表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第3章『マルタ城砦』
64/121

(22)『仲直り』(改稿済み)

「アルヴァレイさん?」


 我に返ると、見慣れた風景に視界が切り替わっていた。

 さっきまでいた森の中ではない。俺の部屋、テオドールの薬局にある俺の部屋だった。

 目の前にいたはずのヘカテーの姿もない。

 信じられない顔が目の前にあった。


「聞いてますか、アルヴァレイさん」


 向かい合うように座っていたのは、シャルルだったのだ……!


「シャルル?」

「はい? 何でしょうか」

「お前……何でここにいるんだ?」

「え? ダメなんでしょうか……?」


 いや、ダメじゃねえけど。

 というか俺、ブラズヘルの砦にいたはずなのに。何でテオドールにいるんだ……?

 信じがたい現象に混乱した俺の頭は、後に後悔することになるひとつの答えを弾き出した。


「お前…………第13人格(シャルル)か?」

「え?」


 シャルルは首を傾げるが、音だけを聞いたシャルルは普通に頷くだけだ。

 この質問の仕方じゃだめなんだよ、落ち着け、俺……!


「お前、ヘカテーだろ。そうなんだな? 頼むからこんなことするなよ……」


 第13人格(シャルル)の肩を掴んで、前後に大きく揺する。


「どうしたんですか、アルヴァレイさんっ。何言ってるかわからないですっ」

「違う……のか……?」


 シャルルの肩から手を離す。


「私はシャルルです。アルヴァレイさん、どうかしましたか? 熱でもあるんでしょうか」


 シャルルは顔を寄せ、俺のおでこに自分のおでこをくっつけた。

 避ける暇もなく後頭部を小さな手でがっちり押さえられ、逃げるに逃げられず至近距離からシャルルの顔を見る。ほんのりピンク色に染まった頬に、自分の頬が熱くなるのを感じた。


「アルヴァレイさん、熱があるかもしれないです。ほっぺたが赤いです」

「ね、熱はない!」


 なんとかそれだけ言いきると、シャルルの肩を掴んで離す。


「お前、今なんか言ってなかったかっ?」


 声が裏返りそうになるのを必死で抑え、無理やり話を元に戻す。


「はい。アルヴァレイさんに私の家族を紹介したいです」

「家族……?」


 話は見えるけど理解が追いつかない。


「ルーナとかアルペガとかのことか?」

「え、あ、あれ? どうして知ってるんですか? 私、家族のこと話しましたっけ?」

「いや、話したとかじゃなくて」


 もう会わせてもらった、と言葉を続けようとして違和感に気づいた。


「シャルル」

「何でしょうか」

「アルペガ3頭、元気か?」

「はい、今日もルーナと一緒に遊んできました。ってなんでそれまで知ってるんですか!?」


 どうもおかしい。

 アルペガはあの晩に2頭死んでいるはずだ。しかしシャルルの声にも嘘をついてるようには思えない。しかも禁止指定種(アルペガ)の存在を知っていることを少し警戒した表情だ。

 何より、この身体が浮いてるような気分。

 明らかに何かがおかしい。まるで定められた流れに沿って考えさせられてるような……違和感があるのだ。


「アルヴァレイさん?」

「あ、ご、ごめん。何だった?」


 他愛も無い談笑が続く。あの頃はずっと続くと思っていた時間。

 シャルルが目の前にいる。もしかしたら、本当に過去に来ているのかもしれない。

 いや、もしかしたら、何となく記憶に残る思い出。

 リィラや鬼塚やヘカテーとの旅も、あの夜も、旧き理を背負う者(エンシェントルーラー)でさえも全てが夢だったのかもしれない。

 ヘカテーの呪いなんて、紙縒や康平、薬袋のことだって、全てが居眠りの短い間に見た壮大な夢だったのかもしれない。


「そう思えるほどの幸せな時を懐古させる、それが私の『僥倖懐古(プレシャス・メモリー)』なんです。落ちつきましたか?」


 心配そうに顔を覗き込んでくる、黒髪の少女。そこは森の中だった。

 つまり――――現実に引き戻された。


「私の力に害はないんですよ。人が落ち着けるような環境を提供するだけですから。大丈夫ですか?」


 人を……落ち着ける。

 落ち着いたところで何になる。

 ヘカテーが呪われていることに変わりはない。それがこの行動の理由だから……。

 黒髪の少女はクスリと笑うと、小さく手を振った。

 次の瞬間には、へたりこんだヘカテーの姿に変わっていた。


 ちょっと待て。

 俺は何をしていた?

 ヘカテーに何を言った?


“呪われてるんだろ?”


 何だ、この言い方は。

 あまりにも、ヘカテーのことを考えてやっていない言動。ヘカテーの話を聞こうともしないで、最初から呪われていると決めつけた言い方をして。

 結果的に呪われていたのは事実だったようだけれど。

 呪われているからって、それを隠してたからって、ただの女の子と何の変わりもないヘカテーに俺はどんな言い方をした?

 ヘカテーは泣いてしまっている。

 なんで泣いてる?

 泣かせたのは俺だ。

 シャルルの時はシャルルの勘違いだった。嫌な言い方をすれば、シャルルの件は俺が何かをした訳じゃない。

 でも今回は違う。完全に俺は加害者だ。

 何も知らないくせに酷いことを言って、泣かせてしまった。

 冷静に考えていたつもりだった。

 でも全然冷静じゃなかったんだ。

 あの黒髪の少女のおかげで、シャルルのおかげでようやく落ち着けた。

 それがルシフェルやヘカテーの目論見どおりだったとしても、ルシフェルやヘカテーのおかげで、落ち着いて。本当の冷静さを取り戻せた。

 それでやっと、気づけた。


「やだ……やだやだ……」


 両手に顔を埋めて、震えるヘカテー。


「ヘカテー」


 少しは優しい声だっただろうか、と心配になったが、ヘカテーがビクッと震えた辺りを見ると、さっきと変えられていないようだ。

 ヘカテーは首を激しく横に振った。聞きたくないというように耳を両手で塞いで。


「ヘカテー、ごめん。何も知らないくせに酷いことを言った」


 ヘカテーの前にしゃがみこんで、その肩に手をそっと置いた。

 再びビクッと震えるヘカテーに思わず手を引きかけ、押し留める。ヘカテーはしばらくすると落ち着いたのか、顔をあげた。


「ヘカテー、戻ろう。みんな心配してるかもしれないし」

「い……いんですか……? アル……ヴァレイさん……」

「うん。ごめん」


 詫びを入れるようにはっきりと断言すると、ヘカテーはその言葉に小さく頷いた。


「その代わり、その辺りの話を後で聞かせてくれ。もう、あんなこと絶対に言わないから。二度と言わない。二度と……ヘカテーを傷つけるようなことは言わない。約束するよ」


 呪いは恐ろしい。

 さっきまで、完全に踊らされていた。

 ヘカテーは、うん、と頷いて、顔を綻ばせると、ゆっくりと確かめるように立ち上がった。




「鬼塚を捕獲して先にヴァニパルに向かいます……気をつけて~。紙縒より」


 森の中には俺とヘカテーの2人しかいなかった。そこの木の幹に貼り付けてあった手紙に気がついて、読んでみたらこの有り様だ。本当に依頼を完遂する気あんのか、あいつら。


「置いてかれちゃいましたね……」


 と、言うのにヘカテーはどこか嬉しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