し、また新しいツタが床に空いた穴からにょきにょきと生えてきた。再生しているのか、新しく生み出しているのか、それとも元からそこにあったのかはわからないけれど。


「キリがねぇな、こりゃあ。どうやら本体を叩くのが一番良さそうだ。ラディスッ!」


「言われなくても!」


イブリスさんの合図で、ラディスさんがツタへの攻撃を開始する。手数の多いラディスさんがツタを抑えて、イブリスさんがクロウを攻撃する作戦だ。


「少々数が多くて疲れそうですが……っ!」


ラディスさんが鞘にしまったカタナの柄に手を触れた瞬間、部屋中のツタが見えない斬撃で切り刻まれた。


広い部屋だけれど、ラディスさんの位置ならほとんどのツタを視界に捉えられる。一網打尽だ。


視界にはクロウも入っているけれど、こちらには斬撃は飛んでいない。イブリスさんの攻撃の邪魔をしないようにしているのか、それともラディスさん自身の魔力の温存のためだろうか。


一度に多く操っているせいだろうか、一本一本の耐久性はそこまででもないみたいで、ツタは次々と動かなくなっていく。


「ン・ン・ン……やってくれますね!」


あっという間に全滅したツタだったけれど、動かなくなったものはすぐに消滅して新しいツタが一斉に同じ場所に飛び出した。それともう一か所、ラディスさんの背後の床を突き破って少しだけ太いツタが現れる。


「――! ラディスさん、後ろ!」


「お任せを」


背後はラディスさんの視界の外……時空斬じゃあ迎撃できない。それは私はもちろん、フロワちゃんだってわかってる。フロワちゃんはツタが現れた瞬間に盾を構えて飛び出し、ラディスさんを守る位置へ着く。


直後に鳴り響いた重厚な音。ツタがフロワちゃんの盾を叩いた音だ。


「流石フロワです。素早い対応、感謝しますよ」


「お褒めに預かり光栄です。主様」


ラディスさんは感謝の言葉を述べながらも部屋のツタの処理を続けている。そしてその背後をツタから守るフロワちゃん。背中合わせで戦う二人には、確かな絆があった。


……私だって負けていられないな。


「私に任せて、フロワちゃん!」


ラディスさんの視界の外のツタ。フロワちゃんが防御に回っている以上、これに対応できるのは私しかいない。光球を飛ばしてツタへの攻撃を開始する。


直撃した光球はツタを腐らせることに成功したけど、まだ動きは止まっていない。他のものより太いだけあって耐久力も大きいみたいだ。私は次々に光球を放つ。


「おっと、そう一方的に攻撃をさせるわけには……」


「余所見してる場合か?」


「っ! Shit!」


クロウが私のツタへの攻撃を妨害したけれど、イブリスさんの銃撃がそれを阻止してくれた。クロウがラディスさんたちの攻撃に気を取られている間に接近していたのだ。


「お前の相手は俺だ。"invasioN"!」


「"absorptioN"!」


至近距離で放たれる魔法。イブリスさんの魔法はクロウの前に現れた黒い霧に吸収されてしまう。


「"blasT"!」


「っ……!」


けれどそれは予想済み。イブリスさんは間髪入れずに次の魔法を放った。クロウは立て続けに放たれた二発目の魔法に反応できずに正面から爆発を喰らい、怯んだ。


「あんまり何度も撃たせるな、痛いんだよ。"piercE"」


更なる追撃。鋭い針のような魔法が、クロウの仮面ごと頭を貫いた。


イブリスさんがこうも連続で魔法を放つのは珍しい。何度も銃弾を受ける左手が痛むのか、険しい顔をしている。


一方、次々と魔法を受けたクロウは……一切、動かなくなっている。部屋中のツタも次々と動きを止め、ぐったりと地面に横たわっていった。


「……やったのか?」


「油断は禁物です、イブリス」


ツタの処理に追われていたラディスさんとフロワちゃんもイブリスさんの元へと歩いていき、倒れたクロウを眺める。クロウの仮面に空いた穴からは、赤い血が流れだしていた。


……ここからじゃよく見えないな。私もイブリスさんたちのところへ行かないと。


そう思って、一歩足を踏み出したその時だった。


「――! サラさん!」


「えっ? むぐっ……!」


突然叫んだフロワちゃん。その声に一瞬怯んだ私は、背後に居た何者かの腕に捕らえられた。


「ン・ン・ン……こうも簡単に隙を晒してくれるとは。所詮はまだまだヒヨッ子ですねぇ」


「……んんっ!?」


「何っ!?」


耳元で囁く悪寒を覚えるような声。私を捕らえたのは、今目の前で倒れていたクロウだった。


「クロウ・ロ・フォビアッ!? いつの間に……!」


イブリスさんが倒れたクロウを見る。


けれど、今までクロウが倒れていた場所に倒れていたのは、道化のような姿をした下級悪魔だった。下級悪魔の死体はさっきのクロウと同じように、額を貫かれて血を流している。


