年の功
王都から15キロ程離れた所に位置する、第二都市。
王都の次に栄えているだけあって、街並みは華やかでしかも一般の人が多い。商人や兵士は王都に流れる傾向が強いからだろう。
だがオズは、そんな事を頭の片隅に入れる余裕などないぐらいに疲れていた。
それもその筈。
普通なら車で行くような距離を、オズとリオンの二人は徒歩で渡ったのだから。加えて言うと、5キロでもダウンしてしまう人間は世の中に溢れている。
「む、無理」
もう足がパンパンだ。
オズは、独特の痛みに顔を顰めながら足を摩る。
「朝に王都を出たのに、もう夕方とか……」
つまり丸々一日を足の運動に費やした事になる。
前述したが、普通ならば車で行く様な距離をマトモな運動をした事もないオズが完歩できたこと事態が奇跡なのである。
本人も、まさか街まで辿り着けるとは思っていなかっただろう。途中リオンに「あと5キロ強ぐらい」とアバウトな説明をされた時は、意識がフェードアウトしそうになった筈だ。
「よく頑張ったな。いつギブアップするか見てたんだけど……」
感心した様なリオンに少しムッとする。
「そんな事言って、もし本当に俺がギブアップしたらどうするつもりだったの?」
少しの嫌味を込めて訪ねる。すると間もなく、返事は真顔で返ってきた。
「もちろん背負うけど?」
実に男前の発言。
思わず固まり、尊敬の目でリオン見てしまった事に慌てて頭を振った。
だが言った本人が余裕の表情なので、本当にオズを背負って歩く事が可能なのだろう。それを確信し、疲れ切った表情ながらも驚きの声を上げた。
「何でリオンは平気そうなの!? 同じ距離歩いたはずなのに……」
自分とは違い、涼しげな表情で立っているリオンにショックを受ける。自分の方が幾らか歳が上だろうに、あまりにも体力の差があり過ぎはしないだろうか?
ガーンという効果音が付きそうなぐらいしょぼくれているオズに、少し得意げなポーズでリオンが鼻を鳴らした。
「そりゃまぁ、成長期真っ只中ですから。体力も有り余ってるぜ」
「え? リオンって何歳?」
「十五歳だけど?」
「雪那と同じだし……」
実はオズの弟、雪那も十五歳なのである。
まさか日本で中学生をしている年齢だとは思っていなったので、素直に驚いた。寧ろ、弟と同じ年だという事の方に衝撃を受ける。
(て事は、5歳年下……?!)
因みにオズは20歳。今年21歳になるので、年齢的には立派な大人。
……知識はまだまだお子ちゃまレベルだが。
自分とは違い頼りになるリオンに、落ち込む気すらなくなってくる。
だがそんなオズの心境など露知らず、怪訝な顔をしたリオンが首を傾げた。
「雪那って誰だ?」
聞こえていたのか。
しまったと思いながら苦笑する。
雪那の所在が掴めない今、矛盾を生んでしまうような発言はできない。つまり『雪那』が『弟』だと知られるのはあまり良くないのである。
聡いリオンならば、オズがこの世界の住人ではないと気付いてしまうかもしれない。
それに、別に信用していないわけではないのだがリオンは何かを隠しているような気がするのである。
検門の時、オズに国籍がない事をなぜ知っていたのかについても今思えば謎ばかり。かと言って幾らリオンでも、まさか住んでいた世界が違うからだとは思わないだろうが……。
「俺の、大切な子だよ……」
結局、別の表現によってはぐらかす事にした。言ってみると少し恥ずかしい。
因みに嘘は言っていない。
雪那が大切な『弟』である事に変わりはないのだから。
リオンが眉を顰める。だがそれも一瞬の事で、オズがリオンの表情の変化に気付く事はなかった。
代わりに、ニヤニヤとしたリオンの表情を目撃する事になる。
「それにしても、お前に大切な人がいたなんてな〜。意外や意外」
「?! 雪那はそんなんじゃないよ!」
「はいはいご馳走様です」
何やらリオンは勘違いをしている。
だが下手に訂正する事もできないオズは、リオンに口を挟む事を辞めた。それに挟んだら挟んだでもっとからかわれそうだ。
吐いた溜め息と共に、忘れかけていた疲れがドッと押し寄せてくる気がした。
───この後結局、ダウンしたオズをリオンが背負うハメになったのだが……それはまた別の話。




