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ボクの最強魔法は、君の手の中でしか目覚めない  作者: muttyan


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第 5 話: 王都からの使者と、新たな旅立ち

第 5 話: 王都からの使者と、新たな旅立ち

朝の柔らかな光が差し込む『青いツバメ亭』。

 俺はいつものように、両手にセリアとエリーを繋いだまま、雑貨の品出しを手伝っていた。

「みのる、その棚の薬草、奥から手前に並べ直すんだからね! 適当に置いたらダメでしょ!」

 右隣のセリアが、繋いだ手にぐっと力を込めながらぶっきらぼうに指示を出す。

「うん、わかってるって。……ほら、ちゃんと種類ごとに分けてるだろ?」

「ふふ、みのるくんは器用だもんね。でも、無理しちゃダメだよ? 何かあったらいつでも言ってね、私がなんでも手伝ってあげるから」

 左隣のエリーは、俺の手を両手でそっと包み込むように撫でながら、甘えるような声で囁く。

 ……うん、もう慣れた。両手に美少女、という言葉だけ聞けば夢のシチュエーションなんだろうが、現世の俺にとってはただの日常。そして、この状況は俺の魔力発動条件――『肌が触れ合っていないと魔法が使えない』というクソ仕様のせいだ。

 町の人々の視線も、今では「あら、あの子たち、いつも仲良しねぇ」という温かい生温かい目線に変わっている。実際は、俺を巡る二人のヒロインのやきもきした牽制合戦が繰り広げられているだけなのだが。


「まったく、アンタのせいで、私がこんなにべったりしなきゃいけないんだから……」

 セリアが頬を林檎のように赤く染めながら、小さく呟く。

「でも、みのるくんのためなら、私、ずっとこうしててもいいよ? むしろ、他の人には指一本触れさせたくないな……」

 エリーが俺の左腕にそっと寄り添い、胸のあたりを押し当ててくる。まだ八歳だというのに、発育の良さを予感させる柔らかい感触が伝わってきて、前世高校生だった俺の理性的な胃がキリキリと音を立てる。

「ちょっとエリー! みのるにくっつきすぎよ! 品出しの邪魔でしょ!」

「セリアさんこそ、みのるくんの右手をぎゅっと握りすぎじゃない? みのるくんが痛がってるよ?」

「な、なによ! 私はこいつの安全弁として、仕方なく握ってあげてるんだから!」

 ……はぁ、今日も朝からこれだ。幸せな悩みと言えばそうだが、俺の心臓が王都へ行く前に破裂しそうである。


 その時、店の入り口の鈴がカランコロンと鋭く鳴り響いた。

 冷たい風と共に、深紅のローブを纏ったフードの人物が滑り込んでくる。前話でドラウンド商会の悪漢たちを吹き飛ばした際、遠くの物陰から俺たちを凝視していたあの怪しい人物だ。

 セリアがとっさに反応した。繋いでいた俺の右手を引いて自分の方へ寄せつつ、左手で腰の訓練用木剣の柄をぎゅっと握りしめる。見習い剣士としての警戒心が、彼女の体を瞬時に闘争モードへと切り替えたのだ。

「誰よ、あんた」

 セリアの鋭い声に、フードの人物は小さく笑い、ゆっくりとフードを後ろへ滑らせた。

 現れたのは、知的な光を宿した切れ長の目を持つ、整った顔立ちの青年だった。年齢は二十代半ば。その身のこなしには、ただの冒険者や商人とは一線を画す洗練された気品がある。

「やあ、初めまして。まさかこんな朝早くから、君たちがこのような『甘い共同作業』にいそしんでいるとは思わなかったよ」

 青年は口元に皮肉げな笑みを浮かべ、優雅に一礼した。

「私は王立魔法アカデミーの教授代理、エドワードと申します。君の噂を聞きつけ、この辺境の町まで迎えにきたのさ」

 王立魔法アカデミー。王都に鎮座する、この国で最も権威ある最高峰の魔法学校だ。

「俺に、何か用ですか?」

 俺は警戒を解かず、セリアとエリーの手を繋いだまま問いかける。

「単刀直入に言おう。みのるくん、君の魔法は非常に興味深い。特に、その『手繋ぎ無詠唱カスタマイズ魔法』とやらはね」

 エドワードの目が細められ、まるで俺の服の上からすべてを透視しているかのような鋭い光を放った。俺の背中に冷たい汗が伝う。

「……っ!?」

「先日、君がドラウンド商会の手先を撃退した時の魔法を見た。初級魔法『そよ風』と『砂遊び』を、それぞれ同時に五倍の出力にカスタマイズしたね? 通常の魔術師であれば、中級から上級一歩手前の威力を、君はわずか八歳にして、無詠唱で放った。それだけでも異常だが……何より面白いのは君の『仕様』だ」