「クソっ……! まさか今まで戦ってたのは!」


「eeeeeeeeeeExactly!! 貴方たちは一生懸命、対して強くもない下級悪魔と戦っていたのですよ! それをボクだと思い込んでね!」


クロウが得意げに、そしてあざ笑うように叫ぶ。


さっきと同じだ。さっきまで、私たちにはクロウのことがラディスさんの姿に見えていた。それを同じように、今度は下級悪魔をクロウの姿に見せられていたんだ。


そしてクロウ本人は、まんまと気づかれずに私の後ろに近づいていた。


「ン・ン・ン……ミュオソティス君たちの乱入があったときには少々焦りました……が! これでこの子を手に入れることができました。結果オーライですねぇ」


「みすみす渡すわけにはっ!」


「おっとぉ!」


「んぐっ……!」


ラディスさんがカタナの柄に手をかけた瞬間、クロウは私を盾にする。


「君の技は視界内を攻撃する技……こうしてミディアムスちゃんでボクへの視界を遮ってしまえば無力。そうでしょう、シラサギ君(・・・・・)?」


「――!」


クロウが突然口にした、知らない名前。それにラディスさんが驚きの表情を見せる。


「ああ、そうでした。今はラディス・フェイカーという名でしたねぇ……ククク、フェイカー。名ばかりの英雄にふさわしい名です」


「……黙りなさい」


ラディスさんが険しい表情でクロウを睨みつけるけれど、誰も動くことはできない。私という人質がかなり効いているみたいだ。


けれど、ミュオソティスという名前といい、『カルテット』たちは何を知っているのだろう……?


「まあいいでしょう。シラサギ君は解放されてしまいましたが、こちらの目的は達成しました。ルフの治療もあることですし、今日のところはこれで退散と……」


「んぐーっ!」


「Ouch!?」


私を拘束するクロウの腕が突然緩んだ。私がかろうじて動く口で腕を思い切り噛んだからだ。


私だってこのままやすやすと攫われるつもりはない。ラディスさんも助けた。このまま、皆で帰るんだ。


あの無人島でヴェルキンゲトリクスに攫われてしまった時のような……あの時のようなことは、もう繰り返さない。


「サラさんっ!」


「フロワちゃん!」


緩んだ腕をすり抜け、フロワちゃんの元へ腕を伸ばして走り出す。対したことのない距離のはずだけれど、今までで一番長い距離を走っているみたいだ。もっと速く。頭の中で何度も言い聞かせて脚を動かす。


あともう少し。あとほんの数センチでフロワちゃんの手に届く。


……そんなところで、私の体は無慈悲にも強い力で引き戻された。


「クッ……肝を冷やしましたよ。やれやれ、やけに原始的な方法で脱出を謀ったものですねぇ」


私の体にツタが巻き付き、再びクロウの元へ引き寄せられてしまったのだ。


「放してっ! 放してくださいっ!」


「No! Noですよミディアムスちゃん。もう彼らの元へ戻ろうなんて考えられないようにしてあげましょう」


紫色の百合の花を咲かせた何本ものツタが、私の体に近づいてくる。


ダメだ、あの花の匂いを嗅いでしまったら……私は思い切り息を吸い込んで、止めた。少しでも匂いを嗅ぐまでの時間を稼ぐために。


イブリスさんたちが攻撃して数を減らそうとしてくれているけれど、あまりの数の多さに処理が追い付いていない。私の肺活量もあまり多いほうではないから、息を止めるのも長くは続かない。


肺活量の限界は、思っていたよりもずっと早く訪れた。花の咲いたツタはまだまだ残っている。


ああ、だめだ。私は遠のく意識の中で思い切り口を開いて――


――息を吸い込んだ、その瞬間だった。


「What?」


クロウの頭を、銃弾が貫いた。


「……何者です?」


「裏切り者です」


間が抜けるような返事の後に、銃声が立て続けに響いた。何発もの銃弾がクロウの頭を、体を、手足を襲う。


私はこのあり得ない速度の連射を知っている。クロウの言葉に返答したあの声を知っている。


「そんな、どうして……?」


「今言ったろ、裏切り者ですって」


私が奇襲を仕掛けたその人物に困惑の表情を向けると、彼はにやにやとした顔で私を見つめ返してきた。


「また会ったな、えーと、サナちゃんにフロアちゃん。合ってる?」


『カルテット』の一人、グース・ペンネが、銃を携えてそこに立っていた。

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