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旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー  作者: 立花詩歌
第3章『マルタ城砦』
56/121

(14)『とある少年の日常』(改稿済み)

 基本的に前書きや後書きを書くのは苦手なので(どうしてもネタバレに入ってしまうため)


でもちょっとだけ補注を…

第3章(14)~(17)はまったく別の作品のようで「投稿するの間違えてね?」と作者の頭を心配してくれる心優しい方がいるかもしれませんが、あくまでも『旧き理を背負う者‐エンシェントルーラー』の文章であっています。

 それはなぜなのか、読んでいけばその内わかりますのでよろしくお願いします。

 前略。

 僕、狗坂康平(くさかこうへい)は不本意ながら騎士(ナイト)です。

 別にRPGに出てくるような、甲冑を着て、カッコいい西洋馬に乗り、巨大な槍や刀剣の類を華麗に振り回している美形でクールな男ってわけじゃない。

 かといって、どこぞの王族から騎士の称号を賜った貴族でもなければ、軍隊に所属しているわけでもない。

 ちなみに精神錯乱で自分のことを白馬に乗った騎士様だと思い込んでるイタい人でもない。

 まず第1にここは世界でも平和にかけては上位ランカーの国で、騎士が必要になる中世のような戦いもなく、一般人がわざわざそんな仰々しい呼び名を自称する必要も度胸もない。

 第2に僕は都内のただの公立高校1年生で、武術の経験も演劇の才能もない。

 第3に騎士(ナイト)というのはあくまで呼び名であり、自分から公言しているわけではない不本意極まりない名前なので、呼ばれ名というのが正しいかもしれない。

 ちなみに、知っての通り、騎士を連想させるような名前でもないし、性格やしゃべり方をそれっぽく心がけている訳でもない。

 ともかくだ。

 自称『何の面白味もない普通の高校生』の僕は、これまでの人生で唯一無二のイレギュラー、幼なじみの衣笠紙縒(きぬがさこより)に日常を振り回され、『騎士(ナイト)』なんて呼ばれてしまう羽目になっていた。

 何度も言うが、僕にとってはそんな学園生活は不本意以外の何物でもないのだ。


「で、何が言いたいの?」


 さらさらのロングヘアーの毛先を弄りながら幼なじみ、衣笠紙縒はあからさまに苛立っていた。原因については多分僕のせいだが、そうなった経緯に関しては理不尽この上ない。


「いや、だから……今日はダメなんだってば。今日はちょっと……」

「何よ、生理でも始まったの?」


 僕の知ってる生理は男にはない。


「今日は病院に行かなきゃいけないんだって……。紙縒だって知ってるでしょ?」

「私との約束を蹴ってまで病院に行かなきゃいけない理由なんて知らない」


 紙縒は頬を少し膨らませて唇を尖らせてそっぽを向いた。

 ちなみに約束もなにも、彼女が一方的に言ってきたことで了承をした覚えはないし、元々通院自体が毎月1回あるものだ。子供の時からそうだったから彼女が知らないはずがない。

 結局、彼女のわがままなのだ。

 ところで彼女の言う約束とは別に大した用でもなく、


『今日の放課後、行きたいところがあるから付き合ってよ』


 という今日の昼休みに屋上で一緒に昼食を食べている時に突然言われただけの話だ。

 そして、紙縒は人の言葉も聞かずに普段の2倍の早さで購買のパンを食べ終わり、僕を置いてさっさと教室に戻ってしまった。

 そして放課後、教室に彼女が来て、今に至るというわけだ。


「あの時に約束してくれたのに……」

「紙縒、一方的な要求は約束とは言わない。昼休みにちゃんと断ったし」

「違う、小学生の時の約束!」

「は?」

「『一生紙縒の奴隷になるって約束するよ!』って……」

「言ってない!」


 どんな小学生!? と心中でツッコミを入れて、紙縒の目の前でため息をついて見せる。しかし、彼女はそのあからさまな様子を見て、舌打ちした。


「もう知らない! 康平なんか死んじゃえばいいんだ!」


 グーで殴られた。

 ね? 理不尽でしょう?

