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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第4章『ヴァニパル戦線』
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(6)『闇と人外の遭遇』(改稿済み)


 悲しい――。


 苦しい――。


 壊したい――。


 殺したい――。


 壊したくない――。


 殺したくない――。


 “望まれない非存在の存在”ノウェアの頭の中を、どす黒い感情と相反する感情が双方同時に目まぐるしく蹂躙する。

 狂う。狂う。存在を保つだけで、生きているだけでたがが外れ、倫理の全てを嘲笑うかのように脳内で周囲の全てを壊していく。それを抑えているのはノウェアにとってたった一つの希望の光。全ての黒い感情を抑制し、塗り潰すだけの可能性を持つ“優しさ”シャルルの人格だった。

 それでも、その“闇”は破壊というベクトルを持ち、その殻すらも破壊しようとする。抑えようとしても積み重ねられた誤差はいずれ周囲に牙を剥き、シャルルの愛するものすら全てを壊し尽くす。

 シャルルはそれでも、ノウェアを切り捨てようとはしなかった。

 殺せばいい。

 壊せばいい。

 それを訴えても、彼女はただ黙って首を振る。

 彼女は、優しすぎる。

 全てを壊しかねない優しさだった。

 全てを壊せる力を持っているノウェアですら、彼女の悩みを殺すことはできない。


「だったら自身を殺せばいいんじゃないですかぁ~? 黒き森(シュヴァルツヴァルト)の魔女、シャルロット=D=グラーフアイゼン!」

「あはははははははっ、あー、おかしい。遅れて登場みたいな? ぷっ、あははははっ♪」


 突如、耳に入る嘲るような声と笑い声。

 全てを破壊することができる自分が、もう一つ絶対に破壊できないもの、それが自分だ。


「それならば私たちで貴様を殺してやるのです~」


 ノウェアにはわかっていた。

 何者も、シャルルという殻を破壊せず、自分を壊すことはできないということを。


「浅ましいですねぇ~、貴女この時間までに殺した人数知ってますか~、568万人以上ですよ~」


 キサマラニ、ナニガワカル……。

 ノウェアは癇に障る声の主、その連中のいる後ろを振り返る。


「断罪兵器『戦々狂々(ドッペルシュナイデ)』のチェリーちゃんですよ~」


 少なくとも右足と左腕が生物のものでない異形の少女と、その異形の少女を指さして腹を抱えて笑う少女がそこに立っていた。


「ぷっ、あはっあはっ、チェリーちゃん、マジあり得ねぇですよ。自分で“ちゃん”付けとか、お前いくつだよ、あはっはーッはーッ……や、やば、呼吸が……」

「うるさい!」


 一閃。

 二閃。三閃。四閃。五閃。六閃。七閃。

 異形の少女チェリーの持つ大鎌が抱腹していた少女の身体を瞬く間に細切れにした。


「いやいや、いきなり身体バラバラとかマジ正気ですか?」

「お前なんでついてきてんのよ。うざいったらないわ」

「バラバラにしてやりましょうか?」


 肉塊と話す異形の少女。

 その異常に異形たるシャルル、いやノウェアは思わず後ずさっていた。

 瞬きの一瞬、肉塊は消え、先程の少女が再び姿を現した。瞬く間に、蘇生した。


「っつーか、何でわざわざ海越えてまでこんな危ないルーラーと接触してるんですか? 上からは何も言われてませんが。始末書の種類をコンプリートしたい気持ちは全くわかりませんが、やめてくださいね」

「私様に意味不明の嗜好をつけるな。暇潰しに遊んでやろうと思っただけです~」

「調子ぶっこいて遊ばれてくれませんか。このボロ雑巾」

「アプリコット~、いい加減にしないとキレてもいいとみなしますが~?」

「キレるもなにももうキレてるじゃないですか。一応痛いんですから、照れ隠しに人斬るのいい加減やめましょうよ」

「私がいつ照れたか~。もういいからアンタはそこで大人しく見てなさい~。黒き森(シュヴァルツヴァルト)の魔女。私にかかってくるがよいのです~」


 ノウェアはその少女に言われなくとも動いていた。

 気に障るその発声体を殺す。その感情に逆らうことなく闇に身も心も任せて……。


 グジャァッ。

 異形の少女、ではなくアプリコットの首が飛んだ。もぎ取った首を地面に投げ捨て、そのまま背中から心臓をもぎ取る。

 チェリーを狙わなかったのは何ということもない。ただ単にアプリコットの方がチェリーよりも2,38ミリメートル近かったというだけだった。

 首から噴き出す鮮血。それは間違いなく惨たらしい殺人を意味している。

 ただし普通なら。


「容赦ねぇんですね。痛えっつってんでしょうが? ったくなんでこっちなんですかね……もしかしてえっと? 2.37……いや38のせいかな? それともボクの心拍数がチェリーさんより1回多かったから? チェリーさんよりアドレナリンの量が1.21マイクログラム多かったからボクから攻撃すると思ったんですかね? それともあれですか!? 脳波を一瞬わざと乱したのに気づいたんですか? それだったら多少遊べそうで嬉しいんですけどねぇ♪」


