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13話 ケイコの躾け

「何じゃ何じゃ・・・何かあったんか?」

桃子の驚いた声に老人が起床した。


「あ、あのケイコさん・・・冗談ですよね・・・?」

桃子は恐る恐るケイコにそう尋ねた。


「私が冗談を言うような人に見える?」

桃子は、「全然そうは見えません」と、心の中で答えた。


「あなた・・・伝えてなかったの?」


「あーいやー・・・バタバタしてて伝え忘れてたわい・・・」

老人はあまり話を聞いていなかったのだが、雰囲気を感じてなんとなく理解したのか、そう答えた。そして、ケイコは老人の言葉を聞いて、深いため息をついた。


「まあそう言うことじゃ。殺し屋修行、頑張るんじゃぞ桃子」

老人は他人事のようにそう言った。


「い、いやです!なんでそんな危ないことをしないといけないんですか!」

なぜ今日出会った赤の他人の家に行き、一緒に住むのか。

どうしてその人たちから殺し屋の技術を学ばないといけないのか。

疑問が山のように湧いて出てきたが、急な話だったため、そのことを言葉にすることが出来ず、声を震わせながら狼狽していた。

その様子を見ていた老人と、ケイコは少々戸惑いを見せていた。


「も、もういいです!ここで下ろしてください!」

2人の様子を見ると、どうしても話が通じなさそうだったため、必死にそうお願いをした。


「それはダメよ。命を狙われてたばっかりなのにここで降ろせば危ないわよ」

具体的な要求をしたことで、ケイコの口からもはっきりと否定の内容であったが答えが返ってきた。


「で、でもこのまま家に向かったら私、殺し屋になるんでしょ⁉そんなの絶対に嫌‼」

叫び声をあげながら錯乱状態になっており、先ほどのBarで命を狙われた時と全く同じ状態だった。


「・・・どうしても嫌なの?」

ケイコが静かにそう問いかけると、


「ぜ、絶対に嫌!また危ない目に合うなんてごめんよ‼」

間髪入れずに大声で泣き喚きながら答えた。


「そう・・・仕方ないわね・・・」

ケイコは諦めたように小さく呟くと、ゆっくりとケイコは左手に持った銃をこちらに向けた。


「じゃあここで死になさい」

ケイコは運転席と助手席の間から体を捩るようにして後ろを向いており、この時初めて真正面でケイコの顔を見た。その時の表情は恐ろしいほど無表情で、銃をこちらに向ける行為に対して何も感じていないようだった。


「・・・えっ?」

暗い社内の中でケイコが自分に何を向けてるのか分からず、小さく驚いた声だけが上がった。それと同時にまるで時間が止まったかのように、先ほどまで泣き喚いていた声がピタリと止まり、緊張した雰囲気が車内には漂っていた。


「はぁ・・・」

老人も一緒に怒られているかのような気まずい表情をしながら、小さなため息を漏らしていた。


「もう一度言うわ。あなたは私達と一緒に暮らして殺し家修行をしてもらう。断れば今ここで殺す」

ケイコの表情や口調には相変わらず変化がなかったが、今までで一番重い言葉に聞こえた。間違いなく脅し文句で言っているわけではないことが本能的に感じた。


「このまま家に向かうわよ?良いわね?」


「コクッコクッ」

桃子は高速で首をうんうんと上下に振った。思考が回っておらず、勝手に首が動いており、反射的に壊れた機械のようだった。

この瞬間、ケイコに逆らうという選択肢が頭から消えており、ケイコに対する恐怖心で言葉を発することも出来なかった。


「・・・よし」

しばらくこちらの様子を見た後にそう言うと、ケイコは体の向きを正面に戻し、銃を内ポケットに入れ、再びハンドルを両手で握り直した。


「おー怖ぁ・・・ワシが桃子に言った時は全然言うこと聞かなかったのに・・・」

老人は改めて自分の妻を恐ろしく感じていた。


「何か言ったかしら?」

老人の独り言が聞こえたようで、ケイコがそう反応した。


「いんや・・・それよりも前向いて運転せんと危ないぞい・・・」

老人は話題を変えるように別の話を振った。


「こんなまっすぐな道で事故を起こす方が難しいわよ。ところでハリーに死体処理の依頼を入れておいたわよ。どうせお相手が勝手にしてくれるとは思うけど」


「おぉ助かるわい・・・まぁ念の為じゃ」

おそらく先ほどのビルで倒れている遺体の処理のことだろうと察していた。どうやらこの殺し屋夫婦には別の仲間がいるようだった。


「桃子さん・・・って言ったわね・・・?」


「・・・あ、は、は、は、はぃ!!!」

急にケイコが自分に声をかけたことに驚いたのか、声を震わせながら咄嗟に大きな声で返事をしていた。桃子の中ではケイコに逆らったらとんでもないことになることを本能的に理解していたようで、まるで軍人が上官に敬礼するような勢いだった。


「今日はもう良いけど、明日から私の言うことには必ず逆らわずに従うこと。良いわね?」

「わ・・・わわ・・・わかりましたぁ!!!」

「ふぅーやれやれじゃのぉ・・・」

軽自動車は高速道路を降りたようで、目の前には「ようこそ長野県へ」と書かれている看板が見えた。


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