【34】 舟券師はエンジン音を聞き分ける
金子が気安く新井(舟券師)の背中に声をかける。
金子「お客さん、どうです? 伸びてる選手いますかね?」
新井「いやぁ、私にもどの選手がいいのかさっぱりで。ただ、見てると爽快ですからね。何よりあのエンジン音がたまらないです」
金子「エンジン音ねぇ。噂によるとプロの『舟券師』ってやつは、エンジン音を聞き分けてモーターの良し悪しを判断するらしいよ」
新井「へえ、そりゃすごいですね」
栗原「それ、本当かい? 俺にはどれも同じ音に聞こえるがねぇ」
金子「俺だって同じに聞こえるよ。だが舟券師ってのは聞き分けるらしいんだ」
栗原「じゃあなにかい? 聴診器でも当てて聞いてるのかね?」
金子「ははははは!」
新井(聴診器をつけてりゃ舟券師か……。じゃあ世の中の医者はみんな舟券師になっちまうな)
栗原「だいたい、この世に舟券師なんて本当に存在するのかい? ボートの配当だけで食っていくなんて無理だろう」
新井(ここに居るっつーの)
金子「全国の競艇場に必ず一人は潜んでるって聞いてるけどね」
栗原「ホントかなぁ? 誰がそんなこと言ってたんだ?」
金子「色んな奴が言ってるが、ボートレースに詳しいある小説家も言ってたな」
栗原「どこでだよ?」
金子「雑誌の対談でも言ってたし、レース場のトークショーでも言ってた。本物の舟券師に会ったこともあるそうだ」
栗原「へぇーっ。実在するんだ」