 力任せに分断した首が喋ってるワケではない。

 すでにその首は元の場所に収まっていた。再生なんてものじゃない。いつのまにか戻っていた。


「あーあぁ、ボクの心臓こんなんにしてくれちゃって」


 アプリコットは足元に落ちた潰れて裂けた心臓をひょいっと拾い上げる。そして、血のような赤い液体に濡れたそれを顔に近づけて、くっついた土や草を乱暴に手で払いのけると――ゴクン。

 一息に呑み込んだ。

 普通の人なら顔面蒼白の上、吐いてしまいそうな光景。こんなものを見慣れている奴なんていない。

 ノウェアは1歩下がって身構える。


「ん? ああ、アンタはボクについては警戒する必要ありませんよ。ボクは手ェ出す気はねえんですから。こっちにしか」


 そう言ってチェリーを指さす。


「アプリコット~? 貴女はどっちの味方なの?」

「ん? 少なくともチェリーさんの味方じゃねえです」


 ガァン!

 ノウェアの目がかろうじて捉えた何かの金属塊は、チェリーの左腕の先の穴から高速で飛び出し、不気味な不死身女(アプリコット)の頭を貫通した。

 噴き出す鮮血。飛び散る脳漿(のうしょう)

 次の瞬間には、何事もなかったかのようにアプリコットは笑っていた。


「いつまでボクに物理攻撃が効くなんつー迷信を信じてるんですか? 何度も言いますが、ボクは最新式なんですからそう簡単には壊れませんよ」

「黙れくず鉄、弾けろ雑魚が」


 ガァン!

 ノウェアの左胸を、さっきと同じ形の金属塊(バレット)が貫通した。

 背中側に、噴き出すように飛び散る血、いや――闇。


「ヤツザキ……『ナナチギリ』!」


 ノウェアが呟くと同時に、右手がピクと動き、その輪郭がブレ――ズシャアアッ!

 瞬く間に、チェリーの身体を闇の刃が通り抜け、大小八つに分解した。

 ヒュウッと傍観していたアプリコットが口笛を吹く。


「なんか、データベースと違うようですね。身体だけは人間と大差ないってあったのに。どうして死なないのか興味はありますが、っつってもそれほどの興味はねえんですけどね。参考までに何をしたんですかっつって、はッ、言葉が通じる相手じゃ――」

「サツガイ……『テンメイ』!」


 ノウェアの身体を離れた小さな闇が、アプリコットの右胸をすり抜けた。


「お。心臓止まった……。すごいですね。それって『闇の眷族』……なんかちょっと違うような気もしますが、あ~さっきは弾が通り抜けた時、一瞬だけ闇と同化したんですか……。情報処理課の奴ら帰ったらバラバラですね。このボクに嘘教えやがったんですからね。ってあれ? 自己修復(オートリカバリー)が効かない……。へぇ、“寿命”をずらしたんですか! いくら人外でもボクは寿命で滅びたら戻りませんしね」


 くふふっ、と悪戯っぽい笑みを浮かべたアプリコットは、どさっと背中から地面に倒れ込んだ。


「トドメささないでくれたらいいこと教え――」


 グシャッ。

 瞬く間にアプリコットの頭上に現れたノウェアの足が振り下ろされ、アプリコットの頭部は潰され、地面に陥没した。


「……」


 バラバラになったもう1体を無言で見下ろしたノウェアはピクリと一瞬震え、


「アッ……グゥア……ガアアアァァァァッ――――――――!!!」


 夜の森に向けて咆哮する。血の涙を流し頭を抱えて、再び感情の闇に犯され意志持つ者を破壊したことに苛まれる。シャルルという光から流れる悲哀と後悔だ。 

 ノウェアは現実逃避をするようにその場からよたよたと歩き去り、周囲に集まり始めた黒い靄のような闇の中へ消えた。


 ノウェアがその場から消えた直後、再び元のシルエットを取り戻したアプリコットは、コキコキと首を鳴らし、


「一度帰りましょっかー。とりあえず情報処理課の連中ぶっ殺しに」


 沈黙するチェリーの隣で呟いて息を殺した。

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