【10】 勝率3点台じゃどうしようもない
田並「前期は最後の三国で負けて散々だったからねぇ……『三国破れて3があり』ってね。勝率3点台じゃどうしようもない」
爽香「はぁ……?(何のことだろう……?)」
爽香の右隣で食事をしていた一期先輩の女子レーサー、八巻恵夢(やまき・めぐむ・25歳)がクスクスと笑いながら助け船を出した。杜甫の漢詩『国破れて山河あり』のパロディだと気づいたのだ。
恵夢「杜甫の漢詩をもじってるのよ」
爽香「トホの監視……? 徒歩で監視するんですか? 宿舎の警備の話ですか?」
田並「明日のデビュー戦、しっかり見させてもらうよ」
爽香「あ、はい! よろしくお願いします!」
爽香は慌てて頭を下げた。
田並「デビュー戦、スタートしてからどう走るか考えていますか?」
爽香「はい! まっすぐ走ります!」
田並「うん、それが一番だ! 私もそうしているよ」
周囲の選手たちからドッと笑いが起きた。食事が終わると、田並たちは自分の部屋へと引き上げていった。
食堂に残された爽香と恵夢。
恵夢「なんか会話噛み合ってなかったけど……不思議な会話だったわね」
爽香「えっ、そうですか? 全然気になりませんでしたけど」
恵夢「ふふふ、そうね。変だと思った私が野暮だったわ」
爽香「明日は頑張ります! 埼玉支部のみなさんや、観客の声援に応えないと!」
恵夢「そんなに力入れなくてもいいと思うけどな……」
爽香「えっ! 先輩、何言ってるんですか! 最低でも3着、できれば1着を目指してバチバチに走りますよ!」
恵夢「まあ……気持ちは分かるけどね」
爽香「プロになった以上、勝負にはトコトンこだわりますから!」
恵夢「……」
恵夢は苦笑いしながら「頑張ってね」とだけ言い、部屋へ戻っていった。
自室に戻り、入浴を済ませた爽香は布団に潜り込んだ。
爽香(さあ、明日から本番だわ。無事故完走、そして目標は3着! ケブラーズボンとシューズを絶対ゲットするんだから。ふふふ……)
膨らむ野望を胸に、爽香は深いまどろみへと落ちていった。