エドワードはニヤリと口角を上げ、俺たちの繋がれた左右の手に視線を落とした。

「君の強大すぎる魔力は、彼女たちという『触媒』を介して初めて発現する。そして触れ合う『鍵』が増え、密着度が増すほどに、君の出力制限リミッターは解放される……。つまり彼女たちは君の安全弁であり、同時に限界突破のスイッチというわけだ。違うかね?」

 完璧に見抜かれている。俺はごくりと唾を飲み込んだ。この男、ただの教授代理じゃない。

「君のような超弩級の原石を、こんな辺境の町に埋もれさせるわけにはいかない。王立魔法アカデミーは、君を『特待生』として迎え入れたい」

 エドワードは懐から、白銀の刺繍が施された上質な推薦状を取り出した。

「だが……」

 俺が口を開きかけると、エリーが不安そうに俺の袖を引っ張った。その瞳には涙が浮かんでいる。

「みのるくんが、王都に行っちゃうの……? そんなの嫌だよ……!」

「王都なんて遠すぎるわよ! みのるが一人でそんなところに行ったら、誰がこいつの魔力発動を手伝うのよ! それに、こいつは私たちがいないとただのポンコツなんだから!」

 セリアも激しく動揺し、繋いだ手に爪が食い込むほどの力で握りしめてくる。

それを見たエドワードは、くつくつと喉を鳴らして笑った。

「話は最後まで聞いてほしいな。君の能力の特性上、彼女たちと離れることは不可能だ。だからこそ――彼女たち二人も、君の『専用従者』兼『相棒』として、アカデミーへの同行と入学、そして寄宿舎での同居を特別に許可しよう」

「「えっ!?」」

 セリアとエリーの声が綺麗に重なった。

「従者……私が、みのるの……?」

 セリアは驚き、すぐに顔を真っ赤にして視線を泳がせた。

「ま、まぁ、アンタはドジだし、私がそばで守ってあげないとダメよね! 仕方ないから、王都でも面倒見てあげるわ!」

「私も、みのるくんのお世話なら喜んで! 王都でも、ずっとずっと一緒だね、みのるくん!」

エリーは喜びで顔を輝かせ、俺の左腕を先ほどよりも強く抱きしめてきた。柔らかい感触がダイレクトに伝わり、俺の胃がさらに悲鳴を上げる。

「おい、まだ行くとは決めてないぞ……」

 俺が苦笑すると、エドワードの表情が少し真剣なものに変わった。

「行くべきだよ、みのるくん。前話で君が撃退したドラウンド商会の後ろ盾――王都の汚い汚職貴族たちが、君の魔法の噂を聞きつけて動き出している。このままこの町にいれば、近いうちに彼らの私兵団が押し寄せるだろう。だが、我がアカデミーの学長派閥は、彼ら対立貴族を抑え込める王家直属の権威を持つ。アカデミーに入れば、彼らも手出しはできない」

 なるほど、逃げるよりも王都の巨大な盾に隠れる方が安全というわけか。断る理由はなかった。

「……わかった。俺たち、王都へ行くよ」

俺が決意を口にすると、セリアもエリーも、力強く頷いた。


 それからの数日間は、嵐のような慌ただしさだった。

 エリーの親父さんに事情を説明すると、大粒の涙を流しながらも「娘たちをよろしく頼む。そして、でっかい魔法使いになってこい!」と背中を押してくれた。セリアの家族からも、たくさんの旅支度を預かった。

 そして旅立ちの朝。

 町外れに停まった、王都行きの大型乗合馬車に俺たちは乗り込んだ。

 だが、馬車の中は想像以上に狭かった。

「ちょっとみのる! 揺れるたびに私に肩を押し付けないでよ! 意識しちゃうじゃない!」

「仕方ないだろ、座席が狭いんだから。俺だって窮屈なんだよ」

「ふふ、私はみのるくんの隣でとっても幸せだよ。ほら、もっとこっちに来て、ぎゅってしよ?」

「エリー、あんたどさくさに紛れてみのるの太もも触ってんじゃないわよ!」

狭い密室内で左右から押し寄せる二人の体温と、やきもきした視線。

 王都までの馬車旅は、出発した瞬間から俺のHPを削り取るに十分なドタバタ劇の幕開けだった。

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