 紙縒は僕の机をバンと叩いて、大股で歩いていってしまった。


「……もう何なのさ、いつもいつも」


 こんなことが1年365日ほぼ毎日続いている。常人ならキレているかもしれないな。

 僕は10年以上の長い間に少しずつ慣らされたから、今さらこの程度で腹なんて立たない。

 またか、ぐらいにしか思わない。もういいかげんに……ぐらいにしか。

 別に紙縒のことは嫌いな訳じゃない。ただ苦手なだけだ。

 紙縒本人がじゃなく、彼女の近くにいることの弊害がだ。

 紙縒という人間は何処に行っても大抵注目の的になる。

 ある方向からは羨望と嫉妬で、ある方向からは憧憬と恋慕で。

 つまり、何が言いたいかというと要するに。

 容姿に優れすぎているのだ。

 僕に対しては子供の頃からわがままだが、それ以外の、例えばクラスメイトや友達、教師や家族に至るまで、彼女は基本的に猫を被っている。

 猫を被っているというと少し言い方が悪いが、基本的には手のかからないいい子ってことだ。

 性格もいいので、どちらかと言わず好かれるタイプだ。

 そのためもあって、老若男女に限らず人気が高い。

 しかしその容姿のために近寄りにくいのか、人気の割に友達は少ない。

 そんな紙縒が単純に気を許し、いつも彼女の近くにいる僕は周りからは守っているように見えるらしい。

 実際は彼女の方から来ているだけなのだが、僕の外聞を知った紙縒は、面白半分9割うっかり一割で康平のことを"騎士"と形容した。しかも僕の目の前で。それを口火に学校では"守護騎士(ザ・ナイト)"と囃し立てられ、一躍その名を全校生徒に知らしめた。

 それが1学期の後半のことで、僕が引きこもりを本気で考えた時期でもある。


「お~い、ナイト。姫が行っちまったけど、追いかけなくていいのか?」


 声をかけてきたのはクラスの男子だ。このテの扱いはすでに当たり前になっていて、どうしようもないので甘んじている。


「今から追いかけるよ……」


 教科書類を鞄に放り込み、その口を閉めないままに、教室を飛び出す。


「世話が焼けるなぁ、もう……」


 廊下ですれ違う連中の目が、またか、と語っているようなので、まただ、と視線に乗せて送ってやる。

 そして土間でようやく追いついた紙縒の第一声は、


「まだ生きてたの?」

「残念ながらね」


 少し走っただけで息が切れてる。まったく我ながらとんだナイトがいたもんだよ。不本意だけど。


「早めに紙縒の方の用を済ませよう」

「え? 一緒に来てくれるの?」

「まあね……。その代わり、後で病院に付き合ってよ?」

「うん!」


 こうして素直にしてれば可愛いのになぁ。まあ僕以外には素直なんだけど。


「じゃあ、ちょっと病院に電話するから待っててよ」


 僕はそう言って制服のポケットから携帯を取りだし、病院の電話番号をプッシュする。

 そして、携帯を耳に当てた。


『トゥルルルルルル……トゥルルルルル……トゥルルルルル……』


 聞き慣れたコール音を聞くこと3回。


『ガチャ』

「あ、行空(ゆきそら)病院ですか?」

『こちら行空(ゆきそら)病院――』


 よかった。うろ覚えの番号だったから間違えてたらどうしようかと……。


『――ではないです~』

「あれ?」


 子供の声だった。

 小さい女の子の声。少なくとも病院の関係者ではなさそうだ。どうやら間違えたらしい。スミマセン番号を間違えました、そう言おうとして口を開いた時だった。


『ないですけど、貴方には用があるのですよ~。狗坂(くさか)康平(こうへい)さんですよね~? 今晩迎えを遣りますので何処にも行かず、家で待っていてくださいね~?』


 ピッ――と、僕は思わず電話を切っていた。


「どうしたの、康平?」

「いや、別に。番号間違えたみたい。まあいいか……今月は忘れてたって事で……」

「そう? じゃあ行こっか」

「ああ……」


 さっきの電話が何だったのかわからなかった。今晩がどうとか言ってたけど。

 この時に気になっていたことも、少ししたら気にならなくなっていた。

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